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共鳴アヴェンジホワイト  作者: 朝露ココア
13章 ラストミッション
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33. クロノスキラー

 理外の魔女、フェルンネは秩序の因果を追って動き出していた。

 魔神の眷属と共に世界へ出現した災厄の駒。常軌を逸する力を持つ災厄の眷属は、八重戦聖である自分が食い止めるべきだと判断して。

 ディオネ神聖王国、アリトーサ丘陵。季節は冬。白雪がひたすらに降り積もる地へ彼女は降り立った。


「ここに災厄の力を感じる……」


 ある意味では第四災厄フラムトアを取り込んだ彼女と同質の気配とも言えよう。

 周囲を見渡しても、一面の雪が広がるのみ。しかし彼女の見えざるものを視認する魔眼は、たしかに魔力の気配を捉えていた。


 ヒュ、と。

 碧色の矢がフェルンネの横を通り抜けた。

 彼女は風魔術によって水霧の幻影を晴らす。姿を隠していた災厄の駒が現れた。


「そう……これが……彼が見た地獄」


 水色の髪、より一層蒼く輝く瞳。

 四つ色に輝く魔力を纏った少女。


 イージアは未来で、この地獄の様相に立ち向かったのだ。

 彼は言った。自らの妹をその手で殺めたのだと。

 彼は語った。二度と取り戻せない未来があるのだと。


「あなたを彼に会わせる訳にはいかない。ここで死んでもらうわ」


 フェルンネは【秩序茨インディ】を呼び出し、少女に相対した。

 無機質な瞳。殺意のみを湛えた意志。もはやかつての少女の面影はなかった。


 少女の姿が掻き消える。

 水と風属性の複合魔術、『水霧(メリアスター)』。その魔術を彼女に教えたのは他でもない、かつてユリーチと名乗っていたフェルンネである。

 幻影など、魔力の流れを視認できる彼女の魔眼の前には無力。


煉陽纏(ラルジマノフ)


 フェルンネの手足が炎の鎧に包まれる。

 彼女はインディから発せられた黒き茨を振り抜き、炎を周囲に拡散させた。炎の茨が消えた少女の左足を掠め取り、動きを乱す。

 

「ファローリィ」


 動きの阻害を確認して即座に光を放つ。

 災厄の眷属もまた邪気に支配される者。光魔術は特攻だ。

 迸った極光が少女を飲み込み──


「…………『瞑想(ムフェイノ)』」


 光の動きを確認すると同時に、フェルンネは瞳を瞑る。

 自らの魂に眠る力を解放し、より純粋な魔力の循環を促す。その秘技の名は瞑想(ムフェイノ)。彼女は戦いが終わると思っていなかった。災厄の眷属は伊達ではない。個々が神を殺し得る力を持ち……


