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共鳴アヴェンジホワイト  作者: 朝露ココア
2章 アルス・ロンド
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34. 愛も心も、忘れてしまったよ

 頭の中がぐちゃぐちゃだ。ノアとエンドに扉の先で見た光景を話した後も、僕は何が何だか分からないでいた。

 アレが戦神の用意したフェイクの未来だと分かっていても、絶対に辿り着かない未来だと分かっていても、心が掻き乱される。


「……なるほどな。その未来のお前は、信じられない程に強かった……と」


「まあ、未来の可能性というものは無限大ですから。どのような未来であれ、訪れる可能性はあります。アルスさんは白の扉の先で見た光景を偽りと言っていましたが、偽りの『もう一人の自分』もまた《Xuge》です。しっかりとその未来に向き合うことも大切ですよ」


「そうだな。あり得ない規模の力が突然降って湧いてくる……俺はそれを経験した。邪剣に魅入られるという経験を通して、な。未来のアルスがどれだけ強くても、俺は受け入れられる」


 そりゃ、僕だってあんなに強くなれたらどれだけ良いことか……。

 力を求めて、とにかく必死にこれまでを過ごしてきた僕だ。あの《Xuge》が僕の本当の未来だとしたら、まさしく僕の理想のはずで、喜ばしい未来のはずだった。

 ……でも、


「でも、あのアルスは……強いのに、悲しそうだったよ。僕が求めるような、理想の……いや、理想以上の強さを持っていたのに」


「……強大な力には何らかの代償を伴うことが多い。俺の邪剣だって、理性と引き換えに手に入れた……というよりは、肉体が無理やり支配された。そのアルスも、何らかの代償と引き換えに力を手に入れたのかもしれない。……或いは、何かを失ったから力を強く望んだか」


 努力と引き換えに力を手に入れるのは良い。でも、大切なモノを引き換えにしてまで僕は力は欲しくない。

 その考えは、我が儘なのだろうか。


「ふむ……まあ、とにかくです。そのお強いアルスさんを見てきて、二つの扉を比較してみて、どうですか? 何か思うところはありますか?」


「そうだね……最初に入った扉の方が、僕には思い描きやすい未来だ。二つ目の扉は……何と言うか、よく分からない。どの《Xuge》が正しい解答なのか……三つ目を見てから考えようと思う」


「この試練の達成条件は『《Xuge》に向き合うこと』。天才の私からすれば、もう答えは分かっちゃってるんですが……エンドさんはどうです?」


 すごいな……もうノアは答えが分かっているみたいだ。天才って怖い。

 僕はまだ、どの未来が正解なのか分かっていない。ノアみたいに、自分を客観視する必要があるのかもしれない。


「俺はまだ分からない。ただ、何となく答えは見えてきたような気がする」


「エンドもすごいな……僕はまだ分からないや。とりあえず、三つ目に行ってみるとしよう」


「考える時間はいくらでもありますから。ゆっくり自分と向き合ってください」


 次は最後の黒の扉だ。

 不安と期待に心を挟まれながらも、僕はその扉を押し開けた。



「……あれで最後の扉か」


「ええ。ところでエンドさん。……感じませんか?」


「ああ、感じるな。あの黒い扉の先から……俺と同じ、秩序の因果を。今までの扉とは何か決定的に違う……なぜアルスの《Xuge》に秩序の因果が生じるような事態になるんだ? あいつは混沌の因果を持つ者だろう?」


「それは……私の傲慢が招いた結果かもしれません。……すいません、やはり彼の後を追います。あなたはここで待っていてください」


「いや、俺も行こう。俺はお前と違って何も知らないが……アルスに何かあっては俺も困るからな」


                                      **********




 《英雄は宿す、秩序の宿運を。

 英雄は滅す、心亡き混沌を。英雄は反旗を翻す、己の因果に。

 創世主と共鳴しながらも、貫かれ死した者。

 人々を救うと決意しながらも志半ばで手折らるる愚者。

 愛を知り、愛を喪いし者。

 大切な者を護る為、大切なモノを滅す者。

 彼の者の名は──》




 黒。

 真っ白な空間から、目覚めたのは真っ黒な空間。

 明度の差で視界がチカチカする。周囲には、何もない。あるのは……居るのは、一人だけ。


『……やあ、待ってたよ。アルス』


 ……僕だ。

 この《Xuge》のアルスには僕が視えているらしい。


「これは……一体」


『晴天の試練でここに来たんだね。僕は君の《Xuge》……そして、戦神が指し示す解答が僕だ』


「何……?」


 解答が、このアルス?

