表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
共鳴アヴェンジホワイト  作者: 朝露ココア
14章 安息回帰の譚
324/581

46. 世界の守護者

 マリーベル大陸南方に位置する、無人の島。

 ノアに教わったリフォル教の本拠地に、レアは足を踏み入れた。


「まさかこんな辺鄙な場所に拠点があったとは……ふむ、神除けの結界か。リンヴァルスに張られている結界よりも強固なものだ」


 彼女は島の周辺に張り巡らされた見えざる結界を感知する。創世主や神々の目から逃れるための結界。

 極めて高度な技術を集約した代物であり、この無人島がただならぬ地であると予想できる。


 鬱蒼と茂る森の中を進み、彼女は島の深部へと進んだ。


 ~・~・~


 レアは一つの建物を発見した。白亜の壁に蔦が蔓延っている。

 そこまで建物は大きくないようだが、地下に広大な空間があるようだ。鉄柵を踏み越え、そして侵入を阻む結界と幻術を解除して彼女はそこに辿り着いた。

 警備の厳重さから見て、ここがリフォル教の本拠地に違いないだろう。

 彼女は内部を調べるため、白亜の扉を吹き飛ばして内部へと進んだ。



「これは……」


 地下の大空間に鎮座していたのは、藍色のリアクター。

 この拠点には奇妙な機構や未知の技術を用いた物質が無数にあったが、リアクターは一際レアの目を惹いた。

 混沌の力。凄まじい規模の混沌の力が、とめどなくリアクターから溢れ出していた。周囲に嵌め込まれているのは数十個の白き宝玉。


「……何の装置なのかな、これは」


 彼女は虚空に向かって問いかけた。

 そこに何者かが潜んでいることに気が付いていたのだ。


「……これは『眠りの籠』。生命を眠らせ、安らぎへと誘うための装置である。無論……これを破壊したところで、教皇様が居られる限り世界は眠りから覚めぬ。あくまで眠りをより深くするための装置じゃな」


 リフォル教大司教、ギリーマ。

 虚空より姿を現した、この世界で唯一の眠らぬ人間。

 彼を除く全てのリフォル教徒は眠りに入ったが、彼だけはリアクターの守護を命じられた。


「教皇はここには居ないのかな?」


「然り。教皇様はお主らでは手の届かぬ領域へ……そして、手の届かない存在へとなりなさった。この世界の静寂は破られぬ。お主らにはどうすることもできぬよ」


 停滞が続く限り、災厄が降臨することもなく、世界は滅ばない。

 無謬性の安寧をギリーマは信じていた。故に、眼前に立つレアは世界を破滅させる世界の敵なのだ。


「詭弁だね。人の意志に不可能はない。ATがどんな存在へなっていようとも、どこに居ようとも。私の友は必ず世界を救うよ」


「仕方あるまい……相手は始祖か。骨が折れる」


 ギリーマもまた、世界の守護者に足る力を身に付けていた。

 最強の名を冠する始祖を相手に、一歩も退くことはない。


 互いが互いを敵と認めると同時、先に動いたのはギリーマ。

 彼の背から白き茨が生え、レアに向かって真っすぐに伸びた。混沌の力。彼は『エムティター』化を進め、もはや人間と呼べぬ存在へとなっていた。


「っ……!」


 レアは魔結界を展開するが、いとも容易く破られる。

 彼女は迫る茨を受け、秩序の因果を宿した身に大きな損傷を負う。


「無駄なことよ。我が身に宿された混沌は万象に勝る。其処のリアクターに嵌められた混沌の宝玉は、一個が国家間の戦争規模の混沌を秘めておる。我はその宝玉を十四個取り込んだ。人間の数に換算して、実に七千万……七千万人の魂の力を持っておる」


