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共鳴アヴェンジホワイト  作者: 朝露ココア
17章 真実審判剣グニーキュ
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26. 作戦開始

 地王山は北ロク王国と地王領にまたがる大山脈。世界でも有数の険しい山であり、生息する魔物もかなり手強い。

 アリキソンが率いる部隊はソレイユ王国の軍と共に地王領から攻め入ることになる。


「アリキソン隊長! 迎撃システムの設置が完了しました!」


「そうか。後は登山に備えて英気を養うように伝えてくれ」


 山の麓から頂を見据える。魔王城は頂より少し下ったところに位置している。

 衛星から監視したモニターによれば、まだ魔王軍が動き出している様子はない。連合軍の動きに気付いていないということもないだろうが……


「……ふむ。貴殿が碧天殿ですか」


 ソレイユ軍の方角から、一人の奇人がやって来た。

 顔の片側に布を被った白髪の女性。彼女は布に隠されていない側の紫紺の瞳でアリキソンを見る。

 彼女の軍服を見る限り、魔導星冠の階位にある。やや特殊な呼称の階位だが、ソレイユでは最上位の階級を示すものであり、今回のソレイユ軍の指導者だ。

 彼女はくるくると髪の毛先を巻きながら首を振った。


「ふふっ……騎士団の副団長ともあろうものが、この程度の魔導の光とは高が知れる。……おっと失敬。拙は今回ソレイユ軍の指揮を任じられた、魔導星冠のリリス・アルマと申します。実は貴殿に折り入って頼みがあるのですが」


「……聞いてみよう。しかし他者を軽んじるのはあまり感心できんな」


 彼女がアリキソンに抱いた第一印象は『この程度』と聞こえた。剣の道に生きてきた者にとって、彼女の言葉は侮蔑に他ならない。

 僅かに沸騰する血を宥めつつ、彼は指揮官として努めて冷静に対処する。


「申し訳ない、本心ではありませぬ故。ほら、初手は好感度を敢えて低くする王道な展開ですから。我らが魔導王も初手は喧嘩を売っておけと仰っていました。……して、頼みというのは魔法陣を麓に設置させていただきたいのです」


「魔法陣? 対魔王軍に使うものか?」


「いえ、今回の戦で発生する魔力波の規模を測定するためのものです。いずれ来たる我らが魔導王のために、あらゆる魔導の術式は集めておくが吉」


 魔導王のために……ソレイユ王国に伝わる神話だ。

 今から五千年以上前。ソレイユ魔導王朝を築いた魔導王アビスハイムは、死した際に自らの身体を『魔術そのもの』へ変貌させた。そして世界中に彼の魔力は浸透し、やがて全ての魔術を習得して復活する……そんな神話だったはずだ。

 もっとも、あの時代に肉体を魔力化する術式など存在せず、ただのまやかしの神話に過ぎない。今しがたリリスが語った魔導王のために……というのも方便だろう。


「……構わない。しかし、集積したデータはルフィアにも共有してもらう」


「仕方ありませんね……魔力波の流れなどルフィアが知ったところで意味がないとは思いますが。一応データは共有いたします」


 一々鼻につく御仁だ……アリキソンは思う。ソレイユの人間は相手を侮辱しないと気が済まないのだろうか、と。


(……っと。こんな調子ではいかんな)


 多くの騎士の命を預かる身として、感情的になってはいけない。どれだけソレイユが魔術に優れた国であったとしても、ルフィアの経済力には及ばない。マリーベル大陸におけるルフィアの覇権は揺るがないのだ。


「では、設置に取り掛からせていただきます」


 そう言ってリリスは魔導士たちと共に魔法陣を設置し始めた。

 魔術に疎いアリキソンだが、怪しい魔法陣ではないことは分かる。


 いつまでも他国の軍を気にかけても仕方ない。彼は彼なりにルフィア軍の指揮を執る。

 今回の作戦では麓から登る部隊、そして戦闘機で魔王城へ直接向かう部隊に分けられる。アリキソンは後者で、先陣を切って魔王城へ向かう。危険性は高いが強者こそリスクのある作戦を請け負わねばならない。


「やあアリキソン。緊張してるか?」


「アルスか。大丈夫だ、問題ない」


 そしてアルスに登山部隊を任せることにした。流石に他国の人間なので正式な役職には任命していないが、彼が居れば戦力的に問題はないだろう。

 ちなみにユリーチには反対側の北ロクの方面から挟撃してもらう算段となっている。


「……なあ、お前はこの戦況をどう見る?」


 彼の質問にアルスは首を傾げた。

 それからしばし考え、アルスはテントの近くに捨てられていた剣を山へ向かって投擲した。剣は真っ直ぐに山肌へ突き刺さり、勢いよく岩を抉り抜く。


「見ろ、あれほどの衝撃があったのに魔物の影は見えない。つまり魔王軍は襲撃を既に知っていて、城へ籠城している。先遣隊のアリキソンはかなり集中的な砲火を浴びるだろうね。それにまだ魔王軍は技術を隠している。これは間違いない。先日ルフィアを襲った妖狐は呪術を交えて造られた生命体……不穏な匂いがするよ。もしくは、この地王山にそもそも魔物が居ない可能性も考えられるが」


 的確な分析。アルスの目はたしかで、戦況を読み違えない。

 つまり、アリキソンは相当な覚悟をして城へ突入しなければならないということだ。上空から城へ空爆する策もあったが、やはり地滑りを起こしてしまうので却下となった。

 少数で城を突破する他ないのだ。


「ただ、僕は君の心配はしていない」


「……その心は?」


「君だから。まあ多分……うん、あの城は脅威じゃない」


「それは、どういう……」


 不可解なアルスの言葉に眉を顰めた時、魔法陣の設置を終えたリリスが戻って来た。


「ただいま戻りました。……と、そちらの方は件の霓天殿ですね。なるほど、噂通り見通せぬ魔導だ。……一応、報告しておくべきか」


「報告ですか……僕は毒にも薬にもなりませんよ。ソレイユが誇る魔導……『夢が詰まったステキなもの』も使えませんから」


「…………ほう。敵意はなく、かといって善意もない。彼の素晴らしく阿保らしい論理を知りながらも何も思わないというのは、いささか奇怪なもの。かえって不気味ですね、まるで感情を感じない」


「いや、あの理論はリリスさんが提唱したものでは……?」


 アリキソンにはアルスとリリスが何を話しているのか、まったく分からない。

 しかしリリスはある程度の敵意と困惑を、アルスは特に何も感じていなさそうな雰囲気を醸し出していた。


「……私語はそこまでに。アルス、リリス殿。持ち場へついてくれ。ユリーチから連絡があり、向こう側も準備が整ったようだ。そろそろ作戦を開始する」


「了解。みんなでがんばろう」

「ええ。ソレイユが誇る魔術の力、お見せしましょう」


 相変わらず各軍の足並みは揃いそうにない。指揮官がリリスのようにアレではな……とアリキソンは呆れてしまう。こちらの軍に指揮を合わせる気もないだろう。

 

(さて、この戦どうなるか……)

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