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共鳴アヴェンジホワイト  作者: 朝露ココア
2章 アルス・ロンド
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31. 二次試験、開始

「それで、二次試験とは?」


 まさかの展開に戸惑いながらも、師匠にその内容を尋ねる。まさか更に本気を出した彼と戦うというのか……?


「……晴天の試練。詳細は我にも分からぬが……非常に厳しく、危険な試練だと聞いた。……下手をすれば命をも失う」


 珍しく慎重な面持ちで師匠がそう告げる。

 晴天の試練、か。


「その試練は、誰が何処で行うのですか?」


「場所はシエラ山の頂。試練官は誰かは知らぬが、これは常人が受ける試練ではなく、存在を知る者も殆ど居ない。……恐らく神族が試験官であろうな」


 苦虫を噛み潰したように渋面する師匠。命を賭けてまで挑む試練だと聞けば誰だってそんな反応をするだろう。


「シエラ山、ですか。たしか麓に選定のグラネアがあるところですよね」


 選定のグラネアとは、この世界での強者が八人選ばれ、彼らの称号が刻まれた謎の物質である。ここで選定される強者とはこの世界(アテルトキア)で最も強い八人ということだ。

 彼らは八重戦聖と呼ばれ、武人の最終目標は選定のグラネアに名を刻む事であると言っても過言ではないだろう。


 グラネアは誰かが弄っている訳ではないのに、勝手に更新されるのを人々は不思議に思っているが……それを刻む者の正体はとある神だ。


『むかしむかし、戦神という神族が居てね。災厄と戦って死んじゃったけど……死後の暇つぶしみたいなものかな? 世界中を見守って選定のグラネアを刻んでるんだよ。元気にしてるかなあ?』


 このようにアテルは語っていた。

 ……となると、晴天の試練は戦神が執り行っているのか?

