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共鳴アヴェンジホワイト  作者: 朝露ココア
15章 ココロガタリ
358/581

80. 春永Ⅲ

 前管理者番号八・LFによる記録──暗号:TY%-hgm9-K~@ppo.spd

 ー因果律操作に関する研究録ー


『XHXUE年 C月 HL日

 睡眠時間1時間21分。バイタリティ良好。


 今日から新しい研究録をつけようと思います。つい最近に完成させた魔導力学第六法則の導出は、さっそく四番さんのお役に立ったようで、私も研究した甲斐があるというものです。発明者冥利に尽きますね。

 さて、次は『因果律の操作』です。聞いただけでも嫌気が差しますね。ですが未知の領域に挑むことこそ、我ら管理者の役目と言えましょう。


 因果律の操作。一言で言ってしまえば、始点(原因)と終点(結果)の間に横たわる数値を決定することで、望む通りの結果を得ることです。ただまあ……一筋縄ではいきません。どれだけ微に入り細を穿ったとしても、観測できない現象が生じてしまうもので、結果は狂ってしまいます。

 時間圧縮には既に成功しているので、因果律の破れについては無視してもいいでしょう。


 ……さて、そんなわけで研究開始です。

 今日はとりあえずやめにしましょう。気分が乗りません。

 余談を。最近の趣味は、ほこりから生命体を作ることです。『生物』を管理する六番さんから教えてもらっています。生命を創るなんて神への冒涜……と、こんな考えをするなんて数十万年前の人類のようですね。もしも人間に罰を与える神が居るのならば、数多の世界を食らい尽くした我らはとうに神罰を受けているでしょうから。

 さあ、明日もがんばりましょう』


 ~・~・~


『XHXUE年 D月 GY日

 睡眠時間1時間11分。バイタリティ通常。


 なんとなく分かってきました。以前から世に観測される因果の種類は、おおまかに判別がついていましたが……今回の研究では二つの因果を扱ってみようかと。ChaosとOrderと仮称し、簡単に実験を行いました。

 まず、因果は交わりません。どのような類型の因果であれ、交わろうとした瞬間に別の因果へと変質しますから。ChaosとOrderを交差させる数値を叩き出したところ、別の因果の結果が出ます。これは何と呼びましょうか……Whiteとでも呼んでおきましょうか。発生した瞬間に次元が白く光ったので。


 ああ、それで話を戻しましょう。今回実験に用いた二因果、これらを操作したいのです。そこで私は一方の因果を発出させた後、少し遅れてもう一方の因果を発出させ、数値の決定を行おうとしました。結果は失敗。

 残念ながら、完全に数値を固めることは叶わず……しかし、単一の因果を扱うよりも変化の幅が小さくなりました。大きな進歩です。無数に検出されたデータのペイロードを勘案した上で、決定的な平均物質密度と魔磁分子量の試算を測る必要があります。ああ、めんどくさい。

 こんなことを書いても殆どの人には理解できないでしょうに。この研究録、意味あるんですかね。


 とりあえず今日はここまで。

 昨日は新しい服を見繕ってきました。私は正直、自分の見た目などどうでも良いのですが……娘に文句を言われているので。しかし買ったは良いものの、一向に着る気が起きません。肉体更新も衣装更新も自動的に行われる管理者ですから、衛生面に気を遣って着替えることもなくなってしまいます。さすがに襤褸切れのような服をいつも着ている父親なんて、娘から見ても嫌なことでしょう。

 まあ、気が向いたら着ましょうかね』


 ~・~・~


『XHXUF年 C月 KS日

 睡眠時間2分。バイタリティ劣悪。


 バイタリティが劣悪なのには理由があります。因果律の操作に関する研究が没になったからです。

 いやはや、研究を始めて約1年。少しずつ進めてきた研究が水泡に帰すのは堪えますね。まあ、今までもこんなことは何度もあったので、致し方なし。この研究はまだ誰にも公開していないので、そのうちこっそりと虚数の海に沈めてしまいましょうか。


 没になった理由を簡潔に記しましょう。

 抑止力がかかりました。さすがに因果律の操作はこの世の摂理に反するのでしょうか?

 そも、私は神など信じない性質なのですが……アレは神というよりも……いえ、形容できませんね。ともかく私が二因果を操作して望みの結果を出すことに成功した際、大いなる存在より研究の差し止めを求められたのです。


 正しく言えば、『それ以上続けるとお前の支配する人理は滅ぶぞ』と嘲笑されているかのような意志力を受けたのです。明確な言語を受けた訳ではありませんでしたが、超常的かつ創世主をも上回る私を戦慄させる意志力でした。暴力的ながらも理解可能な意志力というものは気味が悪い。ずいぶんカルト的なお話ですが、事実は事実。

 もしかしたらアレが【ルア】という存在なのかもしれませんね。全創世の根源にして、全てを見守る者。管理者たちの間ではアレを目覚めさせぬように約定が結ばれています。そもそも、存在すら疑わしい者を目覚めさせてはならないなど……馬鹿げた話ですがね。支配した創世主たちが口を揃えて【ルア】が云々言うものですから、存在はするのでしょう。


 万祖の主、アブヂェルよりも恐ろしい何かです。

 仮にルアが存在するとして、そのルアとやらを誰が生み出したのか気になりますが。考えたらキリがありません。


 私は本当に神など信じていないのですよ。創世主ですら、高度に発達しすぎた我らの文明に滅ぼされる、一つの生命体なのですから。そうして無数の世界を呑み込んできた人理にも罰が与えられることはなかった。

 だからこそ、私は神など信じない。神族と呼ばれる生命体は腐るほどいますが、超常存在は科学的に未だに証明できていないので、証明されるまでは信じません。

 信仰対象外の存在から警告を受けた……笑える話です。まあ、ここまでにしておきましょう。

 因果律の操作研究は翌月にでも廃棄しましょう。今すぐ廃棄すると、他の管理者にバレてしまいますから。たしか今月は廃棄場の検閲があるはずです。


 ……さて。これで研究録を終えましょう。

 そういえばつい最近、娘に会いにいきました。お元気そうでなにより。彼女に押し付けてきた……いえ、協力してもらった別分野の研究も回収しなければ。

 干渉医でありながら次元観測の研究を行う者なんて、私の娘くらいなものでしょう。負担をかけますね。

 それほど管理者は忙しいのです。まず管理者の言語形態を正確に把握できるほど知能指数が高い人種が、数えるほどしか存在しない。娘は有能な研究者でもあるのです。


 おっと、親馬鹿が出かけましたね。

 どうせこの研究録も後々廃棄します。誰にも見せるつもりはないですし、まあ良いでしょう。


 しかし因果律の操作は不可能、ですか。私はいつになったら、あの子を、──e──ruを……おっといけない。該当データを削除……っと。

 それではさようなら、名もなき研究録君。よき破滅の未来を』

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