 人の争いもまた、秩序ではなく混沌の因果に縛られる。

 リフォル教が世界中で起こし続けた争い。それらは混沌の力へと変換され、ギリーマの身体に取り込まれた。


「外道だね。外道だとも。しかし、甘く見たな司教よ。私は……始祖の名は伊達ではない。いや、始祖ゆえの力をお見せしようか」


 本気を出さなければ眼前の男は退けられない。そう判断したレアは、自らの内に眠る力を解放する。


「全権能、解放──我が身に宿れ。『秩序の加護』」


 彼女が災厄の御子として宿す、秩序の加護。

 自らが召喚権を持つ災厄の力を一部奪取し、異能として行使する。ただし異能として落とし込む以上、災厄の力は人の領域まで衰弱する。レアが持つ召喚権は十六。

 故に、彼女は十六の災厄の権能を行使できる。


「っ……これは……!?」


 ギリーマが刮目する。

 始祖レイアカーツの深奥は、まさしく災禍そのもの。完全な存在となったギリーマでも、肌に感じる圧倒的な覇気。


「我が名の下に、我が神の名の下に平伏せよ。我が名は光輝、我が神の名は救済。偉大なる礎、流るるは血に非ず、生命の清水なり。命ず、汝が罪を償え」


 レアの周囲から青き炎が立ち昇り、ギリーマへと飛来する。

 彼は触手を奔らせ全方位からの攻撃へ対応。しかし、


「力が……奪われる……!?」


「我が炎は魂を食らう。君が宿した……七千万だったかな。その魂を全て焼き切ってしまおうか」


 触手はたしかに炎を撃ち落とすものの、炎に触れる度にギリーマの力が簒奪されていく。

 第八災厄、ラトピオンの権能。彼の炎は神々の魂を焼き焦がし、妖神を屠ったとされる。


 ギリーマは混沌の力を一斉に解き放ち、周囲の炎を薙ぐ。同時に触手を全方位へ向けて飛ばした。

 白き茨がレアを取り囲み、正面と死角から襲い掛かる。

 

 「次元融解(ゼレトーア・フラム)


 迫った白茨は歪んだ空間に飲み込まれ、虚無へと還る。

 第四災厄、フラムトアの権能。フェルンネも同じ災厄から力を取り込んだが、レアが空間の歪曲、フェルンネが時間遡行と……個人によって発現する力は異なる。


「おのれ……しかし、お主の炎で我が力を焼き切るには、かなりの時間を要する。どちらの息が切れるのが先か……」


 ギリーマは彼我の差を感じ取り、長期戦に持ち込む算段であった。

 だが、世界は危機的状況にある。レアはわざわざ長期戦に付き合うほど現状を楽観視はしていなかった。

 故に彼女は終わりを紡ぐ。


「……知っているかい? 最強の災厄を。彼の災厄は一撃で海を割り、大地を消し飛ばし、数万の命を奪ってしまった。たとえ私の身に宿して力を抑えたとしても、君に渦巻く混沌の力をも軽々と消し飛ばしてしまうだろうね」


 彼女は凄まじい邪気を迸らせ、一歩前へと踏み出した。

 衝撃が地下の外壁を揺るがす。彼女が手に取った邪気は刃へと変形。


「終わりだ」


 そして、一閃。

 紫色の闇炎が爆ぜる。

 万象を裂く一閃はギリーマの力を魂もろとも斬り裂き、リフォル教の本拠地が築かれた島をも消し飛ばした。

 第七災厄、および第十六災厄、【邪剣の魔人】の力である。


「馬鹿な、この力がッ……!? やはり秩序の徒は……このままでは厄滅が……ッ! 教皇様、陛下……!」


 ギリーマは断末魔を上げ、消滅。


「やれやれ……これで私の役目は終わりかな? 早いものだね」


 空中から砕けた島を見下ろしながら、レアは気を探る。

 リアクターは破壊されたが、まだ世界は戻っていないようだ。依然として空の色は変わったまま。


「あとは祈るのみ……か」


 彼女は彼方の空を見上げた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