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共鳴アヴェンジホワイト  作者: 朝露ココア
13章 ラストミッション
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29. 『麗姫』アリス・『回精』リグス

 マリーベル大陸、北ロク王国。

 地王山から次々と迫り来る魔物の軍勢を退けながら、サーラライトの主従は奮戦していた。


「大いなる萌芽、我が名はサーラライト。邪を払いなさい」

「炎術乱舞──爆炎(キランジマノフ)!」


 迸るオーラが邪気を消し飛ばし、爆炎が天から降り注ぐ。

 地神ルーリーは大狼の身体で大地を駆け巡り、一瞬で数十の魔物を殲滅した。


『おお、おお……流石は創造神の子どもたちやな! この場はアンタらに任せて、他の戦場に向かってもええかな?』

 

「はい、地神様。何としても魔物はこれ以上先に進ませません。サーラライトの姫として、如何なる人民も守って見せましょう」


『かっこええな! ほんじゃ、頼んだで!』


 そう言い残すと、地神は疾風の如く駆けて行った。

 この戦場だけではなく、魔神の眷属による被害に晒されている場所は数多くある。戦力を分散させて少しでも多く民を守らなければならない。


「リグス、まだまだ行きますよ!」


「はっ! いくらでも戦いましょう!」


 アリスは神器『春霞』を振りかざし、大地を薙ぎ払う。

 生命の息吹は、魔物にとっては毒そのもの。清浄なる風が軍勢を薙ぎ払った。


 そしてリグスもまた追撃を行う為に炎術を発動しようと──


「アリス様、危ない!」


 咄嗟に攻撃魔術を結界へと変換。

 同時、黒い雨が降った。いや、これは周囲の魔物たちが斬り裂かれて噴出した邪気だ。

 その殺戮の斬撃はアリス達をもなぞっていた。リグスの結界がなければ首を落とされていただろう。


 ──雷。

 時に神の怒りとすら揶揄される気象。

 それは人の身で起こせる筈のものではなかった。


 されど、その電糸の束は人の手によって形作られ、操られていた。

 雷と突風とが木々を凪ぎ、水を巻き上がらせ、魔物の軍勢は無残に殺戮された。


「一体、何が……」


 一人の男が戦場に降り立つ。

 金色の髪、水色に妖しく光る瞳。ただならぬ殺気を携えた剣士が殺戮を為したのだ。


「止まれ! 何者だ!」


 リグスの声に男は顔を向ける。

 しかし彼は答えることなく剣の切っ先を二人に向けた。


「敵、ですか……!? 魔物とも敵対しているようですが……」


「魔神の新たな眷属かもしれませんね。動くものを全て殺すように設計されている、とかでしょう……どの道倒さねばならないようです。油断なさらぬよう!」


 風雷を纏う剣士は凄まじい殺気を放つ。

 しかし、アリス達にも負けられぬ矜持がある。


 視界の端に電撃が走る。同時、男の姿は消えていた。

 ──上。


「っ!」


 春霞の簡易結界で上方からの攻撃を防ぐ。

 男の刃と神聖なる結界が激しく火花を散らす。速度は凄まじく速く、そして一撃は比類なき強さを持つ。しかし、殺気は隠し通せない。


「退け!」


 炎の弾丸が無数に射出、剣士を追尾して追い縋る。

 対する剣士は天高く舞い上がり、嵐を巻き起こす。嵐と火炎が相克し熱風が巻き上がった。

 隙あり。アリスは剣士が嵐を巻き起こした反動を見逃さなかった。


「『放出』──オーラ!」


 生命力を司るオーラが剣士を囲う。合わせてリグスも追撃の炎弾を放った。

 極度に研ぎ澄まされた連携。オーラと炎術の防御に優れた二重奏。並の攻撃で打ち破れる連携ではなかった。

 されど、相手は常軌を逸する災厄の眷属。


 一陣の風が吹き抜ける。

