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共鳴アヴェンジホワイト  作者: 朝露ココア
14章 安息回帰の譚
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47. Welcome to Arteltokia

 ──人ごみの喧騒。ざわざわと、あらゆる感情が入り混じる往来。

 子どもの笑い声と泣き声が彼の耳に届いた。

 時折、魔導車のクラクションが聞こえ、彼は周囲を見渡した。


「…………」


 己の身体をざっと見てから、周囲の空気をたしかめる。特段、人間の身体に取り込んでも毒とはならぬ空気構成と魔力濃度。

 色彩に溢れる大都市の中、たしかめた空気の質感は彼の故郷とまるで遜色ないものだった。


「……ここはどこだ?」


 推定、異郷と思われる地にて最初に発した言葉がそれだった。

 都市だ。高層建築が並び立ち、人が溢れ返り、人の声と魔導車の駆動音が全域を包み込む。


 イージアは考え込む。自分は『愚者の空』に突入し、金色の光に包まれた。

 そして先へ先へと、ノアの飛行機に乗って突入したはずなのだが……


「兄ちゃん、邪魔だよ!」


「あ、ああ……」


 往来に立ち尽くして思案していた彼に、通行人が怒号を飛ばす。

 彼は壁際に寄り、状況を確認。周囲にノアとラウアの影はない。空は碧色ではなく、晴天。看板に書かれた文字を見る限り、彼が過ごしていた世界(アテルトキア)のはずだ。


「世界が元に戻ったのか? いや……」


 違う。何か、直感的な何かがそう告げた。

 また、文明水準を見るにイージアが先程まで過ごしていた時代だろう。時を遡ったわけでもなさそうだ。


「分からん……」


 彼は思わず頭を抱えた。まるで現状を把握できない。

 未来から過去へ飛んできた時を思い出す。彼は慌てることなく、街を歩いて情報を集めることにした。


 ~・~・~


 一時間後。

 イージアは状況をまとめる。


「まず、時代は私が過ごしていた時代で間違いない。場所はルフィア王国の首都、ルフィアレム。人々に何か最近変わったことはなかったかと聞いたが、何もないとのこと。空の色が変わったことも、人々が眠ったことも記録されていない。ラウンアクロードが倒されたことも確認されており、まさしく世界が再び動き出したかのようだ」


 もしかしたら自分が今まで夢を見ていたのかもしれない。

 ノアとラウアとの出会いも、世界の静寂も。全ては幻だったのではないか。


「うーむ……そんなはずはない」


 ひとまず楽園に戻るべきだろうか。

 彼は懐から携帯を取り出す。ノアとの連絡先は交換していないので、彼女の場所は分からない。

 創造神に助言を求めてみるのも手か。


 立ち上がり、周囲を見渡す。人目のつかないところで神転して楽園へ飛んで行こう。

 彼はそう思い立ち、大通りを離れた。



 そして路地裏へ赴く。ルフィアレムの地理には明るい。

 路地裏を通り、この下水道を通って行けば郊外の森に出るはずだ。

 下水道を通る最中、彼はふと足を止めた。


 ──気配。何者かの気配を感じ取った。

 足取りからして、それなりに気配の遮断に慣れている。向こうはイージアの存在には気が付いていないようだ。

 恐らくホームレスか何かだろう……何者が下水道に潜んでいようとも、普段の彼ならばそう考えて、気に掛けることはない。しかし、彼が微かに感じ取った嫌な気配は否が応にも足を止めさせた。


 どこか懐かしく、どこか近しいものを感じる気配。

 これが何なのかは未だ判然としない。


「…………」


 森へ抜ける左方ではなく、気配を追って右方へ。

 この先は屋敷が立ち並ぶ区画に出る。『碧天』の屋敷を中心として権力を持つ者たちの家が多く、王城に近い区画だ。

 眩い光がイージアを迎える。下水道を出た途端に暖かい風が吹いた。


 気配は碧天の屋敷の方角へと続いている。

 彼も追随して歩き出した。


 ~・~・~


 時は数日遡る。

 神域、龍神の神殿にて。四英雄は龍神の招集を受け、神託を聞いていた。


『よくぞ参った、四英雄よ。魔神リグト・リフォルを討伐したお主らに折り入って頼みたいことがある』


 龍神の言葉に、『碧天』ローヴル・ミトロンが威勢よく答える。


「はっ! 我らは神々の使い……何なりとご命令ください!」


『うむ、感謝する。実はこの世界に、四体の邪悪の眷属が入り込んだ』


「邪悪の眷属……?」


 龍神の話を聞いていた四人は気を引き締める。

 再びリグト・リフォルのような存在が降臨したのだろうか。


『奴らは放置すれば、世界を滅ぼす可能性がある。そして魔神以上に手強い……故に、新たなる力を授けよう』


 龍神の咆哮と共に、四人の身体を神々しい光が包み込む。

 しかし、神能を授けられた時のように不思議な感覚が彼らを襲うことはなかった。

 『輝天』のカシーネ・ナージェントが首を傾げる。


「何が起こったの?」


『我との【共鳴】を許可した。先に語った邪悪の眷属が現れた際、我が力を行使できるようにな。邪悪の眷属との戦いでのみ、汝らの真の力が解放される。奴らは世界の何処に潜んで居るのかが分からん……故に、邪悪の眷属と接近すれば直感で分かるようにしておいたのだ』


「なるほど……ありがとうございます! 必ずや邪悪の眷属を打ち倒し、世界を救ってみせます!」


 龍神は深く頷き、去りゆく四英雄の背を見つめた。

 ──世界に災厄が降臨した。そして、創世主は全勢力を上げて災厄を討滅するように、神々に命じたのだ。

 災厄の居場所は不明。四体で一つの災厄を成し、それらは世界のどこかに潜伏している。龍神が分かる情報はそれだけだった。


 災厄ラウンアクロードを討伐した矢先の、新たな敵の降臨。

 しかし敗北は許されない。


『この安息世界(アテルトキア)を護る為に……』

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