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共鳴アヴェンジホワイト  作者: 朝露ココア
17章 真実審判剣グニーキュ
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34. 大師匠の下へ

 魔国ディア。

 魔族王ルトが治める地にして、魔族の楽園。王城へ一人の来客があった。


「久しいな、ルト」


『イージアか……お主も変わりないようだ。破壊神の騒乱以降、消息を絶ったと聞いて心配していたが……杞憂であったようだな』


 かつて共に魔王カラクバラを討った戦友を前にして、イージアは懐かしさに浸っていた。

 ……が、本題を思い出してすぐに彼の心情は暗いものになる。


「君に伝えたいことがあって来た」


『……聞こう』


 ルトは前脚で石畳を叩き、イージアの声に耳を傾けた。


「君の弟……当代魔王ルカミアの本拠地の場所が分かった。シロハ国のサーサエ廃城だ。私も視察してみたのだが、間違いない。魔王軍の気配がたしかにあった」


『なるほど……我が弟が魔王と呼ばれているのは承知していた。もう二度と人間の前には現れぬと、そう誓いを聞き届けたはずだったが……甘かったようだな』


「私もカラクバラに魔族の未来を背負うと約束した手前、この問題を蔑ろにはできない、何より、六花の将の名をこれ以上汚す訳にはいかないからな」


『ふむ……シロハは遠き国。されど、家族のためには千里をも駆けるが王の矜持。久方振りに大地を駆けるとしよう』


 魔族王は咆哮を上げ、魔族の影に終止符を打つべく立ち上がった。


 ~・~・~


 アリキソンはシロハ国へ到着した。

 ルフィアの北方面に位置する、マリーベル大陸の端の国。年中清らかな風が吹き、風車による発電が特徴的……ということくらいしか知らない。彼はあまりこの国には詳しくないのだ。


「さて……親父はどこにいるのやら」


 父親とは連絡先を交換していない。

 うつ病になった後に父は魔眼携帯を替えたようで、その後に連絡先を教え合う機会はなかったのだ。


 さすがに魔王城……サーサエ廃城には行っていないだろうと彼は推測する。アリキソンを探しに行った手前、フロンティアの近くの人里で息子の目撃情報を聞いているのかもしれない。

 地図を確認しつつ、アリキソンは進路を定めた。



「現在、これより先の区画は立ち入り禁止となっております」


 アリキソンはサーサエ領に最も近い街へ向かおうとしたが、通行止めを食らってしまった。

 現在は街への交通便が全て封鎖され、一般人は立ち入ることのできない状況にあるようだ。


「理由をお尋ねしても?」


「最近、結界を破ってフロンティアの魔物が街に流入する事態がありました。政府は現在原因を調査中ですので、解決までお待ちください」


「ありがとうございます」


 規制が敷かれているのならばタイムもこの先には居ないだろう。ならばアリキソンが先に向かう意味はない。

 彼は魔王軍を倒しに来たのではなく、父に聖剣から否定された事実のみを伝えに来たのだから。


 〜・〜・〜


 アリキソンは隣街へと戻り、どうしたものかと考え込む。いっそルフィアに戻って父が帰るのを待つのもアリだ。

 だが……


「……」


 不思議と、この国を離れるという選択肢を彼の心は取りたがらない。木立と家々に挟まれた街路で、涼しい風が吹き抜ける。噂通りシロハの風は澄んでいる。


「あれ? お前……アリキソンじゃないか?」


 木の陰から見覚えのある顔が現れた。黒い瞳と黒い髪。男性にも女性にも変身できる特異な能力を持つ者。


「クロイムじゃないか……なぜお前がシロハに?」


「俺は店の用事で出張だ。アリキソンこそどうしてここにいるんだ?」


 この国で知り合いと会うとはアリキソンも思っていなかった。本当に自分は運が悪いものだと、アリキソンは自嘲する。彼が騎士を辞めることは数日後には公になるが、はたして話してもいいものか。

 いや、わざわざ話す必要もない。


「俺は観光のようなものだ。こんなところで偶然会うとは本当に奇遇だな……」


「おう、でも運が良かったかもしれないぜ。もうすぐこの国の首都エブロは危なくなるそうだ」


「なに……? 危険?」


「まあ、俺もよく分かんないだけどさ。シレーネの師匠……つまり俺の大師匠が、エブロには危ないから近付くなって言ってたんだ。お前も向こうには行かない方がいいぜ」


 今アリキソンたちが居るのは首都からそれなりに離れた地方都市だ。

 しかし、危険とはいかなるものか……なぜクロイムの大師匠とやらは予言紛いの忠言をしているのか。


「ふむ……その大師匠とやらに話を聞かせてもらえないか?」


 アリキソンは無意識の内に問題について聞こうとしていた。

 騎士の彼であれば怪しい問題に首を突っ込んでいたので、まだその癖が抜けていない。他国でどんな問題が起ころうが、知らぬ存ぜぬで目を背けていればいいものを。

 首都にタイムが居る可能性もあるので、話くらいは聞いておいて損はないだろう。


「別にいいけど……大師匠はかなり気難しい性格だから気を付けろよ。何があの人を怒らせるか分からねえ」


「そ、そうか……善処する」


 ~・~・~


 なぜかクロイムはアリキソンを高速道路の外へ連れ出し、結界の柵を越えてフロンティアの森へ連れて行った。


「……どこへ行くんだ?」


「いや、それが大師匠の家はフロンティアの中にあるんだよ。俺も大師匠の家に着くまでに魔物に襲われそうになって……死ぬかと思ったぜ。今はアリキソンがいるから安心だけどな」


 どうやらクロイムの大師匠は随分と変わり者のようだ。

 アリキソンは人に忖度するスキルには自信があるが、彼の忖度でも通用するかどうか。


 時折蠢く影が茂みを揺らす。獣か魔物か分からない。シロハ国にはそこまで危険なフロンティアはないので、強力な魔物は出ないと思うが……念の為アリキソンは警戒しておく。


「こっちの獣道を曲がって……この坂を下りる」


 複雑な森林をクロイムは迷わずに進んで行く。彼は記憶喪失だが、記憶力は良いようだ。アリキソンはとてもじゃないが道を覚えられそうにない。

 そして山肌にぽっかりと開いたトンネルを抜けた先には──


「ここが大師匠の家だ」


「これは……!」


 巨大な塔が聳え立っていた。

 これほど巨大であれば衛星で発見できそうなものだが……


「なるほど、魔結界か」


 神除けの結界に近しい、遠見の視覚を遮断する結界が塔の周囲に張られていた。これほどの技術力は到底個人で用意できる代物ではないと思うが……大師匠とはいったい何者なのだろうか。

 聞くところによれば、大師匠とやらは一人でここに住んでいるらしい。もしもこれらの建築物や結界を単独で用意したとなれば相当な傑物だ。


「さて……行くぞ。くれぐれも失礼のないようにな。俺にまで被害が及ぶんだから」


「ああ、分かっている」


 クロイムの忠告に頷き、アリキソンは塔へと歩いて行った。

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