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共鳴アヴェンジホワイト  作者: 朝露ココア
第4部 16章 腐食呪炎サーラライト
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15. 複雑な翠国

「ハッ! ごふっ……」


 クロイムは水を吐きながら意識を取り戻す。

 だいぶ川に流されて下って来たようだ。


「……魔物からは逃げ切れたのか? 死ぬかと思ったが、結果オーライだな。全身がびちゃびちゃだが、真空パックに入れた着替えがあったはずだ。一旦着替えよう」


 衣服を着替え、クロイムは深呼吸する。

 ここは危険地帯の真っただ中。周囲に魔物の影は見えないが、警戒は怠ってはいけない。


「さ、行くぞ……」




 ようやく森の付近へと辿り着いたクロイムを待ち受けていたのは、衝撃の事実だった。


「か、壁……?」


 平原と森の境界に、パルス状の透明な壁がある。

 押しても叩いてもびくともせず、森の中へ入れそうにない。


「なんだよこれ……ここまで来たが引き返すのは御免だぞ」


 壁は東西の彼方まで広がっており、この『大霊の森』全体を覆い尽くいているようだ。

 事前に森の情報を調べればよかったとクロイムは後悔する。よく考えずに突発的に動くのが悪い所だと、自覚はしているのだが。


「どっかに入り口があるかもしれない。とりあえず壁に沿って歩いて……」


「……君は」


 クロイムの言葉を遮って、彼の名を呼ぶ者があった。

 振り向くと、そこには白装束の男がいた。無地の仮面を被った妙な男だ。見覚えがある。よくSNSとかニュースで見かける姿で……たしか彼の名前は、


「鳴帝イージア!? なんでここに!?」


「……はじめまして、私はイージア。故あって大霊の森へ来た。さて、君はここへ何用かな」


 もちろん、クロイムはイージアがアルスであるなど知る由もない。そこで彼に対して二度目の自己紹介を行うのだった。


 ~・~・~


 クロイムはイージアに自己紹介を終えた後、これまでの流れを説明し終える。

 シレーネというサーラライト族の少女が一月も帰らず、連絡もつかないこと。魔物に襲われ、命からがら逃げ切って来たこと。壁に阻まれて森の中へ入れないこと。


「……なるほど、大変だったな。実は私もサーラライト国に用事があるんだ。こちらに入り口がある、行こうか」


「あ、ああ……なんかイージアとは初めて会った気がしないな。こんな危険地帯で英雄に出会えるとは僥倖だ」


「そうか……君は記憶喪失なのだったな。もしかしたら、私たちはどこかで会っているのかもしれないな」


 イージアは壁に沿って歩き出した。クロイムは慌てて彼の後を追う。


「シレーネは無事だと思うよ。きっと何かしらの理由でサーラライト国に留まらざるを得ないのだろう」


「まあ、俺もそう思ってるけど。流石にこれ以上店を放置できないからな」


「はは……たしかに君も仕事を失うのは困るだろうな」


 イージアの声色はどこか焦燥を孕んでいた。普段からこのような声色なのかもしれないが。

 サーラライト国に用事があると言っていたが、あまり良い用事ではないのだろうか。何気なくクロイムは尋ねる。


「イージアはどんな用事でここに?」


「うん……墓参りだろうか。あとは公共事業」


「よく分からねえな……」


 森の奥は結界のせいであまり見通せない。壁……イージアは結界と呼んだが、それは天まで覆い尽くし、この『大霊の森』を守っているように見える。

 外部から魔物も侵入することができず、強固な守護の役割を果たせているようだ。


「結界、ねえ……たしかに防衛の観点からすれば良いもんだな。ルフィアもこれ使えばいいのに」


「…………逆に言えば、この結界は外界との関りをも隔ててしまう。たしかに安全ではあるのだが」


 何事も一長一短があるのだと、以前シレーネが言っていた。この結界も様々な恩恵もあれば弊害もあるのだろう。

 あまりイージアとの会話も続くことなく、歩くこと数分。


「着いたぞ。あれが関所だ」


