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共鳴アヴェンジホワイト  作者: 朝露ココア
2章 アルス・ロンド
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30. 一次試験

 時は流れ。


「彗星の構え!」


「ふん、ヌルいわ!」


 一撃が右から迫る。

 これはフェイクだ、直後には後方へ移動する。その軌道を見切り、構えを切り替える。


「はっ!」


 何よりも重く、何よりも速い師匠の剛撃を受け流す事は容易ではない。大山が衝突するかのような衝撃が迫る。あらゆる空気・魔力の流れを逃す事なく見極める。


 ──見えたっ!


 彼の攻撃が僅かに逸れたその刹那。

 森の中から一本の木を見つけるように、砂漠から一粒の砂を拾うように、布地から一本の繊維を抜き出すように。

 そこで一閃を斬り返す。


「ぐっ……!?」


「飛雪の撃、『月明』!」


 炎を僅かに宿した剣を振り抜く。


「……ふむ、我が一撃を見切ったか。クク、破滅の型もその身に刻まれてきたようだな……!」


「ええ、ですがまだ足りません。昏き焔が、僕の深淵で燻っているように……何かが欠けてるのです。師匠に敵うくらい強くならないと」


「ああ、そうだ。この我を倒さなければ修行は終わらんからな!」


 僕は今、確実に進歩している。

 だからこそ、先を目指す。

 頂はまだ見えない。


              ----------


 僕の扱う戦闘スタイルは二つ。

 一つは父に教わった魔法剣術。

 ディオネの剣術に神能『四葉(よつのは)』を織り交ぜたもの。


 もう一つは現在修行中の☨『破滅の型』☨。なんだかこのダサい名前や技名にも慣れてきた。

 物理の彗星、魔力の飛雪。この二つの撃と構えを組み合わせて戦う。


 そして、最も重視すべきが見切りの技術だ。

 力・速さを差し置いて、この能力が何よりも僕の戦闘スタイルに影響する。相手の技を完全に見切り、捉え、打ち砕く。

 後手に最も重きを置いた型。師匠の戦闘は一見すると攻撃的に見えるが、実際にはこちらの一挙手一投足を見極めて動いていた。

 見切りからの蓄積こそが破滅の型の真髄であるのだ。


 あとはもう一つ、練習中の奥義があるが……形にしてから実戦で使ってみたい。



 ふと、父の剣術の復習から家族のことを思い出す。


「……皆は、元気にしているかな」


 紫紺に染まった空を見上げて想いを馳せる。

 師匠から聞いたが、もう二年経ったそうで。気付けば僕も十歳になっていた。


「アリキソンとの約束、守れなかったな」


 一年後にもう一度手合わせすると約束したが、結局二年も会えていない。帰ったら謝ろう。

 両親に、マリー、アリキソン、ユリーチ。アテルにも暫く会っていない。


「今更後悔はしないが……」


 やはり会いたい。

 その為にも、早く修行を乗り越えなければ。

 また一つ、原動力ができたな。


 もっと高く。

 もっと強く。


              ----------


「さて、では今日も始めるか」


「はい、今日こそは勝ちます!」


 躊躇わずに抜刀と同時に距離を詰める。

 初手は受けに回らない。


 魔力を使い、動体視力を補強。

 更に風を纏い加速。


「彗星の撃、『月光』!」


 水の霧を魔術で生成し、一瞬の目眩しに使う。

 三日月の様な斬撃をその隙に数撃放つ。これは受け止められる。


 ──左。

 戦意の気流を辿る。

 景色が刹那の間に細切れになり、最終的に彼の姿が見えるのは、


「そこだ!」


 右後ろに対して飛雪の構えを取り、魔力の乗った一撃を受け流す。

 幾度も味わってきた。一縷の可能性を確実なものとして掴み取るこの感覚を。イレギュラーさえ無ければ、もはや狂いはない。


「チッ……!」


 師匠の猛攻が収まる。

 ……今までこんな事は無く、耐えきれずに負けていた。

 何が来る?


 全神経を集中させて気配を掴む。


「……いや、すまんな。少し、今のを防がれてしまった事に驚いた」


「……」


 返事をする余裕はない。

 常に相手を捉え続ける。


「では、続きといくぞ!」


「っ速い……!」


 先程よりも一段速さが上がっている。

 限界を超えた速度は視認できない。

 ならば、こうするだけだ。


「彗星の構え……」


「そんな即席の構えでは防ぎきれんぞ!」


 目を閉じ、気配を探る。

 速すぎて完全には掴み切れない。まるで師匠が何人も居るみたいだ。

 けれど、目で追うよりはマシだ。


 ──彼の気配が迫る、その刹那。


「『青霧瓦解』!」


 渾身の秘奥を放つ。


「何……ッ!?」


 青霧瓦解。

 かつての英雄……青霧騎士エプキスの技だ。

 もはやその秘伝は失われ、知る者も存在しない。


 だが、僕はこの世の全てを識る者……創世主と知識を共有できる。何度も何度も彼女からエプキスの話を聞き、その真髄を把握しようとしてきた。


 あまりに奇怪で真似すらままならなかった技の中で、一つだけどうしても覚えたいと……魂に響くものがあった。


「ぐ……この俺が、力負けするだと!?」


 ぶつかり合う僕の剣と師匠の拳。

 普段ならばアッサリと吹き飛ばされているだろう。


「これは、物理の力ではありません」


 青霧騎士は極めて特殊な戦闘スタイルであった。

 それは時を圧縮する……という訳の分からない力だ。

 アテル曰く、攻撃対象と自分の間に横たわる時を貫通し、全ての物を押し除けるそうだ。

 無論、僕がそんな芸当を出来る筈もなく。


「──混沌の力です」


 時は万象を形成し、破壊することを繰り返す。これがこの世界(アテルトキア)の因果である。そして僕は、混沌の因果を持つアテルと共鳴している。

 だからこそ二要素の内、片割れの混沌を切り取って技に宿す。


 僕が唯一、擬似的に再現できたエプキスの技がこれだ。


「フフフ……そうか、これが運命か……!」


 剣に籠める。力ではなく、混沌を。

 師匠の剣を弾き返し、そのまま後方へ跳んだ彼に斬撃を飛ばす。

 青き斬撃と共に霧が舞う。

 あの斬撃は避けられない。そして、


「そして、防げない!」


 時を操ることなんて、できやしない。

 だから時と密接な因果を持つ混沌を媒介した。

 破滅の型にも再現出来そうな技術も組み入れた。青霧騎士の技は僕が幼少からずっと練習してきたのだ。


「ク……ハハハッ! まさか……まさかこの我が敗れるとはなっ! 裏の裏をかかれたという訳か!」


 師匠が立ち上がり、こちらへ歩いて来る。


「え……でもまだピンピンしてるじゃないですか、師匠」


「いや、今の一撃で一度死んだぞ。魂すらも斬られかけたが、回避した。貴様の勝利を認めてやろう! ……まあ、もっと本気は出せるが。真の力は見せないでおいてやろう」


「ほ、本当ですか!?」


 ……というか今、死んだと言ったか?

 まあ人の領域を超えた動きをしていたし、食事も摂っていなかったから薄々魔族だとは気付いていたけど。


「うむ……では、一次試験合格だ」


 ……は?


「一次……?」


「では、これより二時試験を開始するっ!」

 

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