 微風は一瞬にして突風へと。渦巻く風の弾丸がアリスのオーラを突き破って飛来。アリスは受け身を取りつつ、追撃に迫る剣士に春霞で応戦する。


烈風刃(ウェイルン)!」


 剣士の足元から巻き上がった風刃は足を掠め、一時動きを鈍らせる。

 リグスは戦況を確認しつつ幻影を生成。


「炎術結界──『焔之幕』」


 剣士を炎の幻影で囲むと共に、アリスが受けた傷を『復元瞳孔』で治療する。

 相手が意志なきものであれば、幻影は効果があるはず。


「アリス様、一筋縄ではいかぬ相手のようです。しかし、まだ奴が炎から出ないことを見るに……幻術は有効。ボクが領域幻術を纏って近接戦を挑みます。アリス様はその間『春霞』の力を溜め、渾身の一撃の準備を」


 アリスは逡巡を見せるが、頷いて春霞へ魔力を注ぎ始める。

 戦場において迷いは死を生む。二人は悟っていた。


 リグスが短刀を持って駆け出すと同時、天より落雷。

 剣士が呼び寄せた雷は幻術を打ち破り、剣身へ紫電を纏わせた。放電による攻撃範囲の拡大を警戒しなければならない。

 リグスは華麗な足捌きで剣士へ肉薄。短刀を突き出す。


「はっ!」


 凄まじい速度で剣先を回避する剣士。リグスも避けられることは前提の一撃だ。

 半身を捻った剣士は風を巻き上げ、雷剣を横一文字に振り抜く。


(耐えろ……!)


 リグスの目的は耐久。

 彼女の腕を掠めた雷を、身に纏った炎で相殺する。豪風の衝撃で炎が拡散すると共に、彼女は術式を発動した。


「炎術結界──『領域幻術・死闘』」


 二人を天高く包み込んだのは紅蓮の壁。

 術者であるリグスを除いて、この領域に閉じ込められた者にはリグスが複数人に見えている。

 剣士は周囲に現れたリグスの幻影を無闇に斬り裂き、時間を奪われる。


 ──敵に感情がないこと。それが勝利への鍵だった。

 どの幻影が本物か識別することも困難な判断能力。それが剣士の弱点である。

 無数に存在する幻影に混じり、本体のリグスは遠巻きに炎弾を放っていたのだが……


「──!」


『嵐絶……奥、義──『袖之羽風』』


 その時。初めて剣士が言葉を口にした。

 彼が身体に纏っていた紫電は、剣へと収縮していく。

 魔力が爆発。幻影が存在しないはずの後方へ剣を一気に振り抜いた。


「……なっ!?」


 周囲の幻影は静かに消し飛んでいく。鮮烈ながらも静謐な美しい雷が領域内を駆け抜け、障害を一掃。凄まじい勢いの風に流されながらも、リグスは咄嗟に防壁を展開する。

 刹那、白雷が彼女の全方位から襲い掛かる。身体の芯が焼き切れるような痛み。高度な結界を展開しても貫通する衝撃。意識を失いそうになる激痛に耐えながらも、彼女は『復元瞳孔』で痛みを緩和。


 雨が僅かな間に降り注ぐ。

 剣士は駆け出し、動けぬリグスの首を斬ろうと前傾姿勢を取り……


「我が名はサーラライト。答えなさい、『春霞』」


 眩い光が剣士を包み込む。

 彼の足元から木の枝が生え、身動きを封じた。『春霞』による権能だ。


「アリス様!」


「邪なる眷属よ、お逝きなさい。【放出】──」


 極光。

 錫杖槍の先端から放たれた聖なる光は、剣士に向かって突き進む。地を割り、空間を破る聖なる光が彼を包み込み……


「……終わりましたか」


 彼の姿も、邪気も消え失せていた。

 僅かに残った魔力の残滓が、たしかに剣士が其処に居たことを示して。


「本当に強い奴でしたね……あと一歩で負けてました」


「ですが、私たちは勝ちました。そうですよね?」


「はい、もちろんです。これがアリス様とボクの力です。さあ、まだまだ戦いますよ!」

 

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