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共鳴アヴェンジホワイト  作者: 朝露ココア
13章 ラストミッション
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31. 『守天』ゼロ・サーラ

 天神ゼニアが空を駆け、迫り来る竜の群れを一掃する。白翼が煌めき、聖なる神気は地上の魔物の軍勢を浄化していく。

 天神と並行して天翔ける双翼が一つ。『守天』ゼロとサーラは、その名に恥じぬ戦いを見せつけていた。


「ゼロ、右!」


「任せろ」


 彼らの活躍は獅子奮迅。もはや魔神の眷属など恐るるに足らず。

 ゼロの飛ばした斬撃は全ての魔物を貫き、斬り捨てる。


『…………』


 そんな彼らを見つめる者が一人。

 紫紺の髪に、蒼く光る右目と、左目に付けた眼帯が特徴的な少女。彼女は双剣を下げて戦況を俯瞰していた。

 この場で最も脅威となり得る存在を見極める為に。標的を決定。最大の脅威はあの剣士と魔導士の二人組だと見定め──


「──見えてるぜ」


 少女の剣士が振り抜いた一閃は、ゼロの剣により受け止められた。

 羽の様に軽い『天剣カートゥナ』は咄嗟に構えた防御でも難なく攻撃を受け流す。


水矛(メリアレオ)


 攻撃を受け流され、体勢を崩した剣士の背に水の矛が迫る。

 サーラの放った魔術を受けた剣士は心臓部を貫かれ、その身から邪気を滔々と垂れ流す。


「こいつ……なんだ? 魔物とはどこか違う……」


 ゼロが絶命した少女の下へと歩み寄り、その正体を確かめようとする。刹那、サーラと剣士の身体が同時に動いた。


『……半神降臨(ジフラム・ガルアード)


「ゼロ、下がって!」


 邪気に包まれていた剣士の身体に、神気が満ちる。

 瞬間的に振り抜かれた双剣の刃。ゼロは左側面から迫った刃を受け流すが、右からの追撃は防ぎ切れない。咄嗟に動いたサーラは水魔術で流水を作り、なんとか斬撃の威力を減衰させた。


「チッ……なんだコイツ、死んでねえのか!?」


「警戒して。人でも魔族でも、神でもない……怪物だよ」


 神気と邪気を同時に併せ持つなど、通常の生命体ではあり得ない。サーラの知る限り、そのような存在はイージアのみ。

 剣士の動きが格段に変わる。先程も隙のない佇まいだったが、今はより洗練されている。

 あの剣士を最大限に警戒するべきだ。周囲の魔神の眷属は天神に任せるべきだと二人は判断。


「俺が前線に出る。援護頼むぜ」


 ゼロが飛び出す。天剣カートゥナを構えて刺突。

 剣士は左剣によって攻撃を往なすが……


「──『絶対斬撃』」


 ゼロの【干渉】の神能が発動。

 空を切った筈の刺突はいつしか剣士の胸を貫いていた。彼の神能は空間に干渉することにより、絶対に攻撃を命中させる。視界に入るモノであれば全てが対象だ。

 しかし、即座に剣士の傷は塞がる。右剣で斬り返された剣士の反撃。敵の再生速度が想定外に速く、動揺したゼロは反応が僅かに遅れる。

 彼の頬を剣閃が掠め、大きく後退る。


「ゼロ。領域を創る」


「……分かった。死ぬんじゃねえぞ」


 二人の間に会話はそれだけで十分だった。その一言だけで、互いが何をするのか把握できたのだ。

 ゼロは下がり、サーラが前面に出る。二人の動きを警戒していた剣士だったが、痺れを切らして足を運ぶ。剣士に理性はそこまでないようだ。真っ直ぐにサーラ目掛けて放たれた斬撃。


水鞭(メリアンテ)


 サーラへの接近を拒むように、剣士の足元から水の鞭が飛び出す。

 大幅な身体強化を受けた剣士からすれば反応は容易。魔導士の攻撃は、武人にとっては遅すぎる。

 剣士は足元から迫る水の鞭を斬り払おうと双剣を振るうが……


「『自在変換』、重化(アス)