 でも、この精神世界には何もなければ。まだどんな未来なのかも見ていない。何を根拠に、そんな事を言っているのか……

  

『何も無いこの精神世界が不思議かい? ここはね……世界(アテルトキア)の跡地だ。何もかも滅ぼされて、創世主すらも殺された世界』


「そ、創世主……アテルまでもが!? 一体誰が……」


『僕だ』


 ……は?


『僕が、アテルを殺した。君の未来は、今の僕のように災厄となって、世界を滅ぼすこと。この未来は避けられない……ただ一つの回避方法を覗いて』


「何を、言っている……?」


『今はまだ信じられないかもしれない。でも、信じてほしい。アテルには、心がない……君の前での振る舞いも全て、誰かの人格を模倣したに過ぎない。その証拠に、この試練の後……君は戦神から衝撃的な事実を言い渡されるだろう。その事実こそアテルに心がなく、君を道具としか思っていない証拠になる』


 ──分からない。

 分からない。分からない。分からない。分からない。分からない。

 理解できない。理解できない。理解できない。

 僕は、僕は、僕は、何を聞いている?


 アテルに心が無い? そんな訳がない。

 だって彼女はずっと僕と過ごしてきて、色々なことを教えてくれて、とても楽しそうに笑って、他の神々とも仲が良くて……


「……分かった。これもフェイクか。君は戦神が用意した罠だな? あえて自分の扉を選ぶように促して、試練に落とそうとしてる……! そうだ、そうなんだろ!?」


 眼前のアルスは、とても悲しそうに首を横に振った。

 ……やめてくれ。そんな悲しそうな顔をしないでくれ。そうされると、まるで君が本当の未来のアルスみたいじゃないか。


『ごめんな。でも、本当なんだ。でもさ、この未来を回避できる方法が一つだけあるって言っただろう?』


「…………」


 僕は自然と彼の言葉の続きを待っていた。

 これが試練の罠かもしれないのに。


『戦神に、『黒の扉の《Xuge》が僕の本当の未来だ』と解答するんだ。かつて僕が晴天の試練に挑んだ時、この扉は試練の罠だと思って、解答を虹色の扉にした。でも……』


 彼の頬を涙が伝った。

 涙は、深い深い暗黒に落ちていく。


『でも、この未来が……訪れてしまった。あの時……僕が大人しく言われた通りに、黒の扉を解答にしていれば……未来のアルスの言う通り、この未来は回避できたかもしれない』


「でも……でも、君の態度も演技で、試練の罠かもしれないだろう!?」


『そう、だね……僕には信じてもらう他ない。この忠告をする為に、世界を滅ぼした後も、こうして僕は過去の自分を待っていたんだ。どうか君だけには、幸せになってほしいからさ……』


 分からない。分からない。分からない。

 僕は……どうしたら良い?


「……そうだ! ノアとエンドに助言を……」


『駄目だ!』


 彼は鬼気迫る表情で怒鳴った。


『彼らも、試練の罠なんだよ……君を、黒以外の扉に誘導させる為の罠だったんだ。僕はかつて、彼らに相談した結果……地獄に突き落とされた! 彼らを信頼しては駄目だ!』


「じゃあ、僕はどうしたら……」


『未来の僕を信じるか、他人を信じるか。……冷静に考えてみてくれ。未来の自分が、過去の自分を陥れるような助言をすると思うか? もしかしたら過去の自分を救うことで、未来の自分も救えるかもしれない……そんな可能性に賭けてもいるんだよ、僕は』


 たしかに。子供時代の自分を救い、未来の自分をより良い方向へ変えられるのならば、僕はきっと全力で助言をする。眼前のアルスが、嘘をつくデメリットが見当たらない。


「……分かった。君を信じてみようと思う」


『そうか……ありがとう。過去の我ながら、良い子だね……君は。それと……君がこの試練を突破する為に、渡したいものがある。手を出してくれないか?』


「うん」


 アルスに向かって手を差し伸べる。

 彼の手を握ると、ひんやりしていた。エンドよりも更に冷たい手だ。

 そして、僕は──



『ありがとう、アルス。未来の僕を信じてくれて。僕に心を開いてくれて。それじゃあ……君の世界も滅ぼしに行こうか』


 魂に、何かが入り込んで来る。

 僕とは真逆の、得体の知れないナニカが。



 ああ……これは、『憎悪』だ。






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