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共鳴アヴェンジホワイト  作者: 朝露ココア
17章 真実審判剣グニーキュ
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28. 真実を前に、彼は

 ソレイユ軍が展開した結界に阻まれ、妖狐の獄炎は弾かれる。

 同時に天より降り注いだ極光が、一気に数体の妖狐を駆逐した。眩き光を創出した者は……


「これが光魔術。光が輝天の専売特許となる時代は終わりです。全ての魔導はソレイユに通ず。さあ、魔王軍に鉄槌を下す時……」


 魔導星冠、リリス・アルマ。

 彼女は輝天の神能でしか扱えない光魔術を使いこなして見せた。この事実は大きな衝撃となる。国防兵器にも匹敵する光魔術をルフィア以外の国が扱ったということは、国家間のパワーバランスが大きく崩れることを意味するのだ。


 同時、戦場の一角より青き波動が爆ぜる。


「なんです……?」


 遠見の魔法を用いてリリスが魔力の乱れた方角を観測すると、登山部隊に追従していたはずの霓天が剣を振るっていた。彼は目にも止まらぬ速度で剣を振り抜き、瞬く間に妖狐を殲滅していく。


「……馬鹿な。術式アビスの観測では、霓天の能力は神域に留まっていたはず。しかし、あの速度でカラクバラの複製体を斬り捨てる様相はまるで……」


 彼はディオネで英雄と謳われ、その実力をリリスは把握していた。しかし事前の分析と大きく異なり、彼の実力は想定を遥かに上回るものである。

 アルスの実力はカラクバラの複製体一匹と同等の実力だと思っていたが、どうやら認識は改めねばならないようだ。


「アルス・ホワイトの魔力波を重点的に観測しなさい。カラクバラの複製体の殲滅は私ひとりで十分です」


 今回、ソレイユ軍が見据える目標は魔王軍の討滅ではない。魔王討伐は一つの過程に過ぎず、彼らの目的は各国の軍事規模の把握。魔力波を測定する魔法陣を設置したのもそのためだ。


「あの力は八重戦聖にも匹敵する。我らが結界構築の脅威になりかねませんね……或いは助力となるでしょうか」


 彼女は想定外の事態に困惑し、そして得体の知れぬ少年を警戒した。


 ~・~・~


 扉を開け放った瞬間、アリキソンの全身を襲ったのは異様な雰囲気であった。

 寒気を覚えるほどの静寂。魔力感知能力が低い彼でさえも、城の中に動体がほとんど存在しないことが分かる。

 傍の騎士が困惑したように計測結果を示した。


「魔王城内部の魔力感応を計測しましたが……生命体は一つのみ。おそらく玉座の間に居ると思われます……っと、通信が入りました! 麓と登山の部隊に大規模な襲撃があったとのことです!」


「やはり魔王城は罠だったか。俺は一つだけ存在する生体反応とやらを調べてくる。お前たちは下方の援護に向かってくれ」


 命じるや否や、魔王城の内部へ向かって足を踏み出す。部下はアリキソンを止めようとしたが、部下が手を伸ばした頃には、彼は既に凄まじい速度で上階へ駆け上がっていた。

 可及的速やかに魔王城の敵を確認・排除し、下方の援護へ向かう。最善策を彼は選択したつもりだった。



 そして、最上階。

 辿り着いた玉座の間にて、ひっそりと佇む者の姿があった。彼は男の割には長い白髪を靡かせ、真紅の瞳を揺らしてアリキソンの姿を捉えた。


「お前は……魔王ではないな。何者だ?」


「黄金の髪に、麗しき美貌。そして腹の底に響くような勇ましい声。ああ、きみは碧天だね。僕は魔王の副官、ローダン。今はこの城で留守番をしている」


「魔王はどこにいる」


 彼の率直な質問に、ローダンと名乗った男は肩を竦める。


「いないよ。魔王はこのルフィア……いや、マリーベル大陸にすら存在しない。我々だって、連合軍が攻めてくると知っていながら退散しないほど馬鹿じゃない。まあ、魔王サマはどんな大群にも正面から突っ込んで行くと思うけどね。アイツは理性がないから」


 つまるところ、実質的な魔王軍の指揮権はこの副官にあるということだろうか。

 周囲に罠が仕掛けられていないか慎重に気配りしつつ、アリキソンはローダンから情報を引き出そうと試みる。


「目的はなんだ?」


「無論、ニンゲンの戦力を削ぐこと。麓には旧魔王様の複製体を放ち、山の中腹部には魔物を潜ませておいた。ああ……誰にも従わないはずの魔物を統率できているのは、魔王様の神能のおかげだね。僕が操っているわけじゃないから、僕を倒してもこの事態は収まらない」


