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共鳴アヴェンジホワイト  作者: 朝露ココア
2章 アルス・ロンド
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32. 愛を覚えていますか

「うう……」


 急に精神世界にぶち込まれたせいで、頭が痛い。

 目覚めて立ち上がろうとすると、どこか違和感を覚える。身体を見てみると、僕がアテルに監禁されていた頃と同じくらいまで身体が成長していた。

 ここは精神世界だという。ならば大人の見た目でも不思議ではない。


「ここは……」


 真っ白な空間だ。

 その中に、三つの扉がある。


「おはようございます。大丈夫ですか?」


「わっ! ……ええと、君は?」


 黒髪に、赤の左目と紫の右目のオッドアイ。

 彼女はにこやかに笑うと、僕に名乗った。


「はじめまして、私はノア。天才で、超絶美少女です。アルスさん……今回の『晴天の試練』に協力することになる者です。よろしくお願いします」


「そういえば、戦神は仲間を二人用意するって言ってたような……僕はアルス・ホワイト。よろしくね。それで、もう一人はどこへ?」


 二人と言っていたが、もう一人の仲間の姿が見えない。

 僕がきょろきょろ視線を動かしていると、ノアは虚空に向かって話しかけた。


「隠れてないで出てきてください。エンドさん」


「やれやれ……あまり、共鳴者の前には出たくなかったのだがな」


 虚空から姿を現したのは、茶髪の男性。

 彼は渋面して僕の前に現れた。


「共鳴者……アルス。俺の名はエンド。……いや、邪剣の魔人と言った方が通りが良いかな?」


「邪剣の魔人……!?」


 今から二千年以上も前に現れた災厄の名だ。神々でも倒し切れなかった唯一の災厄で、現在はリーブ大陸最北端の『不浄の大地』と呼ばれる地に封印されている。


「なぜ災厄がここに、という顔をしているな。俺はまだ封印されている状態だからな……精神は生きているんだ。その俺の精神を戦神が精神世界へと呼び寄せた訳だ」


「まあ、私が一つ庇っておきますと……『邪剣の魔人』は邪剣が本体です。エンドさんは邪剣に心を蝕まれ、破壊を尽くす器になったに過ぎません。彼本人は悪い人ではありませんよ」


 ノアが邪剣の魔人について説明する。

 たしかに、目の前の彼……エンドは悪い人には見えない。でも、そう簡単に信頼しろと言われても難しい。そもそも、なぜ災厄の器がこの試練に呼ばれたのかも分からない。


「まあ……そういうことなら。よろしくね、エンド」


「ああ、よろしく。良き友になれればと思う」


 僕らは握手を交わす。彼の手は酷く冷たい。

 きっと、この二人……ノアとエンドがこの晴天の試練に呼ばれた理由も、試練を進めていくうちに分かることだろう。


「さて、そろそろ試練の説明を始めましょうか。どこから説明しましょうか……そうですね。アルスさん、《Xuge(クージ)》って知ってますか?」


「くーじ? 何それ?」


「《Xuge》とは、もう一人の自分。異なる世界線の自分、異なる次元の自分、異なる記憶の自分。それが真実の己であろうと、虚構の己であろうと、もう一つの自分を指し示すもの。あれらの扉の先で見るのは、あなたの《Xuge》の未来……それに向き合うことが試練の達成条件です」


 難しくてよく分からないけど、とにかく僕の未来が分岐したもの……ということで良いのか?

 いまいちイメージが思い描けない。まあ、実際に見てみれば分かるだろう。


「その中から、僕が本当に歩むべき道を選択すれば良いんだね?」


「どうでしょうね……まあ、一つ目の扉を開いてみますか? ちなみに、私たちは扉の先へは行きません。ここであなたと話をするだけの存在です」


「そうなのか……それじゃ、実際に見て学んでくるよ。その『くーじ』というものを」


 僕は一番左端の扉……虹色の扉の前に立つ。

 両開きになっていて、押せば開きそうだ。


「アルス。この試練の達成条件を忘れるなよ。『《Xuge》に向き合うこと』が達成条件だ」


 エンドから忠告が入る。

 僕はそれに頷き、扉を開いた。


                                      **********


 《英雄は宿す、無数の奇跡を。

 英雄は超える、無数の災いを。英雄は示す、世界の可能性を。

 創世主と共鳴し、数多の災厄を退けた者。

 人々に強き意志を以て希望を教えた者。

 愛を知り、愛に溺れる者。

 大切なものを、すべて守り抜いた者。

 彼の者の名は──》




「……こ、こは」


 目覚める。周囲には歓声。無数の人。

 コロシアムのようだ。コロシアムの客席に僕は居た。

 どうやら僕の姿は半透明になっており、周囲からは知覚できないらしい。物に触れてもすり抜けてしまう。


『さあ皆さん、間もなく決勝戦が始まりますッ!』


 アナウンスが流れた。決勝戦か。

 ここはどこなのだろう……と周りをよく見てみると、リンヴァルス帝国の国章が目に入った。どうやらリンヴァルスのコロシアムの中に居るようだ。


『まずは東側! 全てを燃やし、灰にするっ! 『紅蓮剣士』エルゼア!」


 東側のゲートから、黒髪の剣士が現れる。僕の知らない人だな。


『続きまして西側! 救世の英雄が一人! 『天覆四象』アルス・ホワイト!』


 えっ、僕!?


