表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
共鳴アヴェンジホワイト  作者: 朝露ココア
14章 安息回帰の譚
338/581

60. 英雄の絆

 イージアとラウアはルフィア王国へ出立するべく、世界鉄道を待っていた。

 空を飛んで楽園へ向かう道筋も考慮したが、スフィルとオズが同行することを思い出し、陸路での行程を決めた。


「おーい、『鳴帝』様!」


 自分を呼ぶ声にイージアは振り向く。

 黒髪の少年と、水髪の少女が立っていた。


「お待たせしました! こっからルフィアまで行くんすよね?」


「ああ。もう乗っても大丈夫か?」


「はい。スフィルもさんざん悩んだ挙句、『鳴帝』様を信じてみることに決めたみたいですよ」


「……オズ、余計なことは言わないで。早く行きましょう」


 スフィルは少し気恥ずかしそうな顔をして、足早に列車へ乗り込んだ。

 かつての妹にどこか似ているな……そうイージアは思いつつ、彼女に続いた。


 ~・~・~


 列車の車窓からイージアはぼんやりと景色を眺める。

 この安息世界でも世界の造りは変わらない。むしろ今は盤上世界(アテルトキア)の方が異常な光景に染まってしまっているのだった。


 ここが架空の世界ということは分かっている。それでも安息世界に息衝く生命は、心を持ち……元の世界と何ら変わらない暮らしを送っている。魔物や災厄による脅威がない以上、元の世界よりも幸福な暮らしなのかもしれない。

 そんな安寧を破壊する自分はまさしく災厄。真実を告げたとて、この世界に残りたいと主張する者も多く存在することだろう。


(しかし……認めたくはない)


 ATの手によって造られた理想郷、護られた世界。

 創世主や壊世主の存在を知らない人々にとって、どちらの世界もそこまで変わらない。この安息世界というのも、一つの世界の在り方。世界を回帰させたいというのは、彼の傲慢だ。誰かを不幸にする選択だ。


 彼はただ、魂を生まれた場所へと還したい。魂が生きるべき故郷の世界を取り戻す。そこが混沌と秩序の相克によって生み出される、残酷が満ちた世界でも。


「よう、『鳴帝』様。お茶でもどうです?」


「黒天か。その鳴帝様というのはやめて、イージアと呼んでくれ。どうにも背中が痒くなる呼び方だ」


「んじゃ、イージアさん。俺のこともオズって呼んでくださいよ。英雄呼ばわりされるのは……嫌いじゃないけど、俺の器じゃない」


 オズは茶を啜りながら、何とも言えない表情で外を眺めた。

 イージアには疑問があった。彼の知る歴史には、四英雄の『黒天』はマーキス・ティズと伝承されている。オズという名前は知らない。そして『黒天』の神能も詳細は不明。

 好奇心の塊をぶつけてみたいと思う彼だったが、少し控え目に質問を投げかけた。


「そういえば、オズの神能はどんな能力なんだ?」


「俺の神能は【幸招(さちまねき)】です。ざっくり言うと、周囲の事象を自在に操って攻撃を当てたり、回避したり。望み通りに色んなものを歪曲させるんです。他の三人と比べて、ちょっと地味で攻撃的じゃない能力だと思いません?」


「そうか? 聞いた限りでは一番強力な神能だと思うが……」


 もしかしたら、神能最強と謳われる【嵐纏(あらしまとい)】よりも有能な神能かもしれない。伝承に『黒天』の神能が存在しない理由は分かった。

 彼の神能は目視できないので伝承されなかったのだろう。内容も抽象的で、使い手であるオズ以外には理解できそうにない。


「では……マーキス・ティズという人物について心当たりは?」


「まーきす? 知らないっすね。誰ですか?」


「いや……なんでもない。忘れてくれ」


 もしかしたらイージアが干渉したことで歴史が変わってしまったのだろうか。

 何とも言えない気持ちになる。極力歴史を変えまいと振舞ってきた彼だが、ついにはリンヴァルス神という存在になってしまった。新たな神を一つ生み出してしまったのだ。


 未来のことを考えると、漫然とした不安が迫って来る。自分はこのまま生き続けるのか。

 アルスという存在は未来において消滅するのだろうか。


(今考えても仕方ない……とりあえずは目先の問題を何とかしなければ)


 この安息世界を回帰させてから考えるべきだ。

 ラウンアクロードを倒したと思えば、ATの新世界創造。本当に盤上世界(アテルトキア)は過酷に満ちている。


「イージアさん。好きなお菓子ありますか? 買ってきますよ」


「ああ……何でもいい。無理に買って来なくてもいい」


「いや、イージアさんからは甘党の気配がするんですよね。俺も甘党だし、カシーネも甘党。そんじゃ、ちょっと行ってきます」


 そう言ってオズは席を立って購買車両へ向かって行った。

 元気な英雄だ。彼と入れ替わるように、スフィルがイージアの居る席を通りかかった。


「『霓天』よ。少し良いだろうか」


「はい、なんでしょうか。このお菓子は……オズのやつですね」


 彼女は向かいに座り、机に置かれている包装紙に目を止めた。

 菓子の種類を見ただけで誰か判別できるほど、彼らは仲が良いらしい。


「君の使う武器は剣なのか?」


「ええ、そうですが……なぜそのような質問を?」


 イージアの武の源流でもあるスフィル・ホワイト。

 彼女の物腰や容姿はマリーに似ているが、扱う武器はイージアと同じ剣。そこで聞いてみたいことが一つあった。


「君の秘奥技……『四葉秘剣(スフィル・クレイヴン)』について尋ねてみたいと思ったんだ」


「『四葉秘剣(スフィル・クレイヴン)』を? どうしてですか?」


「私も君と同じ四属性を扱えるのだが、参考にさせてもらいたいんだ」


 イージアも父の戦闘映像から『四葉秘剣(スフィル・クレイヴン)』を復元し、自己流で扱ってはいた。しかし本家本元のそれとは異なる技の可能性もある。


「なるほど。しかし、あの技を扱うにはかなりの鍛錬が必要です……と、こんなことをリンヴァルス神に言っても意味はないですね。私の拙劣な技でよろしければ解説します。まず、四属性の均衡について……」


 ~・~・~


 やはりイージアの扱う『四葉秘剣(スフィル・クレイヴン)』は、スフィルの扱うものといくぶんか違ったようだ。彼は自らの祖先から秘奥の解説を聞き終え、頭に叩き込む。

 神族の非忘却の特質はこういう時に役に立つ。


「お、スフィルも来てるじゃねえか。お前の好きなクレープも買ってきて正解だったな」


「……ありがとうございます」


「イージアさんも好きなのどうぞ!」


 オズは机に大量の菓子をばら撒き、どかりと席に座った。

 イージアは一旦お茶を置いて立ち上がる。


「その前に、ラウアを呼んでくるよ」


「お、そうですね! バカ騒ぎは人数が多いほど楽しいってね! 一人だけ仲間外れは良くないですし」


 列車にオズの快活な声が響く。

 一人だけ仲間外れ。そんな彼の声を聞き、スフィルが少し俯いたことには誰も気が付かなかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