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共鳴アヴェンジホワイト  作者: 朝露ココア
18章 地獄死闘舞台バロメ
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47. リシュ親神国、あつい

「Fucking Hot!!!!!!」


 空港から出るや否や、マリーの叫び声が響き渡った。

 ──暑い。現在リシュ親神国の気温は三十八度である。


「お兄ちゃん、帰ろ」


「何言ってるんだマリー。仮にも水の精霊と契約してるなら暑さに喘ぐな」


「残念ながら法律と言うものがあります。精霊術は戦闘行為以外では使用が禁止されています」


 四属性を操れるのだから水なり風なり、魔法で涼しくすればいいと思うのだが。

 現に同行者のルチカは着込んでいても涼しい顔をしているし、タナンに至っては汗すらかいていない。タナンは元気よく歩道へ飛び出し、喧しくアルスを呼んだ。


「ルス兄! コロシアムはどっちだ!?」


「ここから新幹線に乗って一時間。そう焦るな」


 もっとも、彼が四六時中元気なのは神族だからである。定期的に肉体を更新したり、感覚を遮断したりして迷惑なことこの上ない活発さを維持しているのだ。

 アルスも一応神族だが、タナンのように騒ぐ気力はとてもじゃないが出せない。


 雪国のディオネ民からすれば、この暑さは猛毒である。アルスは旅慣れている上、いっそ体感温度を遮断してしまえば良いので、そこまで苦悩はしないのだが。


「さあ行こう。えっと……どっちに行けばいいんだったか」


 地図を見るも、複雑に道が入り組んでいてどちらへ進めば駅に辿り着けるのか分からない。

 過去から戻った副作用として、近代の複雑化した都市で迷うという代償がアルスにはあった。ルチカの助けを借りつつ……騒ぐタナンを宥めつつ……唸るマリーを心配しつつ……彼は目的地へと向かうのであった。


 ~・~・~


 リシュ親神国のコロシアムの起源は、古代に遡る。親神の名を冠するように、この国は旧くより神々を重んじる思想を培ってきた。

 そして神々に対して戦を捧げると言う目的の下、闘士たちはコロシアムで戦いを重ねてきた歴史を持つ。


 もっとも、神々が人間の闘技など観ているわけもなく……唯一観戦していそうな戦神も既に死している。歴史を差し置いて、闘技大会は既に単純な祭りとなっているのが現状。


 荘厳な造りの門を潜り、フロントに辿り着いたアルスとマリー。午後から試合開始なのでしばらく時間がある。タナンは試合が始まるまで観光へ、ルチカはホテルの予約を取りに行っている。


「おや……そのお姿は間違いない! アルスさんですね?」


 カウンターの内側から、小太りで長身の中年男性が話しかけてきた。彼は品格あるスーツに身を包み、二人の顔を見定めるように視界を巡らせる。


「わたくし、本コロシアム支配人のシャンバ・ユークと申します。よくぞお越しくださいました」


「ああ、あなたがホワイト家にチケットを送ってくださったのですね。はじめまして、アルス・ホワイトです」


「同じく、霓天の家系マリー・ホワイトと申します。以後お見知りおきを」


 横に立つマリーもそつのない態度で挨拶を終える。


「んほほほ……まさか妹君もおいでになるとは。実はわたくしの娘がアルスさんのファンでしてね、お招きしようかと考えたのです。バトルパフォーマーを辞めてしまったそうで、活躍を目にする機会がすっかりなくなってしまったとか」


「なるほど……それは娘さんをがっかりさせるような真似をしてしまいましたね。すみません、僕にもやらなければならないことがありまして」


 傍から見ればだらしないアルスにも多少のファンは存在する。シャンバの娘もその中の一人だったのだろう。しかし彼は創造神を救う手段を探すべく、世界を巡らねばならない。


「いえいえ、アルスさんも忙しいでしょお? そうだ、娘にサインを頂きたいのですが」


「もちろんです。この度はお招きいただきありがとうございます」


 彼はさらさらとペンを走らせ、価値の程が分からないサインを作り出す。これが鳴帝イージアのサインであれば相当な値打ちがつくのだが。転売されないといいなあ……と思いつつ色紙をシャンバに手渡した。


「試合開始は午後でございます。今年はなかなか癖のある闘士たちが集っております故……アルスさん、マリーさんから見ても面白い闘いになるかと。お楽しみくださいね、んほほほ……」


 そう言い残してシャンバはサイン片手に去って行った。

 マリーが彼の背を見つめて呟く。


「なんかあの人、笑い方キモいね……」


「こら、人の笑い方を笑うな。まあ若干……」


 人に聞かれたらどうしようもない炎上案件の会話。

 暑さで頭がおかしくなっていたと言い訳すれば問題ないだろう。


 アルスは徐に張り紙を見て、今大会の出場者を確認。


「……ん? いくらか知っている人の名前があるな」


 彼は自称ワールドワイドな人間であり、そこそこ顔が広い。同じ武人であれば関りを持つ者もそこそこ居る。


「ヤコウさんもいるじゃん」


「え……? あの人、大会に出るんですか?」


 亡き父ヘクサムの友にしてマリーの上司、自堕落な聖騎士ヤコウ・バロールの名が書いてあった。二人からすれば彼はまったく動的なイメージがない人間なので、闘技大会に出場するイメージも無い。

 聖騎士である以上、実力はたしかなのだが。


「まあヤコウさんの戦いが観れるのは貴重な機会だ。お……エニマん」


 『刹那の竜闘士』エニマ・ノイセ。

 バトルパフォーマーの一人であり、アルスとも面識がある。遠路はるばるリンヴァルスからリシュまで出張しに来たらしい。


「わたしの名を呼んだね、天覆四象」


「ん、噂をすれば……というやつだね。君も出るのか」


 若草色の艶のある髪を束ね、アルスを射抜くは赤褐色の瞳。

 彼女は堂々とした足取りでアルスの前に立ち、誇らしげに彼を見上げた。どこか挑発的な視線を向けている。


「今年はあるるんも出るのです?」


「いや、観戦。妹たちと一緒にね。君の活躍を期待しているよ……バトルパフォーマーとして恥のない闘いを見せてくれ」


「バトルパフォーマーから逃げた軟弱者がよく言うよね。それに……この大会はただ勝てばよくて、観客に魅せる必要はないの。普段とは違うわたしの闘いを披露してあげるよ。そしてわたしに惚れるがいい、あるるん」


「それはないかな」


 彼女の軽口を流し、アルスはマリーを連れてコロシアムの外へ出ていく。

 エニマは些か奇妙な会話をするので、マリーに聞かせすぎると悪影響が出そうだ。だが、ベロニカという奇人とよく話している時点でもう手遅れかもしれない。


「あの人もお兄ちゃんの知り合いなんですね」


「変な人だよな……」


「やっぱり奇人には奇人が集まるんですね」


「うん、そう……だね……?」

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