 歓声に包まれて西側のゲートから現れたのは、紛れもない僕だ。あれが僕の《Xuge》……なのか? つまり、僕の未来。

 しかし、救世の英雄とか言ってたけど、何をしたんだ?


「やあ、エルゼア。これで何度目の挑戦かな?」


「はっ……覚えてねえよ。挑戦とか言ってるけど、お前……ボクに何回か負けてるよな?」


「僕の勝ち越しだけどね? バトルパフォーマーは戦績が正義だよ」


 向かい合った二人がそんな会話をしている。

 バトルパフォーマーか……たしか、リンヴァルスで流行し始めている新形態の職業だ。戦闘を『魅せる』娯楽として提供する職。僕は将来は騎士になるものだと、ぼんやりと思っていたけど違ったみたいだ。

 ……いや、これはあくまで僕の可能性に過ぎない。別の世界線では別の職業に就いているかもしれない。


 そして、二人の魅了するようなバトルが始まった。




『決まりましたー! 勝者、アルス選手!」


 ……すごい。すごい戦いだった。

 目で追うのがやっとで、僕には何をしているのかが分からなかった。破滅の型を使っていることや、四葉(よつのは)を使っていることは何となく分かったけど。でも、『魅せる』のが目的なだけあって、迫力は凄かった。素人目に見ても興奮したことだろう。

 将来、僕はあそこまで成長できるのだろうか。


 歓声に包まれながら、アルスは退場していく。

 我ながら、かっこいいと思ってしまった。あんなに強くて、見てる人たちを笑顔にできる……そんな未来に憧憬を抱く。

 僕は慌てて未来のアルスの後を追った。



「よお、アルス。素晴らしい戦いだったぞ」

「お兄ちゃん、お疲れ様。やっぱりお兄ちゃんは凄いね」


「アリキソン! それに、マリーも! 見に来てくれてたんだね」


 向かった先では見慣れているけど、記憶と違う顔ぶれがあった。

 アリキソンと……とても成長している妹のマリーだ。二人はもう大人になっているのだろう。とても立派に見えて、僕よりも大人に見える。


「相変わらずお前は戦いが好きだな……もう俺では追いつけそうにない」


「はは……君は子供を育てるのに集中しなよ。もう世界も平和になったんだからさ」


 こども……子供!?

 アリキソンには子供が居るみたいだ。まあ、あの年齢なら結婚してるか。


「破壊神を倒して英雄になったのに、まだ戦い足りないんですね……まあ、私も騎士として戦うこともありますけど」


「マリーも英雄だの何だの呼ばれて窮屈そうだね……そうだ! 今度みんなで旅行にでも行かないか? ユリーチと、ジークと、シレーネも連れてさ」


 破壊神を……倒した?

 たしかに破壊神の手下は五大魔元帥と呼ばれて、世界を恐怖に陥れているけど……まさか、その根源を断ってしまうなんて。もしかして破壊神を倒した者達が英雄と呼ばれているのか?


「はあ……私、忙しいんですが。まあ……予定は空けておきます」


「それは良いな。俺の妻と子も連れて行きたい。あとは……お前の彼女もな」


 ……彼女? 僕の?

 神族という性質上、僕が定命である人間の彼女を作る可能性は低いと思うけど。


「アルス君、お疲れ様」


 その時、見慣れた女性が現れた。

 レーシャだ。


「あ、レーシャ。どうだった? 僕の試合、かっこよかったかな?」


「ふふ……うん、かっこよかったよ。それで、みんなで何の話をしてたの?」


 なんかレーシャとの距離感が近くないか?

 気のせいかな? まあ、悪い気はしないけど。


「ああ、今度みんなで旅行に行こうという話になってね。君も行くかい?」


「うん、もちろん行くよ。楽しみだなあ……」


 レーシャが素敵な笑顔をアルスに向ける。


 ……なんだか、みんな幸せそうだな。

 こんな未来が訪れたら……なんて、僕が考えている間に。


(何だ……? 視界が……)


 視界が少しずつぼやけて、聞こえる音も水中でくぐもったような音になっていく。

 同時にパラパラと世界の空間が剥がれて、歪が生じ始めた。

 精神世界の崩壊が始まっているのか……。


「ね……、ア……ス君。折角……し、今日はみ……なでご飯……べに……」

「そ……だね。レアと、ルチ……も誘……て……」


 ……もっと、この幸せな彼らを見ていたい。

 そんな想いとは裏腹に、世界は閉ざされていく。




 僕が最後に見た光景は、曇りなく笑い合うアルスたちの姿だった。

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