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共鳴アヴェンジホワイト  作者: 朝露ココア
14章 安息回帰の譚
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61. 楽園へ

 ルフィア王国へ到着した四人は、首都のミトロン家へと向かう。

 そこでオズを中心にこれまでの経緯を『碧天』ローヴルと、『輝天』カシーネに説明する。


「なるほど……『鳴帝』様は先日も暗殺から俺の身を守ってくれた。龍神様を信じない訳ではないが……創造神様にお伺いを立ててみるのも悪くないかもしれない」


「私はオズが信じてるなら、イージアさんと……ラウアさん? 二人は悪者じゃないと思うよ。それに頑固者のフィーちゃんも信じたんでしょう?」


 カシーネはスフィルを『フィーちゃん』と呼ぶ。どうやら輝天と霓天は仲が良いらしい。

 ローヴルとスフィルは思っていたよりもすんなりと事実を受け入れてくれた。やはりイージアの名声が大きいのだろう。災厄を退け、世界中の人々に平和を語り掛けたリンヴァルス神が『邪悪の眷属』とは思えないらしい。


「しかし、君たちの言う創造神も意識を変えられている可能性が高いが……」


 四英雄は龍神と創造神の言葉を秤に掛けると言っているが、創造神すらイージアやラウアを敵と糾弾する可能性があるのだ。そうなればイージアは四面楚歌に陥るのではないだろうか。

 彼の不安を払拭するようにオズが口を開く。


「まあ……そん時はそん時でしょ! 俺らだって神様の言葉を丸ごと信じるほど思考停止じゃないですし」


「そうそう! 大丈夫、私は自分の頭で考えられるもの!」


 楽観的なオズとカシーネに対して、ローヴルとスフィルは深く考え込んでいるようだった。

 感覚派と理性派で上手いことバランスが取れているのかもしれない。神を信じるか、英雄を信じるか。彼らの立場になった時、決断が極めて重いものになるであろうことは、イージアにとっても明らかだった。


「まあ、今深く考え込んでも仕方ない。『鳴帝』様と共に楽園へ向かい、その後で状況を考えようじゃないか」


 ローヴルの一声に一同は頷き、次なる道へと足を踏み出すのだった。


 ~・~・~


 楽園へ向かう船中にて。

 ラウアと二人になったイージアは、海神の回帰に向かった面々に思いを馳せていた。ノア、セティア、ルカ。彼らは無事に海神を回帰させられたのだろうか。


「……イージア」


「ラウアか。どうした?」


 ラウアが頻りに周囲を見渡しながら彼に話しかけてきた。どうやら何かを警戒しているらしい。

 周囲に他人の気配はない。四英雄は船内におり、イージア達は甲板に居る。


「少し話しておきたい……というか、相談しておきたいことがあって」


「相談?」


「昨日、神の回帰について話をした時……オズとカシーネはすぐに納得してくれた。でもローヴルとスフィルは、その……」


 彼は言いよどんでいる。彼が伝えたいことをイージアは暗に理解していた。


「『碧天』と『霓天』は殺気を放っていた。君はそれを憂いているのだろう?」


「……! イージアも気が付いていたんだね」


「ああ。ただ、あの殺気は明確な殺意ではなく……私たちとも敵対し得ることを考慮しただけだ。人を殺すことにあまり抵抗がないのがローヴルとスフィルなのだろうな。逆に、オズとカシーネはあまり残酷な事実に目を向けられない。その違いが僅かに出ただけだ。警戒するほどでもないさ」


 ローヴルとスフィルは凝り深く、過酷な選択に抵抗がない。しかしそれが彼らの敵対を意味する訳ではない。

 イージアには四英雄の全員が神の言葉を妄信せず、自らの心で考えてくれるという確信があった。故に問題はない。


「そうか……まあ、イージアが言うなら大丈夫かな」


「二人とも。間も無く楽園に着くそうだ」


 その時、件の人物……ローヴルがやって来た。今の彼は特段イージアたちに対して敵意を持っていない。

 楽園に着くまでの時間、せっかくなのでイージアはローヴルと話しておこうと思った。『碧天』は偉大な英傑。歴史好きの彼からすればぜひとも交流しておきたい人物だ。


「『碧天』か。私は君たちのことをあまり知らないので、楽園に着くまで話でもしないか? オズとスフィルとは先日互いのことを話したのだが」


「ええ、構いませんが……俺なんて語ることは特にありませんよ。神能を授かる前はただの剣士でしたし」


 剣と言えば……彼はローヴルの腰に下げられた剣に目を落とした。


「それはたしか聖剣だったか?」


「ええ、【聖剣グニーキュ】といいます。魂を斬る権能を持つ剣ですね。魔神もこの聖剣で屠りました」


 聖剣グニーキュはローヴルの没後、ソレイユ大森林に封印されたと伝えられている。あまりに強力な力に諸国が恐れをなし、やむを得ずルフィア王国は聖剣を封印したらしい。

 英雄然り、神器然り、強大過ぎる力は恐慌を生む。ルフィアに四英雄が二人いるのも、未来で彼の国が強権を持っている一因と言えるだろう。


「『鳴帝』様はたしか神剣を持っていらっしゃいましたよね?」


「ああ。──ライルハウト」


 彼は神剣を呼び出し、ローヴルへ差し出す。


「さ、触ってもよろしいのですか?」


「大丈夫だ。もっとも、神器は誰でも使えないので君が持っても重いだけのなまくらになるだろう」


「こ、これは……たしかに重い……。グニーキュは誰でも使えるのですが、真の力を解放するには剣に意志を認められる必要があります。聖剣と神剣の違いは扱いやすさということでしょうか。……そういえば、ラウア殿が持っている盾は特別な物なのですか?」


 ローヴルは神剣をイージアに返しながら、ラウアが腕に装着している暗黒の盾を見た。


「これは……何だろう。壊世主から貰ったんだけど」


「カイセイシュ……?」


 壊世主という存在を知らないローヴルは首を傾げる。

 イージアも彼の悪辣な壊世主が授けた盾と聞き、初めは警戒したのだが……特に盾の使用によるデメリットはないことが分かった。

 ある分には困らない盾だが、壊世主は何を思って厄器を授けたのか。


「なんかすごいオーラが出て、攻撃を防いでくれるんだ。神器ほど強力な物なのかは分からないけど」


「なるほど……それは興味深い」


 ローヴルがラウアの盾に感心していると、船の鐘が鳴った。間も無く楽園へ到着する合図だ。


「よし、そろそろ船を降りる準備をしよう」


「了解しました」


 三人は船内へ戻り、各自荷物をまとめる。

 これより踏み締める地は楽園。創造神の住まう神域。


 イージアは多少の緊張を覚えつつ、故郷とも言える島に降り立つのだった。

 

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