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共鳴アヴェンジホワイト  作者: 朝露ココア
14章 安息回帰の譚
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50. 対『地神ルーリー』

「おお……噂をすれば見つかったね。奇襲攻撃(サプライズ)……地神(ルーリー)のお出ましだッ!」


 二人の足元が盛り上がり、土石流が巻き起こる。

 四方から彼らを圧し潰すように倒れた木々をイージアは吹き飛ばす。同時、セティアが彼の手を引いて天へと跳躍した。

 過った巨大な黒き影。


『見つけたで……災厄ッ!』


 【大地を鋤き起し、山々の勢いは強将の叫びが如し。

 轟く咆哮は民の鞭撻たり、銀灰の聖毛は地を駆く疾風が如し。

 花舞い、果実実り、陽炎煌めく。根源は彼神の息吹なり──『大地の時祷書・神の章』】


 地神ルーリー。

 巨大な狼がイージアとセティアに牙を剥いた。


「っ……待て、地神! 話を聞いてくれ!」


『『鳴帝』……いや、リンヴァルス神はん! まさかアンタが敵とはなあ! やっぱり得体の知れない神なんて信じるべきやなかったで!』


 イージアの言葉に地神は聞く耳を持たない。

 やはり外界の存在であるイージアを敵として見做すよう、意識が改編されているようだ。


「今は話しても無駄だよ、イージア君! 地神を殺せば、盤上世界に回帰させてあげられる……やるしかない!」


「気は進まないが……仕方ないのか? ルーリーを解放できると考えれば、戦うのは彼の為にもなる……か……」


 イージアは迷いつつも、地を蹴って迫ったルーリーを迎え撃つ準備を整える。

 セティアの言説が真実ならば、神々のような強大な存在は次々と回帰させていくべきだ。しかし、本当にセティアを信じていいものか。


(いいや……一度信じると決めたのだ。ルーリー……君を解放してみせる!)


 覚悟を決めた時が、戦端が開かれる時。


「──我が身に宿れ、不敗の王。セティア、援護を頼む」


「任されたりー!」


 今は自分が災厄であろうと構わない。

 眼前の神を回帰させるのみ。


「不敗、絶対、完全、最強。力は我にあり──『穿神の王』」


 イージアは土槍を生成。

 万象を穿つ槍撃が直下のルーリーへと降り注いだ。


『ぬうう……おおおっ!』


 ルーリーの展開した結界が槍撃と衝突。

 イージアの攻撃には秩序の力が宿されていた。神々を穿つには秩序の力を。かつて災厄として顕現した過去を持つ彼は、混沌と秩序の力を両方扱うことができる。


 彼の槍技は結界を破壊。ルーリーは攻撃を回避したが、勢いに乗った槍撃が大地を破砕する。


『けったいな攻撃やなあ……!? 同じ神族のくせして、ワイの力を完全に凌駕しとる……!』


「ちょちょちょ、イージア君!? 混沌の力を伴う一撃じゃないと、殺しても魂は回帰しないよ!」


「……む、そうだったな。しかし秩序の力を宿さないと、攻撃が通らないのでは」


 神々を屠るには秩序の力を、災厄を屠るには混沌の力を。

 同系統の力をぶつけても有効打は与えられない。


『しゃーない、本気出したるわ! 【万通大陸】!』


 ルーリーの叫びと共に、周囲の空間が歪曲。

 イージアの浮かぶ空に、無数の土塊と岩盤が出現し、次々と空中に大地が組み立てられていく。


「神定法則か……!」


「地神の神定法則は、如何なる空間にも大地を創造すること。しかも地神が操る大地に敵が接着すると、足元から生命力を奪われるよ。おまけに生成された土地と土地の間を、地神は転移可能だ」


