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共鳴アヴェンジホワイト  作者: 朝露ココア
13章 ラストミッション
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35. リンヴ=アルス

 リンヴァルス帝国。

 災厄のオーラに晒された国は、混迷を極めていた。崩れた摩天楼、煙を上げる魔鋼ビル。オーラを浴びた沿岸部から炎が次々と広がり、天に黒い流星が降り注ぐ。

 始祖による結界は解除され、次々と邪なる気が溢れ出し……また一人、一人と死にゆく。


「おお、神よ……」


 敬虔なるリンヴァルス帝国の国民は跪き、天へ祈りを捧げる。無情にも彼の身体は瓦礫に押し潰され、降り立った魔物が死体を蹂躙する。

 絶望。

 もはや彼らを守る盾はどこにもない。


「始祖様、お助けください……」

「ああ、リンヴァルス神よ……」


 民の頼みとする始祖はATと戦い続けている。彼らが願うリンヴァルス神も存在せず。

 蒙昧を罪として、災厄による罰が国に下されようとしている。


 熱風が駆け抜けた。炎がリンヴァルス皇城を襲い、一角が崩壊。

 絶対的な権威を持つ皇帝の居城の崩落は、帝国の落葉を示し出す。もはやこれまで。

 五千年に渡るリンヴァルスの歴史は潰えてしまう。


「お母さん……怖いよ……」


「大丈夫よ……大丈夫。必ず神様が助けてくれる」


 幻神を信じ、彼らは祈り続ける。


 ~・~・~


 沈む。沈む。

 恐怖の海へと沈んで行く。彼方より射し込む地上の光。遠ざかってゆく。

 あの光を掴めなければ、私はきっと一生光を浴びれないまま。


(助けてくれ……)


 誰か、私を助けてくれ。

 怖いのだ。あの災厄が怖い。とうに過ぎ去った筈の感情が蘇る。

 世界を守らなければならない。私にできることは立ち上がり、奴に立ち向かうこと。今起き上がらねば、再び世界が滅んでしまう。


(動いてくれ……)


 ぐつぐつと、溶岩の音だけが響く。

 私の背を押す声は聞こえない。声援などなくとも、立ち向かわなくては。


(……?)


 何かが、聞こえた。

 別に音が鼓膜を叩いた訳じゃない。聞こえたと言うよりも、響いたと言った方が正しいのか。

 誰かが私を呼んでいる気がした。


(……気のせいか)


 こんな深海で誰が私を呼ぶと言うのか。

 そんなことはどうでも良いのだ。ラウンアクロードに再び立ち向かわなくては。

 皆が戦っている。私も戦うべきだ。


 ──どうして身体が動かない?

 どうして私の心はここまで脆い?

 完全たれ。無欠たれ。物語の主人公のように、何者にも屈さず立ち向かえ。人形のように、与えられた役割に果敢に立ち向かえ。

 どうして。


(……うるさい)


 先程からうるさいんだ。

 誰かが私を呼んでいる。黙ってくれ。


 助けてくれと……そう叫んでいる。

 助けてほしいのは私の方なんだ。

 戦う勇気を。守る為の力を。私に届けてくれ。


(うるさい……うるさい……!)


 次第に私を呼ぶ声が大きく、多くなっていく。

 重なり合う喚起の声。縋る招来の願い。

 誰が私を呼んでいる?


 魂に声が響く。願いが鳴り響く。


『為すべきは、己の瞳で見て、己の意思で考え、己の意志で運命を切り拓くこと』

『こ、の……世界は、広い。だから……お前も……護るべきものを……』

『ラウンアクロード……お前を殺す』

『君が僕を愛してくれた瞬間を、僕は愛した。そして、その愛に報いる為に──僕の全てを捨ててでも、守り抜く、絶対に』

『……ありがとう。こんな私を、信じてくれて』

『私はあなたを見捨てない。それが私に出来る仕返しだと思うから……一緒に生きましょう。どれだけ辛い過去があったとしても、生きましょう』

『……必ず生きて、再び君と未来を生きる』



 呪いのように。これまでの歩みの断片がフラッシュバックする。

 共鳴者として。英雄として。鳴帝として。

 私は歩みを止めてはならない。振り返ってはならない。


「……すまない」


 誰に謝ったのだろうか。

 私を信じ、愛してくれた者すべてに。こうして畏怖して震え、起き上がろうとしなかったことを詫びたのだ。

 誰かを救い、守ることが定めならば……私はその『祝福(のろい)』を受け入れよう。



 ──知っている。私にしか成し得ぬことがある。

 だから歩みを止めるな。

 もう過去に囚われるのはおしまいだ。 



『……あなたに祝福を。その意思が何者にも屈さぬように、共鳴を』


 声が聞こえた。

 僕の、私の名は──


「【降臨(ガルアード)】」



 気が付けば、私は深海から抜け出していた。

 身体を神気が包み込み、いつしかリンヴァルス帝国の天へと立っている。

 惨憺たる有様だ。それでもなお、民は祈りを捧げ希望を捨てずにいる。ならば、私も希望を捨てはしない。


 ……不思議な感覚だ。

 自分の魂が澄み渡っている。眩い神気が溢れ出し、国を覆う邪気を払い退ける。

 人々は私を見て……一縷の希望を瞳に燃え上がらせた。


 概念神リンヴ=アルス。

 レアが仮に定めた、幻想の神。

 されど幻想に祈りは宿り、神族の本質である人々の意志が形となる。


 アルスの名を冠す神、それはまさしくこの身であろう。

 立ち向かえ、諦めるな。祈りの器は此処に在り。


 安心するが良い。君たちを救って見せよう。


「我は『鳴帝』イージア。またの名を……リンヴァルス神。今、救いを齎さん」


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