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共鳴アヴェンジホワイト  作者: 朝露ココア
13章 ラストミッション
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幕間3. 時は穏やかに流れ

 グラン帝国。

 アントス大陸で最盛を誇る広大な土地。最盛と言っても国土が広大なぶん、外れには閑散とした地域もある。

 そんな長閑な街中に、『鳴帝』と『守天』が降り立った。任務を付近で終え、せっかくだから知己のいる場所を訪れようという流れになったのだ。


「サーラちゃん、ゼロ君! イージア師匠も!」


 イージアの元弟子……ロキシアが三人を出迎えた。

 彼女は故郷で服飾の仕事に就いているらしい。付近のフロンティアから魔物が流入した場合には、力ある者の責務として討伐を果たしながら。彼女の先祖であるラーヤは、最終的に焼き物の仕事に携わっていた。

 もしかしたらロキシアの系譜はクリエイティブな仕事に縁があるもかもしれない。


「久しぶりだな、ロキシア! 元気だったか?」


「うん。ゼロ君も元気そうで何より。あと、イージア師匠も……魔神が復活した日……私は師匠に力をもらいました。リンヴァルス神様……っていうのが師匠の正体なんですよね」


「まあ、正体というか……勝手に神を名乗ったら力が宿っただけだ。私自身もよく分からない」


 イージアの無自覚な答えにロキシアはクスリと笑う。

 魔神戦役は既に一年前のこと。今や人々の記憶から忘れられつつあるが、リンヴァルス神という名前は深く歴史に刻まれることとなってしまった。


 三人はロキシアが勤める服屋に入る。

 サーラはピンク色の服を物見しながら、ロキシアに尋ねた。


「ロキシアはいいなー。服飾のお仕事って何してるの?」


「ファッションを考えたり、服を卸したり、あと型紙を作ったり……まあ田舎だから流行とかはあまり関係ないんだけどね。衣服専門だから、ファッションというよりもアパレル系かも」


 特段衣服に興味はないイージアとゼロは、女子二人の話にはついていけそうにない。

 手持ち無沙汰に店内を徘徊していると、話を終えたロキシアがやって来た。


「イージア師匠、いつもその服装ですよね。サーラちゃんも師匠がローブ以外を着ている場面を見たことがないって言ってました」


「このローブは便利なんだ。祝福がかなり付与されているからな」


 温度調整、自動転移、属性耐性、自動修復。

 他にもありとあらゆる加護が揃い踏みだ。おそらく戦闘面でもこのローブが有ると無いとで、かなり差が出ることだろう。


「せっかくだし、他の服も着てみませんか?」


「……まあ、別に構わないが。服装に特にこだわりはないので」


 おそらく以前の彼であれば、レーシャから授かったローブを脱ぎはしなかっただろう。

 いつしか彼は過去への依存から抜け出していた。彼自身も気付かない内に。

 遠くでサーラがゼロの服を選んでいる。弟の容姿を甲斐甲斐しく整えるその様は、まさに姉という雰囲気を漂わせている。


「イージア師匠は……とりあえず仮面を取りません?」


「そうだな」


 『鳴帝』として任務で人前に姿を現す際は、仮面を被ることにしている。しかしロキシアの前ならば問題は無い。

 彼が仮面を外したかと思うと、ロキシアはサングラスを彼の顔にかけた。


「……なんだこれは」


「サングラスです」


「それは分かるのだが。なぜサングラスを?」


「ストリート系のファッションはどうですか? 服はこっちのやつを着てみましょう」


 なんとか系、と言われてもイージアには理解できない。

 服装など何でも良い。彼は言われるがままロキシアが用意した衣装を試着した。

 白シャツに黒いカットソー、スラックス。


「イージアはどう? ……って、何そのマフィアみたいな服装!」


 やって来たサーラは、イージアの服装を見て笑い転げた。

 ゼロは無難に落ち着いた服装にも拘わらず、イージアは派手が過ぎる。


「おお、カッコいいじゃん!」


「ゼロ、あんた……これが良いって正気? どう見ても不審者じゃん。いや仮面被ってても不審者だけど」


「最近はこういうファッションが流行してるらしいよ。でも、イージア師匠は落ち着いた服装の方が似合うのかな」


 イージアもアルスとして過ごしていた頃は、それなりに服装にも気を遣っていたものだが。

 他者の目をほとんど気にしなくなると、服装も疎かになる。


「とりあえずロキシアのお勧めの服を買おう」


「やったー! お買い上げありがとうございます!」


 任務の給金の使い道に困っているイージアは、弟子の店で散財することにした。

 サーラとゼロもまた訪れることを約束し、楽園へと戻るのだった。


 ~・~・~


「あ、イージア。上から花瓶が落ちる」


「ん」


 創造神は戸棚に近付いたイージアに警告した。

 急に窓から強風が吹き、際にあった花瓶が揺れる。そして真っ逆さまに落ち──イージアが受け止めた。


「……前々から気になっていたのだが、その予知は権能なのか? 神定法則か?」


「いや。僕は神定法則を持っていないよ。創世時から存在している神だけどね。この予知は権能の一つだけど、信用できないんだ。こういう日常的な事象はほぼ確実に予知できるけれど、災厄の動きとか世界への干渉とか……大規模なものは殆ど外れてしまう」


「日常の予知ができるだけでも大したものだと思う。……未来はどれくらい先まで見える?」


 彼は一つ、不安な事項があった。

 創造神が邪気に呑まれ、破壊神となる……通称『破壊神の騒乱』。今から五十年後に起きるであろう事態だ。もしかしたらイージアの干渉により、その未来は消えているかもしれないが。


「うーん……その時によって変わるよ。少なくとも、君が憂いている事態は自分で何とかする目処は立っている」


「……?」


 創造神は思考が読める訳ではないだろうに、イージアが何かを憂いていることを言い当てた。

 創造神は微笑んで、ゆったりと玉座に凭れ掛かる。


「未来は変えられる。でも、それが良い結果を齎すのかは分からない。僕が見えるのは、直線状の未来だけで……その未来を変えた先に何があるのかは分からない。実際、君がリンヴァルス神であることも、何もかも予測できなかった。だからこそ世界は面白いのさ」


 残念ながらイージアに世界の面白さを享受する心はない。

 残酷で、容赦ない世界。だからこそ彼は希望の導となるべく戦ってきた。


「心配無用、情け無用。僕の未来は僕で何とかする。だから君は幸せに生きたまえ」


「……分かった」


 腑に落ちないイージアだったが、今は主人である創造神の言葉に頷き、信じておくことにした。

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