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共鳴アヴェンジホワイト  作者: 朝露ココア
第4部 16章 腐食呪炎サーラライト
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6. 対魔王軍戦線

 避難所へと辿り着いたクロイムとシレーネ。

 そこには大勢の人が避難している……というわけではなかった。


「あれ? 全然人がいませんね」


 大都会の割に人が少ないことにシレーネは首を傾げる。

 彼女の問いに答えるように、柔らかく澄んだ声が響いた。


「魔王はもう撤退を始めたみたい。それで魔王軍も退却し始めてるらしいよ。住民はみんな避難所から帰ったんだって」


 声の主は、避難所の奥から姿を現した赤髪の少女。

 杖を持ち、腰に銃を装着して武装している割にはラフな衣装。海のように青い瞳がシレーネとクロイムを捉えた。


「あ、ユリーチさん! よかった、魔王軍はもう撤退したんですね」


「うん。……それで、そちらの方は?」


 シレーネにユリーチと呼ばれた少女は、クロイムを見て不思議そうに首を傾げた。


「あ、俺はクロイムっていいます。記憶喪失です」


「そう。私はユリーチ・ナージェントと申します。以後、お見知りおきを」


 彼女は記憶喪失という言葉にもあまり過剰に反応せずに、丁重にクロイムに頭を下げた。シレーネとは知り合いのようだ。


「ユリーチさんは『輝天』なんですよ。えらいくてつよいひと、なのです」


「おお……てことは、アリキソンみたいに強いのか。てか、英雄の家系って絶対強いもんなのかな」


 英雄補正がかかるとか、そんな感じだろうか。

 或いは強さは努力の賜物なのだろうか。そんなクロイムの疑問にユリーチが答える。


「四英雄の末裔は、【神能】が使えるの」


「しんのー?」


「そう、私だったら魔に特攻の効果を持つ光を生み出す『光喚(ひかりよび)』、アリキソンだったら嵐を操る『嵐纏(あらしまとい)』。私たち英雄の家系に受け継がれる、特異な力」


「かっけえな……俺にも特別な力はないのか?」


 ユリーチは困ったように首を傾げる。見ず知らずの人間の能力を尋ねられても知らないだろう。彼女の裏の姿であるフェルンネはジークニンドと面識がないので、彼女はクロイムがジークニンドであるということに気が付いていなかった。

 言葉に窮した彼女は話題を切り替える。


「そういえば、クロイムさんはSNSとかやってる?」


「ユリーチさん、クロイムさんは記憶喪失なんですよ。それも、ついさっき拾ったばっかりです。やってる訳ないんですよ」


「そっか。チャンネルの登録者増やそうとしたけど、残念」


「???」


 まるで話の流れについていけないクロイム。

 同じ言語のはずなのに、彼女たちが違う言語を喋っているようだ。実質的に百年前からタイムスリップしてきたようなものなので、話についていけないのも仕方ない。


「ところで魔王軍は撤退したって言ってたけど……なんでだよ?」


「それは私にも分からない。まあ、幸運だってことで……」


 ふと、背後の扉が開く。

 魔導士のような姿をした人が、ユリーチの姿を発見するや否や駆け寄った。


「ユリーチ様。ご報告が」


「どうぞ」


「現在、中央通りにて大規模な交戦が発生しております」


「え……何で? 魔王は退却したでしょ?」


「それが……ルフィアレムのどこかから魔力が発生しており、無数の魔力人形が生み出されているのです。おそらく魔王が仕向けたものかと。退却の邪魔をされぬよう、魔力人形で足止めしたのでしょう」


 会話の流れから察するに、おそらく魔力人形とやらが騎士たちと衝突しており、退却する魔王軍に追撃できない状況なのだろう。

 しかし、ユリーチは疑問に思う。無限に魔力人形を生成するなど神の力でもなければ不可能。一体どのような手段を使っているのだろうか、と。


「……分かった。今行く。シレーネたちはここで待ってて」


「わ、分かりました。お気をつけて!」


 そしてユリーチは報告された中央通りへと駆け出して行った。


 ~・~・~


 中央通り。

 半透明の人型……魔力人形が騎士たちへと襲撃を仕掛けている。どうやら人間であれば無作為に襲うようにプログラムされており、そこまで高度な知能は持っていないようだ。


「嵐纏──『激空』」


 戦場に嵐が駆け巡る。嵐は苦闘する騎士たちを傷付けることなく、正しく魔力人形のみを破壊する。

 『碧天』アリキソン・ミトロンの到来である。英雄の到来に人々は沸き、喜びの表情を湛えた。


 戦場の様子を冷静に俯瞰する者が一人。

 赤髪に青の瞳の青年。彼の名はスターチ・ナージェント。『輝天』ユリーチの兄であり、この戦場の指揮官でもあった。


「……お兄様。魔力人形の発生源が分かりました」


「ユリーチ。その玉は?」


 魔力人形の発生源を逆探知したユリーチは、付近の広場に落ちていた、二つの黒い玉を特定。そして魔力を遮断して封印した。

 これで魔力人形の出現が収束するかと思いきや……まだどこからか魔力が発生している。その旨を彼女は兄であるスターチに伝えたのだった。


「なるほど……ユリーチでも魔力の発生源を特定できないとなると、相手は相当な手練れだね」


「はい。何かしらの手段によって逆探知を防ぎ、宝珠を隠蔽しているのでしょう。私が探して参ります。お兄様はアリキソンと共に戦線の維持を」


「分かった。気を付けるんだよ」


 彼女は兄に戦場を任せ、再び戦線から離脱した。

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