 結界の一部に穴が開いており、そこを塞ぐように木製の建築物が建てられている。

 二人は建築物の大扉の前へ立つ。


「止まれ! 我々は外部の人間の立ち入りは認めていな……い……?」


 見張りをしていた人々が行く手を遮ろうとするも、次第に声が小さくなっていく。

 彼らは交差させた槍を地面に突き立て、おそるおそる尋ねた。


「も、もしや……イージア様ではありませんか……?」


「ああ。君はラスだったか」


「はっ! 覚えていてくださったのですね、お久しぶりです! 申し訳ございません、すぐに門を開けます!」


 どうやらイージアの顔はここにも利くらしい。墓参りと言っていたので、サーラライト族に知り合いでも居るのだろうか。

 ラスと呼ばれた兵士は見張り台に立つ兵士へ合図を送り、門を開けるように命じた。


「そちらの方は?」


「あ、俺はクロイムって言います。知り合いに会いに来たんです」


「そうでしたか。イージア様のご友人であれば問題ありません。どうぞお通りください」


 くぐもった音が響き、地面が少し揺れると同時、巨大な門が開かれる。

 内部では天を衝く巨大な木々が道を作っていた。

 二人が歩みを進める前に、兵士のラスがイージアを呼び止めた。


「それと……姫様が色々と問題を起こしてしまって、国民は不安になっているのです。どうか皆を不安にさせないようにお願いします」


「……善処する」


 イージアは返事を濁して、結界の中へと歩いて行く。

 兵士たちは敬礼し、彼と後に続くクロイムを見送っていた。


 ~・~・~


 並び立つ無数の木造建築、湿気を払う為の爽やかな風。

 肥沃な大地には動植物がのびのびと生命をめぐらせ、のどかな雰囲気が漂っている。

 『大霊の森』中心に位置するサーラライト国。サーラライト族と呼ばれる長命種が住まう国だ。


 道行く人々は客人である二人を訝しげに眺めていたが、やがて仮面の男がイージアだと気が付くと警戒を解いたようだった。彼はかつて六花の将としてサーラライト国を救った経歴を持つ。

 クロイムはとりあえずイージアの後に続き、不審に思われないように歩く。

 彼らが辿り着いたのは国の中央に位置する王城だった。石造りの王城で、絢爛豪華なルフィア王城と比べれば渋みがある。

 城の前にいた兵士が二人に頭を下げた。


「これはイージア様。百年越しの復活を果たしたとお聞きしました。陛下へ挨拶ですか?」


「ああ。それと、彼を姫君の下へ案内して欲しい」


 イージアはクロイムの背を押して前へ出した。

 姫君……と言っていたがはたして何者なのだろうか。


「……姫様は現在、その……特殊な状況下にありまして。イージア様はお怒りになられるかもしれませんが、その……」


 兵士はおどおどしながらイージアの顔を盗み見た。

 どうやらかなり言い難い事情がありそうだ。


「いや、私はいい。今から国王に会いに行くからな。この少年を通してあげてほしいんだ」


「……分かりました。今、許可を取って参りますのでお待ちください」


 そう言うと兵士は城の奥へ引っ込んで行った。

 イージアの姿を見て、安堵のような、恐怖のような感情を湛えながら。


「さて、私はここで失礼するよ」


「ああ、ありがとう……?」


 イージアはその場を去って城の二階へ上がって行ってしまった。結局、シレーネはどこに居るのだろうか。

 この街を闊歩するには姫様とやらの許しが必要ということなのだろうか。

 疑問を抱えながらも、クロイムは案内されるがままに王城へ入って行った。


 ~・~・~


 クロイムが案内された先は城の地下だった。

 無骨な石畳と牢が周囲に広がっている。少し息苦しい。


「もしかして俺、逮捕されます?」


「はは……まさか。さ、こちらの部屋です」


 兵士は笑いながら、とある一室にクロイムを案内した。

 彼は意を決して、扉を開く。

 視界の先には──


「……おや、クロイムさん。逮捕されちゃいました。あはは……」


 牢屋に閉じ込められた、シレーネの姿があった。

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