30. 一次試験
時は流れ。
「彗星の構え!」
「ふん、ヌルいわ!」
一撃が右から迫る。
これはフェイクだ、直後には後方へ移動する。その軌道を見切り、構えを切り替える。
「はっ!」
何よりも重く、何よりも速い師匠の剛撃を受け流す事は容易ではない。大山が衝突するかのような衝撃が迫る。あらゆる空気・魔力の流れを逃す事なく見極める。
──見えたっ!
彼の攻撃が僅かに逸れたその刹那。
森の中から一本の木を見つけるように、砂漠から一粒の砂を拾うように、布地から一本の繊維を抜き出すように。
そこで一閃を斬り返す。
「ぐっ……!?」
「飛雪の撃、『月明』!」
炎を僅かに宿した剣を振り抜く。
「……ふむ、我が一撃を見切ったか。クク、破滅の型もその身に刻まれてきたようだな……!」
「ええ、ですがまだ足りません。昏き焔が、僕の深淵で燻っているように……何かが欠けてるのです。師匠に敵うくらい強くならないと」
「ああ、そうだ。この我を倒さなければ修行は終わらんからな!」
僕は今、確実に進歩している。
だからこそ、先を目指す。
頂はまだ見えない。
----------
僕の扱う戦闘スタイルは二つ。
一つは父に教わった魔法剣術。
ディオネの剣術に神能『四葉』を織り交ぜたもの。
もう一つは現在修行中の☨『破滅の型』☨。なんだかこのダサい名前や技名にも慣れてきた。
物理の彗星、魔力の飛雪。この二つの撃と構えを組み合わせて戦う。
そして、最も重視すべきが見切りの技術だ。
力・速さを差し置いて、この能力が何よりも僕の戦闘スタイルに影響する。相手の技を完全に見切り、捉え、打ち砕く。
後手に最も重きを置いた型。師匠の戦闘は一見すると攻撃的に見えるが、実際にはこちらの一挙手一投足を見極めて動いていた。
見切りからの蓄積こそが破滅の型の真髄であるのだ。
あとはもう一つ、練習中の奥義があるが……形にしてから実戦で使ってみたい。
ふと、父の剣術の復習から家族のことを思い出す。
「……皆は、元気にしているかな」
紫紺に染まった空を見上げて想いを馳せる。
師匠から聞いたが、もう二年経ったそうで。気付けば僕も十歳になっていた。
「アリキソンとの約束、守れなかったな」
一年後にもう一度手合わせすると約束したが、結局二年も会えていない。帰ったら謝ろう。
両親に、マリー、アリキソン、ユリーチ。アテルにも暫く会っていない。
「今更後悔はしないが……」
やはり会いたい。
その為にも、早く修行を乗り越えなければ。
また一つ、原動力ができたな。
もっと高く。
もっと強く。
----------
「さて、では今日も始めるか」
「はい、今日こそは勝ちます!」
躊躇わずに抜刀と同時に距離を詰める。
初手は受けに回らない。
魔力を使い、動体視力を補強。
更に風を纏い加速。
「彗星の撃、『月光』!」
水の霧を魔術で生成し、一瞬の目眩しに使う。
三日月の様な斬撃をその隙に数撃放つ。これは受け止められる。
──左。
戦意の気流を辿る。
景色が刹那の間に細切れになり、最終的に彼の姿が見えるのは、
「そこだ!」
右後ろに対して飛雪の構えを取り、魔力の乗った一撃を受け流す。
幾度も味わってきた。一縷の可能性を確実なものとして掴み取るこの感覚を。イレギュラーさえ無ければ、もはや狂いはない。
「チッ……!」
師匠の猛攻が収まる。
……今までこんな事は無く、耐えきれずに負けていた。
何が来る?
全神経を集中させて気配を掴む。
「……いや、すまんな。少し、今のを防がれてしまった事に驚いた」
「……」
返事をする余裕はない。
常に相手を捉え続ける。
「では、続きといくぞ!」
「っ速い……!」
先程よりも一段速さが上がっている。
限界を超えた速度は視認できない。
ならば、こうするだけだ。
「彗星の構え……」
「そんな即席の構えでは防ぎきれんぞ!」
目を閉じ、気配を探る。
速すぎて完全には掴み切れない。まるで師匠が何人も居るみたいだ。
けれど、目で追うよりはマシだ。
──彼の気配が迫る、その刹那。
「『青霧瓦解』!」
渾身の秘奥を放つ。
「何……ッ!?」
青霧瓦解。
かつての英雄……青霧騎士エプキスの技だ。
もはやその秘伝は失われ、知る者も存在しない。
だが、僕はこの世の全てを識る者……創世主と知識を共有できる。何度も何度も彼女からエプキスの話を聞き、その真髄を把握しようとしてきた。
あまりに奇怪で真似すらままならなかった技の中で、一つだけどうしても覚えたいと……魂に響くものがあった。
「ぐ……この俺が、力負けするだと!?」
ぶつかり合う僕の剣と師匠の拳。
普段ならばアッサリと吹き飛ばされているだろう。
「これは、物理の力ではありません」
青霧騎士は極めて特殊な戦闘スタイルであった。
それは時を圧縮する……という訳の分からない力だ。
アテル曰く、攻撃対象と自分の間に横たわる時を貫通し、全ての物を押し除けるそうだ。
無論、僕がそんな芸当を出来る筈もなく。
「──混沌の力です」
時は万象を形成し、破壊することを繰り返す。これがこの世界の因果である。そして僕は、混沌の因果を持つアテルと共鳴している。
だからこそ二要素の内、片割れの混沌を切り取って技に宿す。
僕が唯一、擬似的に再現できたエプキスの技がこれだ。
「フフフ……そうか、これが運命か……!」
剣に籠める。力ではなく、混沌を。
師匠の剣を弾き返し、そのまま後方へ跳んだ彼に斬撃を飛ばす。
青き斬撃と共に霧が舞う。
あの斬撃は避けられない。そして、
「そして、防げない!」
時を操ることなんて、できやしない。
だから時と密接な因果を持つ混沌を媒介した。
破滅の型にも再現出来そうな技術も組み入れた。青霧騎士の技は僕が幼少からずっと練習してきたのだ。
「ク……ハハハッ! まさか……まさかこの我が敗れるとはなっ! 裏の裏をかかれたという訳か!」
師匠が立ち上がり、こちらへ歩いて来る。
「え……でもまだピンピンしてるじゃないですか、師匠」
「いや、今の一撃で一度死んだぞ。魂すらも斬られかけたが、回避した。貴様の勝利を認めてやろう! ……まあ、もっと本気は出せるが。真の力は見せないでおいてやろう」
「ほ、本当ですか!?」
……というか今、死んだと言ったか?
まあ人の領域を超えた動きをしていたし、食事も摂っていなかったから薄々魔族だとは気付いていたけど。
「うむ……では、一次試験合格だ」
……は?
「一次……?」
「では、これより二時試験を開始するっ!」




