37. 自分という存在
崩壊し続ける世界。
空間の歪から徐々に姿を現したのは、遥かなる晴天。僕が試練を始める前に居た空間だ。
完全に世界が崩壊し切った後、青空に立っていたのは戦神と僕達三人であった。
「さて、アルスよ。お前達の一部始終はちゃんと見てたぞ。まさか災厄が乱入してくるとは想定外だったけどな! そんで……教えてもらおうか、お前の出した答えとやらを!」
「はい。僕の出した答え、それは……」
たくさんの未来があった。可能性があった。
幸福そうな僕、強そうな僕、悲しそうな僕。
全ての可能性があって、未来は灰色。どれが本当かなんて、分かっちゃいない。
でも……分かったんだ。
僕は、きっと僕だ。
どうなっても、どんな未来があっても。
「僕が、僕自身……アルス・ホワイトであること。あなたは、僕が《Xuge》に向き合うことが晴天の試練の目的だと言いました。試練を通して僕は異なる因果にも触れ、どんな未来を歩む可能性があるのかを知ったんだ。
だからといって、答えはどれか一つじゃない。それは僕自身の手で切り拓いて、作ってゆく未来だ。為すべきは、己の瞳で見て、己の意思で考え、己の意志で運命を切り拓くこと。
僕はアテルに災厄と戦う事を定められたけど……どうするべきかは、僕が決める。不義理と思われるかもしれないけど……僕はアテルの共鳴者以前に、一人の人として生を受けたのだから」
──言い切った。
伝えたいことは、全部伝えた。
戦神はただ目を閉じ、僕の言葉を聞いていた。
パチパチパチ、と後ろから音がして振り向くと、ノアが拍手をしていた。
「お見事です。アルスさんの答えが戦神さんの納得する答えかは知りませんが……私はとても素晴らしい答えだと思いますよ」
「ああ、俺もそう思う。いずれあんたが俺と戦うその時にも、あんたの意志で決めて欲しいものだ」
戦神は目を静かに開く。
「……合格、という事にしておいてやろう。今のお前ならば、この事実も受け入れられるよな?」
「この事実、とは?」
「アルス、よく聞けぇい! お前が四つ目の災厄を倒し終えたその時……お前自身も対消滅する。創世主アテルはそう定めたんだ。災厄が四体も降臨する今世紀を乗り越える為だけに造られた兵器……それがお前だ」
──そっか。
「ええ、分かりました。災厄アルスが言っていたことに、きっと嘘はない。僕の事は僕が決めるのだから、大した問題でもありません。その事実を知ってアテルを嫌いにはならないし、共鳴を放棄するつもりもない。教えてくれてありがとうございます」
「ふっ……はっはっは! あー、いいぞお前! 才能あるんじゃねえか? ま、試練は合格だ。これにて終わりっ!」
「やった、ありがとうございました!」
晴天の試練を、乗り越えた。
支えてくれた師匠と、ノアと、エンド。彼らには感謝してもしきれない。
「ありがとう、二人とも。君たちが居なかったら僕はこの試練を乗り越えられなかった」
「ま、まあ私は暇つぶしに来ただけなので……ここらへんで失礼しますね。わた私、暇じゃないんで。私に用があれば……『愚者の空』までおいでください」
それだけ告げると、ノアは姿を消してしまった。
暇つぶしに来たのに暇じゃない……?
──『愚者の空』
人類史上未観測の空域で、そこへ向かって帰って来た者はいない。それでも研究を進めて突入する人が多いので、愚者が挑む空……愚者の空と呼ばれている。流石に冗談だよな?
「フッ……あいつ、最後に顔を真っ赤にしてたぞ。まともに感謝されたのが嬉しかったのだろう。さて、俺だが……今世紀最後の災厄として封印から目醒める事になる。その時の俺は理性を支配され、破壊の限りを尽くすだろう……だが、俺を殺せばお前も死ぬ。お前が死なずに済む方法があるのならそれに越したことはないが。それまで、よく考えておいてくれ」
エンドはじゃあな、と手を上げ、闇に呑まれて消えて行った。
……考えておこう。僕と、君の為に。
「んじゃー……ここで話した事はアテルには勿論! 他の者にも一切告げねえように、良いな?」
「はい、分かりました」
「よーし、これにて晴天の試練を終了する!」




