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共鳴アヴェンジホワイト  作者: 朝露ココア
第4部 16章 腐食呪炎サーラライト
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1. 立ち向かう一歩

挿絵(By みてみん)


 現代を覆う状況を簡潔にまとめる。

 私、イージア……いや。今はアルスと名乗っている。かつて『鳴帝』として活動していた私は、未来へと戻って来た。

 『破壊神の騒乱』という事件を契機に私の主であった創造神は闇へ呑まれ、楽園は崩壊。アリスは命を落とし、残る六花の将の消息は不明。百年前に八重戦聖のグラネアから『鳴帝』の名が消えたが、私が未来へ飛んだと同時に再び『鳴帝』の名が刻まれることとなり、多少世間を騒がせたようだ。


 さて、まず話さねばならぬのは『六花の魔将』という存在についてであろう。

 『邪神』ダイリード、『魔王』ルカミア、『天魔』、『血姫』、『炎精』、『死帝』ミダク。我らが六花の将をそのまま反転させた二つ名だ。

 私がかつて過ごしていた世界線では『五大魔元帥』と呼ばれていた存在が、『六花の魔将』に変貌してしまった。これも改編された未来の一つと言えるだろう。

 喫緊の課題は『六花の魔将』の対処だ。


 追って説明すべきは、ジークニンドという存在について。

 ジークニンドは創造神が自身が闇に堕ちる未来を見越して創造した、自壊機構である。十二の神能を楽園の外界へと放ち、それらをジークニンドへ回収させることにより、破壊神を屠る英雄を創り出す……というのが創造神の狙いであった。

 そのために創造神は騒乱直前にジークニンドを外界のどこかへ放ち、百年の眠りにつかせたようだ。彼の発見も急がなくてはならない。私も彼に出会い次第、『接続』の神能を返還しよう。


 最後に、周囲との関係について。

 喜ばしいことに、誰一人としてアルスの存在を忘れている者はいなかった。同時にイージアという存在も認知されているようで、リンヴァルス神の顕現も語り継がれている。

 しかし、一つだけ……旧世界線とは違う点がある。レーシャは私のことを認識していない。また、私を共鳴者だと創世主は捉えていない。つまり、灰の砂漠で過ごした幼少期と、レーシャと育んだ愛は消滅した。

 構わない。まだ私が愛したレーシャはどこか遠いところで生きていて、共鳴を維持しているのだから。彼女の下へ帰ることは諦めた私だが、愛まで捨てたつもりはない。


「……話が長いね。早く終わらせてよ」


 目の前に座ったレアが冷やかすように言う。

 彼女は相変わらず人の話を聞かない。


「これで終わりだ。満足か?」


「ああ満足、吐きそうだ。それで……君はこれからどうするのかな?」


「まずはジークニンドを探す。そして神能の継承者……『六花の将・魔将』を探し出し、ジークニンドに神能を変換させる。最終的には破壊神の解放を目指しつつ、彼を闇へ堕とした者の正体も探らなければな」


 レアは溜息を吐き、ゆっくりと、それはもう気だるげに立ち上がった。


「……私にできることは?」


「ジークニンドと六花の将を探してくれ」


「また探し人か……やれやれ、骨が折れるね。しかしリンヴァルス神サマのご命令だからね。逆らうわけにもいかないね?」


「ああ、給料は払わない。死ぬ気で働いてくれ」


 露骨に舌打ちするレアを置き去りにして、私は始祖の宮殿の窓から飛翔する。

 さて、私も働かねば。


 ~・~・~


 最近、兄の様子がおかしい。

 突然泣き出したり、口調が変になったり、夜中も寝ずに外へ出かけたり。ルチカさんも異変を感じ取っているみたい。


 今朝も兄は居間でニュースを読み漁っている。世間の動向にはまるで関心がない人のはずなのに、最近はやけに熱心に情報収集しているようだ。


「おはよう、お兄ちゃん」


「ああ、おはよう。今日は何か用事はあるのか?」


「今日は休みだから。無職のお兄ちゃんには分からないか」


「ははっ……そうだね」


 兄はバトルパフォーマーを辞めた。理由は特にないらしい。

 これで晴れて無職になった兄は曜日感覚がない。しかも生活リズムが崩れて、徹夜で動き回っているようだ。健康状態が心配。


「今日は何をするんですか?」


「午後は出かけるよ」


「……何をしに?」


「うーん……人探しかな」


 明らかに適当な理由をこじつけて、出かけてばかり。

 昨日は鳥探しだったし、おとといは酔っ払い探しだったし、その前日は黒髪のトランスジェンダー探しだった。意味が分からない。


「……私も行きます」


「え」


 露骨にばつの悪そうな顔をする兄。

 もしかして犯罪行為とか、不良と絡んだりしてるんじゃないだろうか。まさか兄に限って……腐ってもディオネの英雄だし……いや、でもこの人のことだし……


「いいよ」


「いいんですか」


「うん」


 ……それにしても、兄は最近落ち着いてるなあ。

 なんだか歳を取ったような気がする。見た目は変わってないけど、奇行は少なくなった。あと目がなんか怖い。光があんまりない。


「今日はルフィアに行こうと思うんだ。マリーは明日も休みだよね? だから明日の午後に帰ってくればいいから……」


「外国行くんだ……」


 ルフィアが行き先らしい。しかも兄は疲れている私を無理やり連れて行こうとしている。

 飛行機に乗る準備をしなければ。二日で帰って来るとなると、世界鉄道では間に合わない。まあ、有給を取るのも一考か。


「よし行こう。十五分で準備を済ませるぞ」


 無理です。

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