表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
共鳴アヴェンジホワイト  作者: 朝露ココア
14章 安息回帰の譚
326/581

48. 片割れ──セティナガル

 ルフィアレム、ミトロン家。

 龍神から神託を授かったローヴルは、新たなる旅路を歩むべく支度を整えていた。他の三人も一旦は実家へと帰り、旅の準備を整えることとなった。

 彼は大広間で剣を磨き、鞄に地図を放り込む。


「よし、これで大体準備はできたか。しかし邪悪の眷属がどこに居るのかは分からない。再び魔神を探すような、気の遠い旅が始まりそうだ……」


 彼は再び仲間と歩めることを喜ぶような、先の見えない旅に辟易するような、複雑な表情を浮かべた。

 そんな彼を陰から見つめる少女が一人。


 流れるような空色の長髪。薔薇色の瞳。

 彼女はミトロン家へ忍び込み、目的の人物を発見したようだ。常にローヴルを観察し続け、隙を窺う。


 そして、彼が大きく伸びをした刹那。


「今……共鳴者を排除ッ!」


 少女は魔術による槍を生成して飛び出した。

 音もなく跳躍し、彼女の刃はローヴルの首へと──


「待てッ!」


 突き刺さる直前、少女とローヴルの間に青い霧が舞う。

 両者、咄嗟の判断だった。少女は青霧を飛び退いて回避し、ローヴルは地面の剣を拾い上げた。


 青霧を放ったイージアは、何とかローヴルへの暗殺を防ぐことができて安堵する。気配を追って来たかと思えば、気配の主が英雄を暗殺する直前。それはもう肝を冷やしたものだ。


「め、『鳴帝』殿……!? そしてお前は……曲者か!」


 ローヴルは少女へと剣先を突きつける。

 彼女は露骨に嫌な顔をして、状況の悪化を把握した。


 同時、ローヴルが感じたのは高揚。身体の底から湧き上がるような力を感じる。

 まるで自分が神にでもなったかのような全能感。眼前の少女とイージアから感じ取る邪悪な気配。


「これは、まさか……!」


 ──邪悪の眷属。

 龍神の語っていた敵が、眼前に居る。しかし『鳴帝』が敵とはどういうことなのか。


「……碧天よ。危ないところだったな」


「え、ええ……いや、ありがとうございます。鳴帝殿のおかげで助かりました」


 しかし、イージアは敵対する素振りを見せない。ローヴルとしても鳴帝が敵だとは信じられなかった。

 故に、今は邪悪の眷属と思われる少女に集中する。とにかく彼女は自分の命を狙ってきたので、敵と断じて間違いあるまい。


 一方、少女はイージアの介入による状況の悪化を思考していた。

 彼女は仮面の男を見つめ呟く。


「第三因果……想定外の介入……回帰は失敗。はあ……撤退かなあ、これは」


 イージアは彼女の正体に気が付いていた。

 こうして眼前で相対すれば否が応にも分かってしまう。混沌の因果、絶対的な支配の力。


「姿は変わっているが……私には分かるぞ。君はアテルだな?」


 創世主アテルトキア。

 かつての宿敵であり、彼の親のような存在でもある。強き愛憎入り混じった対象を、彼が見紛うはずもない。


「違うよ。ぼくとアテルは似た力を持っているけど……とにかく話は後。ぼくたちが争ってる場合じゃない」


 少女はイージアに対して、今は話を聞いてくれと勧告しているのだ。彼女の言葉をイージアは正しく読み取り、言葉の意味を理解したが……


「悪いが、碧天に手出しはさせない。今すぐに退け」


 意味を理解するのと、意味を了承するのは別。

 イージアは境遇上、彼女を信じることは難しい。故にこの場は退いてもらう。


「……分かった」


 少女は槍をしまい、屋敷の外へと飛び出して行った。

 明確な敵意も、殺意も何も感じさせずに。


 ローヴルは剣を下げ、イージアに向き直る。


「助かりました。アレが邪悪の眷属……たしかに、身体の底より力が沸いてきた」


「邪悪の眷属……?」


 空色の髪の少女は離れたが、依然としてローヴルの魂は龍神との『共鳴』を感じさせる。

 ローヴルの魂は明確にイージアを敵だと判断していた。しかし、彼はその事実を表出しない。まさか六花の将が敵な訳もなく、何かの手違いであろうと思っていたのだ。


「はい、世界を滅ぼす眷属だとか。龍神様に討滅を命じられ、力を授けられたのです。まさか向こうから俺の命を狙って来るとは……他の三人も危ないかもしれないな」


(龍神がアテルを倒すように命じた……? いや、そんなはずはない。何かの間違いか?)


 そもそも神族が創世主に敵うはずもなく、アテルがローヴルの暗殺を試みた理由も分からない。

 いずれにせよ、創世主自身に問い質してみる必要がありそうだ。アレは恐ろしい存在だが嘘は吐かない。


「そうだな……私も創造神に聞いてみよう。君も気を付けてくれ」


「はい。ありがとうございました」


 ローヴルはまず、他の三英雄に連絡を取ることにした。

 邪悪の眷属が彼らの命を狙いに来るかもしれない。


「鳴帝殿が敵というのは……何かの間違いだろう」


 彼はそう吐き捨て、聖剣を鞘に納めた。


 ~・~・~


 屋敷を出ると、露骨に混沌の力が撒かれていた。

 おそらく少女が意図的にイージアを誘っているのだろう。彼は気配を再び追い、下水道を抜ける。

 往路を戻り、先は見送った左側の通路へ。下水道を抜けて外へ出る。


 木の葉が擦れる音と、微かな木漏れ日が彼を迎え入れた。

 ルフィアレム郊外の森。幼少の砌はアリキソンと共に剣をここで振るったものだと、イージアは懐かしむ。


「ここに居たか」


 空色の髪を靡かせて、少女が薔薇色の瞳をイージアに向けた。

 創世主の気を放っているのに、見慣れたアテルの姿と違うのは違和感がある。曰く、彼女はアテルではないらしいが。


「やあ、こんにちは。君のことはノアから聞いているよ。第三因果の持ち主、イージア君」


 溌剌と、されど思慮深い光を目に湛えて彼女は言った。


「ぼくは創世主アテルトキアの片割れ。名をセティナガル。創世主の真名は、『セティアナガテルトキルア』。元々ぼくとアテルは一つの存在として設計されていたのさ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