 でも、彼は死んでるらしいが……


「ともかく、試練を受けてみないとですね」


「い、いや待て。あまり焦るな、もう少し修行して力をつけるぞ?」


「……! そうですね、僕はまだまだ甘い。覚醒の残滓を完全に目醒めさせましょう!」


 僕とした事が少し傲りがあったかもしれない。晴天の試練は何があるか分からないというのに、今の強さでは不安しかない。

 師匠の諫めに感謝しなければ。


「う、うむ。次からは深淵なる力を少し解放させるぞ! さあ、続きだ!」


「はい、頑張ります!」


 師匠はいつもの調子を取り戻したようだ。

 なんだか元気がないように見えたので心配していたが……もしかしたら僕が試練に挑み、命を落とす事を危惧してくれたのかもしれない。

 何にせよ、僕は死ぬ訳にはいかない。絶対に。


 だから、


「では、いきますっ!」


 更に強く。


              ----------


 シエラ山。

 ディオネの位置するリーブ大陸の最西端、リンヴァルス帝国とキユラ王国の国境に位置する山である。

 選定のグラネアが置かれていることから、麓は世界中から猛者の集まる修行の地になっている。


 およそ二年半振りに島を出て、大陸の地を踏みしめる。天神ゼニアの背に乗せられ、師匠に見送られてこの地に降り立った。


「やっぱり、空気が違うな」


 周りを見渡すと、多種多様な人々が剣呑な気配を放ち屯している。

 ……強い。だが、僕も負けてはいない。父や師匠に教わった技、磨いた能力には誇りを持っている。

 そして今、全霊を以て試練に挑む。



 歩いていると、一際目を引くモノがあった。

 灰色の円錐で、表面には水色の機械的な書体の文字が刻まれている。これが選定のグラネアだ。

 近寄って書いてある文字を眺める。


 始祖

 破龍

 魔族王

 錬象

 破滅

 理外の魔女

 世界刃

 無限龍


 ……と、錚々たる面子が記されている。

 始祖はリンヴァルス帝国の『始祖』レイアカーツ、破龍は五代魔元帥の『破龍』ダイリード、魔族王が魔国ディアの『魔族王』ルトだろう。

 分かるのはこれくらいだ。


 観光ではないが、これが見れて満足だ。

 では頂上を目指そう。




 気温は生物が存在できないほど低く、酸素は薄い。

 山の天辺に差し掛かり、斜面は一層厳しい。


 そのまま登り詰めていくと、頂上に辿り着いた。見上げると広大な星空が拡がり、世界中を見渡すことが出来た。


「きれいだ……」


 どこまでも続く深い海と、煌く大陸が同時に見渡せるこの山。人間が立ち入る事のできない領域の為、この景色を見ることのできる者は滅多に居ない。

 絶景に思わず見惚れていると、


『晴天の試練に挑まんとする者、限界を越えんとする者よ』


 どこからともなく声がした。


『お前の名は……アルス。試練に挑むか』


 答えは決まっている。


「はい、挑みます」


 周囲の光景がバラバラに崩壊し……


「よー来たな、アテルの共鳴者。俺は戦神。んじゃ、試練すっか」


              ----------


 気を取り戻すと、そこは足場の無い大空。

 眼前には神気を纏う男性……戦神だ。

 晴天の下で僕は戦神と相対した。


「……お願いします」


 剣を抜き放つ。

 戦神は、尋常でなく強いと聞いている。師匠でさえも恐れていた程に。

 だけど……目前の彼を超えられなければ災厄に立ち向かう事など出来はしない。


「は? なんで剣抜いたんだ?」


「……え?」


 思わず間抜けな声を出してしまった。

 では、試練とは──


「試練ってのは強さだけじゃねえんだよ。お前はまあ、十分強えだろ、多分。だから俺がお前を試すのは……まあ、選択だな」


 選択?


「えっと……危険だと聞いていたのでてっきり戦うのかと……」


「あー、それは多分前の子供達……オハーツとフィリだっけ? 男の方殺しちまったから、そんな噂が広まったのかもな。あの子達はまだ未熟だったから神の厳しさを教えてやったワケよ」


 戦神は続ける。


「けど、お前は俺と同じ神族だから限界を引き上げなくてもヨシだ。故に! 力の試練は要らん。つーわけで、お前の狂信的な価値観を選択の試練によって矯正してやる。まあ、これが強さにも繋がるってワケよ」


「えっと……」


 まさかの武力を用いない試練。

 となると、この二年半の修行は一体……いや、決して無駄ではない。そもそも修行が無ければ力の試練も免除されなかったのかもしれないのだから。


「返事!」


「は、はいっ!」


「よーし、んじゃ概要を説明すんぞ。まず言っておくと、この試練は創世主……アテルには見られていないってことは覚えとけ」


 それは……どういう事だろう?

 アテルに見られてはいけないものでもあるのか?


「ま、結論から言うと。お前はアテルを過剰に盲信してる。もちろん、アイツに世界を守る意志があるのは本当だし、アイツの機能は秩序の因果に対抗することだ」


「はい、そして僕は秩序の因果の使徒……災厄と戦う為に生まれました」


「だからそっから違ぇんだよなあ……お前はお前! 災厄と戦うかどうか、それはお前が決める事だ。かくいう俺も災厄と戦い続けてたけどな」


 災厄と戦うかどうかは僕が決める事……か。理解は出来る。

 戦神は僕を共鳴者ではなく、一人の生命として見ているのだろう。でも、僕は僕の意思でアテルの共鳴者として戦おうとしてるのだが……


「言葉で言っても分かんねえのは承知してるから、お前を複数の精神世界に案内する。そこはお前が歩む可能性を孕んだ世界。その複数のパラレルワールドの中から……『お前が本当に歩むべき未来』を正しく選択し、解答を俺に伝えろ。お前自身の《Xuge》と向き合うこと……それが俺の試練だ」


「えっ、一体どういう……」


「試練の助けになる仲間は二人用意しとくわ。質問は受け付けねえ! では、頑張って下さい」


 僕が何事かを尋ねようとするや否や、どこか慣れた感覚が覆い被さった。これは間違いなく、精神世界へ誘われる感覚である。


 そうして僕は『晴天の試練』に沈んでいった。


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