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共鳴アヴェンジホワイト  作者: 朝露ココア
2章 アルス・ロンド
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38. 帰還の飛翔

 晴天の景色が白く罅割れ、馴染んだ世界アテルトキアの空気が肌を撫でる。

 灰色に霞んだシエラ山の頂に立っていた。


「む……?」


 上空に強大な気を感じた。もっとも、それは馴染んだ気なので警戒する必要はない。


「アルス、試練を乗り越えましたか?」


 天から舞い降りたのは天神ゼニア。

 美しく繊細な羽がひらりと舞い落ちる。


「うん、思っていた試練と大分違ったけど」


「そうですか……晴天の試練の内容は神々でも把握していません。アテルでも介入できないので、何かあったらどうしようかと」


 それは戦神から聞いた。そして、試練の内容を口外してはいけない約束も交わした。


「……これから龍島へ戻るの?」


「いえ、ルカさんは帰って来なくても良いと言っていました。試練に合格した旨は私が伝えておきますね。きっと喜ぶでしょう」


「そっか。じゃあ、ここから直接ディオネへ?」


「はい、行きましょう」


 折角だから師匠に直接伝えたかったが……今度会いに行こう。

 早く家族の下へ帰りたいのもまた事実だ。


「うん……帰ろう」


 二年半の月日を経て、僕は故郷へ回帰する。


 遥かなる大地を天空から見渡す。

 いつも見上げていた青空だ。


 でも、昔よりもずっと広がって見えた。


              ----------


 ディオネ神聖王国南西部、ベンテ平原。

 巨大な鳥に化身したゼニアから、なだらかな大地に降り立つ。


「人目のある街中には降ろせないので、この平原に降ろしますね。少し歩けば街に着くはずなので、そこから首都へ向かってください」


「うん、ありがとう。師匠にもよろしくね」


「はい、それではまた」


 ゼニアに別れを告げ、草原を見渡すと丘の向こうに街並みが見える。ここから自宅のあるゼロント領に帰るには、あの街から車なり電車なりで帰ればいい。


「さあ、行こうか」


 心地良い風が吹き抜ける。こんな空気は久しぶりだ。


 逸る気持ちを抑え、僕は街へ歩を進めた。



「……しまった」


 何事も無く街へ入り、ふと立ち止まる。


「金が無い」


 金がなければタクシーにも電車にも乗れないし、宿にも泊まることが出来ない。久々にまともに食事なり風呂も楽しみたいと思ってたのに……


「折角人里に戻って来たのにな……」


 僕の所持品は……くすんだ剣に、衣服のみ。

 売れる物もないです。


 色々と考えたのだが、誰か他の人に頼るしかない。実家に連絡を取ってもらおう。

 という訳で、詰所へと向かおうかな。



 詰所で実家に連絡を取り、母の懐かしい声を聞いた。明日父がこの街まで迎えに来ることになり、それまで待たなければならないみたいだ。

 久々に母の声を聞けて、積もる話もできて満足だ。僕を師匠の元へ送り出した後、父とかなり喧嘩したらしい。

 父の独断で僕を送り出したのか……


「明日までは、時間を潰さないとな」


              ----------


 穏やかな街中を歩く。

 リーブ大陸で最も栄えているディオネの街というだけあり、活気に溢れているな。

 丸みを帯びた屋根が連なり、どこまでも続いている。


「ああ……どうしましょう……」


 ふと、何気なく路地裏に目を向けると項垂れて落ち込んでいる女性が居た。

 別に僕が力になれることはないよな。赤の他人だし本来ならスルーだけど……


「……?」


 その容姿が気になる……左手の甲に刻まれた紋様。

 変な模様だ。なんか奇怪な機械も持ってるし。あ、ダジャレじゃないよ。


「あの、大丈夫ですか?」


 思わず話しかけてしまった。

 まあ、いいか。


「え、ええっと……あなたと同じくらいの年齢の女の子を見ませんでしたか? こう、紺色の髪で……ちょっと偉そうな態度の子なんですよ」


 なるほど、迷子か。

 紺色の髪の女の子か……見かけた覚えはないな。


「いえ、見ていませんね。僕も探しますよ」


「そうですか……いえ、ありがとうございます。探すのは……私だけでしますので」


 そんな彼女の言葉を遮り、


「おい、シレーネ! また勝手に居なくなって……いい加減にしろ!」


 びっくりした! 怒号が突然飛んできた。

 その発生源は、紺色の長髪に、魔道士の法衣を着た少女だった。


「あ、先生! よかった……すみません、人が多くて迷っちゃいました」


 大人っぽい人の方が迷子だったのか……

 明らかにこの女性の方が歳上なんだけど。


「えぇ……とにかく、解決したみたいですね」


「あ、ありがとうございます! それでは、失礼しますです!」


 そう礼を言って、彼女は先生と呼んだ少女のもとへ走って行った。


 よく分からないけど、随分と慌ただしい一幕だったなあ……



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