54. 突入、亜天空神殿!
とある情報筋によると。
オッドアイの少女が奇妙な機体に乗ってディオネの上空へ飛んで行ったらしい。間違いなくノアだろうということで、イージアとセティアはディオネへ向かったのだが……
「空に飛んで行ったって、どこに行ったのかな?」
「まさか宇宙か? いや、宇宙に行く意味もないだろう。となると、『亜天空神殿』か?」
ディオネ神聖王国の遥か上空に浮かぶフロンティア。世界三大魔領の一つで、未踏破の危険地帯。
流石にゼーレフロンティアの深奥へはイージアでも辿り着けない。
過去の記憶が蘇る。神聖国王が復活し、地上に逃げ場がなくなったと判断した時も、彼はレーシャと共に亜天空神殿へ逃げたものだ。ノアも同じように考えてゼーレフロンティアに身を隠したのかもしれない。
容易に神々さえも立ち入れぬ魔領。潜伏するにはもってこいだ。
「よし、行こう!」
「あー……セティア。君の力と、私の力。合わせれば『亜天空神殿』のどれくらい深くまで侵入できると思う?」
「踏破余裕でしょ」
やはりこの少女は何も考えていないようだ。
彼女の意見は無視することにして、イージアは危険地帯に踏み入るべきかを考える。
時間的な制限はなく、挑んでもイージアたちが命を落とすこと滅多にない。たしかに行けるだけの場所まで行ってみるのも良いかもしれない。
「行くとしたら準備は万全に。今日はとりあえず亜天空神殿に挑む支度をしよう」
「りょうかい」
『大深海魔境ホーウィドット』より環境的な阻害は少ない。
しかし、ホーウィドットは既に『黎触の団』やリフォル教が最奥部を踏破しており、魔物の数も少なかった。今回の挑戦は厳しいものとなるだろう。
まずは屋内ダンジョンに挑むための道具の調達だ。
イージアは身を潜めつつ、街中の魔道具店を探した。
~・~・~
亜天空神殿、入口にて。
盤上世界と同じように、内部からは魔物の気配がする。どうやら魔物が激減した通常のフロンティアとは違い、ゼーレフロンティアの危険度は変化していないようだ。
それもそのはず、ゼーレフロンティアは秩序の力ではなく、混沌の力も織り交ぜて創造されたと言われている。ATによる混沌の力の干渉をあまり受けないのも当然だろう。
「第一に、離脱用魔道具」
「はい。転移ホール、緊急脱出パワーベルト」
「杖」
「はい。魔封じ、空間拡張、弱体解除。ま、杖なんてなくても大体ぼくの魔術でどうにかなるけどね?」
「念のために確認しておくが、セティアは生理現象は遮断できるな? 食事や睡眠は必要ないか?」
「うん。おやつは持ってきたけど。というか、セクハラかな?」
「よし、行くぞ」
確認すべき事項を全て把握し終え、イージアは神殿の内部へと侵入していく。
セティアはおやつとして持ってきたチョコレートを慌てて鞄にしまい、彼の後を追った。
そして神殿に踏み込んですぐにある、第一の大広間。
早速彼らに試練が降り注ぐ。
「いいか、セティア。第一の広間には必ず天竜が三匹、覇竜が一匹、そして亜空魔騎士が一匹出現する。大半の侵入者はこの時点で脱落するが……一匹ずつ慎重に対処し、確実に処理して……」
「ぶっころ承り! ぶちぬき失礼仕る!」
「!?」
広間の大扉をセティアは勢いよく開け放ち、呼び出した聖槍を構えて突進して行った。
地雷メンバーである。
『『オオオオオオッ!』』
室内から竜種の叫びが木霊する。
イージアは慌てて内部へと飛び込み、セティアの側面に迫っていた天竜を断つ。
「君というやつは! もう少し考えろ!」
「穿つは最強無敵の……えっと……なんだっけ。まあいいや、ティアハート!」
彼女はイージアの言葉に耳を傾けず、聖槍を投擲。大気を揺るがす一穿が、覇竜の心臓を貫き絶命させた。
戦闘力に関しては問題ないものの、イージアは彼女の突飛な行動に頭を抱えていた。
正々堂々たる奇襲を受け、敵は半壊。残るは天竜二匹、亜空魔騎士。
もっとも警戒すべきは亜空魔騎士と呼ばれる魔物である。この亜天空神殿にしか発生しない魔物(諸説あり)であり、戦闘の技術は達人級。
「来るぞ!」
天竜と同時に亜空魔騎士が動き出す。
前方から魔の一閃、両側面から白銀のブレス。後方に下がれば攻撃は避けられるが、亜空魔騎士の追撃が間違いなく来る。
「私の後ろへ。『青雪の構え』」
イージアは青霧を身に纏い、全ての攻撃を受け流す。
後方へ庇ったセティアは前面の騎士を狙うようだ。一瞬で互いの意を汲んだ二人は、各々の獲物を標的に定める。
「青雪の撃──『激浪』」
「星穿ち!」
混沌の力が籠められた大波と、激浪を穿つ光の一閃が走る。
青霧という予測もつかぬ方法で攻撃を無効化された騎士と天竜は、想定外の敵の反応に怯み……隙を晒す事となった。
世界最強格の戦士を前に、その隙は死を意味した。
大波が天竜を蝕み、槍撃が亜空魔騎士を穿つ。
狂いのない連携により三体は同時に落命。
「終わったか。戦闘上の連携は悪くないが、突発的に部屋へ飛び込むのはやめるんだ。どんな罠があるのか分からないのだから」
「りょうかい」
本当に了解しているのか分からないところだが、連れてきてしまった以上はセティアと共に行くしかない。
大広間には三つの扉がある。あれらの扉は異空間に繋がっており、ランダムな空間に飛ばされる。これが『亜天空神殿』を最難関たらしめているギミックである。マッピング不可能、離脱困難。まさに最凶のフロンティアだ。
「さて、どの扉へ行こうか、飛ばされる先がランダムなので、どこへ行っても同じようなものだが」
「ぼくが最善の道を占ってあげるよ。むむむ……」
セティアは星の欠片を取り出し、その場で回転。ぐるぐると回って彼女が最終的に足を止めたのは、東を向いてのことだった。
「東へ。そこに破滅が待ち受けているよ」
「いや、破滅があったら駄目だと思うんだが」
「違う違う。いい破滅があるんだ」
「いい破滅とは」
イージアの問いを無視して、セティアは迷わずに東へと進んで行く。
この時。イージアもなんだかんだで大丈夫だろうと言う慢心があったのだ。
しかし先程のセティアの戦闘力と、自身の戦闘力を鑑みて油断するなというのが無理な話かもしれない。
つまるところ、彼らの先に待ち受けているのは『いい破滅』などという生易しいものではなかったのだ。
「よし、行くよ!」
二人は扉を開け放ち、別の空間へと転移する。
白光が払われた時、視界に入り込んだ光景は──
「「モンスターハウスだ!」」