「そこね」


 光に消し飛ばされた筈の少女は、いつしかフェルンネの背後に立っていた。

 彼女は即座に振り向き、右足で勢いよく蹴りを放つ。少女はフェルンネが物理的な攻撃を仕掛けてくることを予想していなかったのか、地面を勢いよく転がる。

 追撃の手は止まらない。瞑想により純化された魔力は、純粋な身体強化にも大きな力を与える。

 少女は矢を番え、無闇に迎撃するが……勝負は一方的。フェルンネの拳が少女の腹部を穿ち抜き、その身体を天へと突き上げる。


 たとえ災厄の眷属といえども、八重戦聖には及ばない。

 空中へ飛んだ少女は邪気で傷を修復し、そして──


『──明鏡止水、『腐濁流』』


「ッ!」


 邪気が突如として爆ぜた。

 懐かしくも、違和感のある声がフェルンネの鼓膜に届く。天に生じた雨雲が邪気を搔き集め、弾丸となってフェルンネへ飛来。

 雨粒一つ一つが致死性の毒だ。彼女の魔眼はその雨の危険性を読み取った。


「光よ、ツイルーン!」


 咄嗟に光の障壁を生成し、邪気を防ぐ。

 邪気を払い落された雨粒はただの水と化し、彼女の衣服を濡らす。


「邪精霊……」


 邪気を伴う精霊術。俗に邪気へ堕ちた精霊が扱う術とされている。

 災厄の手にかかれば人も、神も、精霊も邪気に染まる。少女と契約していた精霊も邪に染まってしまったのだろう。厄介な事この上ない。


 彼女が思考している間、少女は手を休めず動いていた。

 風魔術を用いて地上へ即座に舞い戻り、フェルンネ目掛けて炎魔術を放つ。


「──!」


 思考の間隙を突かれたフェルンネ。少女の意図するところはすぐに把握できた。

 しかし、思考に身体が追いつかない。彼女が浴びた水滴と、未だに降り頻る雨粒。それらが爆炎と接触し……


「『虚構』」


 大爆発が巻き起こる。

 フェルンネは爆発に巻き込まれ重傷を負うかと思われたが、そこまで彼女は甘くはない。災厄フラムトアの力を利用した次元融合、『虚構』。

 自身を一時的に異次元へと隔離し、攻撃の対象外とする術。副作用として神経と感覚の乱れが生じるが、とうに彼女は慣れ切っている。


『明鏡止水──『腐水之尾』』


 少女の足元が黒く、平らな鏡のように変化。

 地上を伝って彼女へ流れ込んだ邪気が一筋の矢となって、フェルンネを標的として捉えた。

 精霊術による矢は魔力障壁でも防ぐことが難しい。故に『虚構』の中へと留まって攻撃を往なすのが最善手と思われたが……フェルンネは敢えて現実へと舞い戻る。


「来なさい」


 矢が真っ直ぐに、静かに飛来。

 寸分違わぬ精度を誇る矢の起動は、確実にフェルンネの心臓部へ迫り、


「我が真理(ナレムファ)の魂よ。我を根源へと至らせ給え……【真理解放(ナルフェア)】」


 フェルンネの全身から魔力が消失する。

 同時にアリトーサ丘陵全域を奇妙な魔磁場が覆い尽くした。理外の魔女は漫然と立ち、迫り来る矢を見据えている。

 矢が彼女の肌へと触れる、刹那。


「『絶対空域(ルアルトルケ)』」


 凄まじい空間の歪みが生じ、矢を捻じ曲げた。空魔術の秘奥、絶対空域(ルアルトルケ)

 少女はフェルンネの異変に気付く。彼女の空になったはずの魔力が戻っている。いや、戻っているだけではない。

 少女を含め、この丘陵全体にある魔力がフェルンネに集約しているようだ。自らの体から魔力が吸われていることに気が付き、少女は咄嗟に相手から距離を取る。


「逃げても無駄ね、『地表断崖(エゼ・ネオルグ)』」


 彼女の背後に断崖が突き上がる。

 雪を突き破って出来た雪天を衝く断崖。土魔術の深奥である。


「『根源獄炎(ナレムファクルイド)』」


 少女が状況を判断する暇もなく、周囲の雪が一瞬にして蒸発。

 灰すらも焼き焦がす獄炎が彼女を取り囲んだ。

 少女は水魔術を纏って炎を減衰しようと試みるが……


「『暗獄涅槃(ヨ―ルガンドム)』」


 彼女の纏った水の衣を、闇の帳が消し去った。

 万象を闇へ葬り去る、闇魔術の究極形態。獄炎に呑まれ、行き場を失う少女。フェルンネは一筋の言葉を紡ぐ。


「『赤術矢メズ漸減ビリス』」


 次元を貫く紅の矢。理外魔術である。

 理外魔術は理内魔術に勝る。これまでフェルンネが放った無数の最高峰の魔術。それらを貫き、紅の矢が少女へと迫る。

 身動きの取れない少女は、為す術なく矢に刺し貫かれ──


「……さようなら」


 炎に呑まれ、塵となった。

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