 セティアの解説にイージアは辟易する。

 神定法則は絶対的に有利な状況を作り出す代物だ。しかし、不利な状況下でもイージアたちは戦わざるを得ない。

 ここで頼りにしたいのは彼の傍に佇む少女だが。


「セティア、打開策を献策してくれ」


「打開策ですか? うーん……うーん……君がこう、すごい力で大地を全部吹っ飛ばすとか」


「聞いた私が悪かったな」


 脳筋な策だが、力任せに周囲の地上を吹き飛ばすのは悪くない。

 問題は地神本体を倒せないということなのだ。


『はぁっ!』


「チッ……」


 後方に出現した大地から、突如としてルーリーが出現。

 鋭利な爪牙がイージアを捕捉する。彼は青雪の構えにて攻撃を受け流そうとするが──


「ヘイ、星烈火縫(ユリア・リサート)!」


 二神の間にコメットが乱入。

 空間の亀裂から飛び出した翡翠の星がルーリーを吹き飛ばした。セティアの星魔術である。

 イージアは隙を見逃さず、追撃の一手を放つ。氷槍がルーリーの体表を穿ち、ダメージを与えた。


 しかし傷は神気により一瞬で再生されてしまう。流石は神族の生命力と言ったところか。


「やはり埒が明かないな……混沌の力で倒すのは骨が折れるぞ」


「君のくそざこ攻撃力だと、やはり辛いかね。ざーこざーこ、ざこ混沌」


「なぜ私は罵倒されているんだ……」


 セティアは戦場においても、とかくふざける性質のようだ。生真面目なイージアとは反りが合わない。

 彼女がふざけるのも強者故の余裕だと思うが。レアに近しいものを感じる。


「よしイージア君。ぼくから武器を贈与(リンヴ)しよう。いい槍があるぞ」


「有効打になるなら何でもいい。ルーリーが回復する前に授けてくれ」


 催促するイージアに呆れるように、セティアは彼の手を取って祈り始める。


「人、そして神の帝イージアよ。あなたに我が加護を授けましょう。世界を刺す混沌が如く、美しき心の輝きが如く、突き進む者となりなさい。贈与(リンヴ)……【堕情槍ティアハート】!」


 セティアはイージアの手を握った手とは反対の手で、自らの胸を貫いた。

 そして一筋の光を引き抜く。


「はい」


「はいじゃないが」


 彼は眼前にぶら下がる一本の光を見つめる。これを手に取れば受贈(リンヴル)が完了すると思うのだが、神器の取り出し方が気持ち悪い。


「ゼニアから神剣を受贈(リンヴル)した時はもっとこう……天から聖なる力が降り注ぐような渡し方だったのだが」


「渡し方なんてどうでもいいじゃないか。ほら、早く受け取りなさい」


 イージアが躊躇いながらも光に手を伸ばそうとした矢先、


『余所見はあかんでえ!』


 地上から極光が射出された。ルーリーも黙って状況を静観しているほど甘くはない。

 二人は左右に分かれて光を回避。しかし神器の贈与(リンヴ)は未遂に終わってしまった。


「ちょっと! 君がモタモタしてるから神器を渡せなかったじゃないか! どうするんだ!」


「すまない。もう一度隙を作る」


 神器があればルーリーも倒せるのだろう。イージアが神器を得るためにはもう一度ルーリーに傷を負わせ、回復させて時間を作り……と。

 そこまで考えた時点で、彼は気が付いた。


「……いや、待て。ライルハウトを槍のように使えばいいのでは?」


 神器の威力は多少違えど、神に傷を負わせる威力を持つのはどの神器でも変わらない。

 イージアの持ち得る技の中で最高火力は、『不敗の王──【穿神の王】』。『青霧覆滅』や『覇王閃』も強力な技だが、確実に神を仕留めるには戦意を高めた上での槍撃が必要だ。

 そこで槍を求めていた訳だが、先端が尖っていれば槍のようなものだろう。


 つまり……


「すまん、セティア。やはり君の神器はいらないようだ」


「えっ……えぇ……」

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