(この男……異様なまでに情報を吐くな。奴の言葉は真実なのか? それとも罠か……)


 敵の言葉を鵜呑みにしては危険だが、何も信じないというのも短絡的だ。慎重に言葉を吟味しつつ、アリキソンはなおも対話を試みる。


「なぜ魔王軍は人間を攻撃する?」


「きみは英雄と担がれている癖して、対話を試みるんだね。温和な姿勢は評価したい。ニンゲンの英雄といえば、力で全てを蹂躙するイメージしかないからね。……ニンゲンを攻撃する理由か。きみは魔族をどう思っている? ……いや、聞き方が悪かったな。我々とは異なり、人里でニンゲンと仲良く暮らす魔族をどう思う?」


「質問の意図が分かりかねるが……人里で暮らす魔族には好印象を抱いている。共に手を取り合う大切な仲間だ」


「じゃあ、その『仲間』と呼んだ魔族が、かつて迫害されていた歴史については知っているかい?」


 先の見えない話に当惑しつつも、彼は真摯に答え続ける。ローダンには話の先が見えているのだから。


「ああ。多少の迫害はあったらしいな。もっとも魔族王の出現により、両種族は手を取り合うことになったが……」


「──『多少』。多少の迫害……か。いやはや、アレが『多少』とは片腹痛い。手を差し伸べた魔族の腕を斬り落とし、対話を試みた魔族の口に矢を撃ち込んだアレが、多少ね。ずいぶんとニンゲンは暴力的なようだ」


 ローダンの言葉に、アリキソンの心は激しく狼狽した。

 だがしかし、彼は眼前の魔族から受けた言葉を素直に受け入れることができた。無論、認めたくない事実ではあるが。


「そう、か……実際の被害者であるお前が言うのならば、話は真実なのだろう。人間は自らの汚点を隠し、改竄する欲深い生き物だ。今更謝ったところで意味はないが……許してくれ」


 頭を下げる。人間としての誇りを蔑ろにする行為でもあった。


「やはり……きみはあの男(・・・)と同じだ。同じだけれども、まだ脆い。どっちつかずで、不明瞭。戦意を放ちながらもなお、自らの殺意には迷いを覚えている。これだからニンゲンは嫌いなんだ」


「……お前が人間を襲うのも、過去の憎悪が理由か」


「いいや? 僕はとうの昔にニンゲンへの憎悪は消え去っている。だってきみのように、覚悟があり、魔族を尊重するニンゲンをたくさん見てきたからね。ただ……ルカミア、我が王は別だ。アイツも昔は人間への憎悪を捨てたはずだった。だけど神能を埋め込まれて精神が狂い……憎悪をだけを抱く怪物と成り果てた。もはやアレは止まらない、抑えられない。そしてニンゲンには超えられない」


 ローダンは旧くより魔王を知るそうだ。

 かつてカラクバラという旧魔王に従って魔国を攻めたこともあったと言う。だが、ルカミアは霹靂に貫かれ、二度と人間の前には姿を現さぬと決意した。


 憎悪は憎悪しか生まない。摂理を知ったルカミアとローダンは僻地へ逃れ、ひっそりと暮らしていた……そう彼は語る。


「いいかい、碧天。争いは止まらない。たとえ平和に見えるこの世でも、たとえ争いを望まぬ確固たる意志があっても、大いなる因果によって争いは引き起こされる。それが世界(アテルトキア)だ。正道とは常に、己が主観によって形作られる道である」


「俺は弱い。魔族と人間の歴史を背負えない。どちらが正義なのかは分からない。力だって噂以上のものはない。アリキソン・ミトロンは英雄ではない。だから俺は……どうしたらいいのか分からない」


 アリキソンは思わず俯いてしまう。

 周囲に部下の騎士がおらず、敵のみが立つ今だからこそ、本当の自分が表出しようとしていた。本当は魔王城に突入するのも怖かった。勝てる自信はなかった。


 恐怖を乗り越えて辿り着いた先にて、自らが希望を背負う人間の非道を聞かされ。彼の心の憔悴は止まらない。


「青いな。どれだけ力があり、英雄と呼ばれても……まだ二十も生きていない赤子か。……少年よ、剣を取れ。きみに為し得ることは戦うことだけだ。そして、戦いだけが僕ときみで意志を伝え合う手段だろう」


 ローダンは双剣を鞘から引き抜く。

 同時に碧天も騎士剣を抜いた。


「一手、指南仕る」


「種族違えど、正道違えど、僕は千以上の時を生きた年長者。わが剣を伝って、この心を伝えよう。どうしようもない悲哀と、争いへの嫌悪を」

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