 水鞭は幻のように掻き消える。同時に剣士を襲ったのは虚脱感。

 サーラの【干渉】の神能、『自在変換』。魔術の術式を中途で変換し、異なる属性へと変化させる。一見すれば地味な神能だが、その効果は凄まじい。魔力によって起こり得る全ての事象を歪曲し、自らが望む事象へと変化させるのだから。


 重力負荷が剣士の身に掛かっている。簡易的な重魔術だが、一秒でも隙を作り出せれば十分だ。


「干渉空谷──『死闘』」


 サーラの発動した術式が周囲一帯に伝播。

 青色の結界が彼女と剣士を包み込み、まるで籠のように取り囲む。水が逆巻き、天へと昇る固有の結界を展開。サーラの世界へと剣士を引きずり込んだ。

 同時にサーラは自身の深奥で魔力を練り始める。


「これでタイマンって訳だね。さ、アタシを倒してごらんよ」


 挑発を歯牙にもかけず、剣士は無機質に攻撃を続ける。

 素早く、流れるような一撃。居合を主体に組んだ、回り込みの激しい剣戟。頬を掠めた剣閃にサーラは苦い顔をする。


(魂に干渉する一撃……まともに頭部への攻撃を受ければ死ぬ)


 剣士の斬撃には、不死性を断つ力が乗せられていた。相手が魔族だと推し量った上で選んだ斬撃だろう。

 サーラは不思議と斬撃を紙一重で躱し続ける。速度、反射共に剣士の方が圧倒的に上。

 しかし、剣士の太刀筋はどこか既視感のあるものだった。


(この動き……ルカ師匠? いや、どちらかと言えばロキシアに近いかな……)


 何度も訓練をした相手の剣筋が重なって見えた。

 相手の剣士が何者なのかは知らないが、今はとにかくそのデジャヴがありがたい。


風巻(ウェイン)……からの水弾(メリアスト)!」


 風属性の魔術で風圧を巻き起こした後、水蒸気の爆破へと変換する。

 移動の阻害を警戒した剣士は、突如として正面で起こった爆発に後退。

 ──隙が生じた。結界を展開してからずっと蓄積し続けていた魔力を解き放つ。『天魔書ニブルゲ』の水魔法陣が描かれたページを開き……


「『波濤(ナレムファゲリュン)』ッ!」


 ここはサーラが創造した結界世界。

 故に、魔力の規模も爆発的に上昇する。結界内を全て覆い尽くすほどの水流が生じ、魔鋼をも斬り裂く水刃の嵐が舞う。荒れ狂う水の舞踏、水魔術の深淵。

 術者であるサーラを除いて全てを破壊する水嵐は、剣士を包み込んだ。


 これで戦いが終わればそれで良い。しかし、終わらなければ──


「ッ!」


 水の幕から、満身創痍の剣士が飛び出した。全身から邪気を滴らせ、剣に神気を宿し。

 警戒を解いていなかったサーラ。彼女は真紅の瞳で迫り来る剣士の……さらに後方を見据える。

 視界の端に舞った一枚の羽。親の顔より見たゼロの片翼だ。


「結界解除……『相互転移』!」


 結界を解除したと同時、剣士の背後に現れたゼロ。

 サーラは彼と位置を交換。突然現れたゼロに剣士は対処できず、剣筋を乱す。双剣を受け止めたゼロは自信に満ちた瞳で笑う。

 彼は攻撃を受け止めたが、斬撃を放つ【意志】を見せた。神能『絶対斬撃』により、双剣を受け止めたはずのカートゥナはいつしか剣士の腹部へ。

 剣士の前面にゼロ、後方にサーラ。


「「終わりだッ!」」


 前方から天剣カートゥナを、後方から水刃を受けた剣士。

 既に『波濤(ナレムファゲリュン)』を受けて満身創痍だった彼女の身体は激しく貫かれ。


 二つの刃が引き抜かれると同時、淡い黒霧となって霧散した。


「『守天』は二人で一つ……だから俺たちが勝ったんだぜ」

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