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共鳴アヴェンジホワイト  作者: 朝露ココア
2章 アルス・ロンド
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25. アルス、二度目の拉致監禁

 その男は、突如として俺……ヘクサムの前に現れた。


「貴様の息子を預からせてくれないか」


 そんな突拍子もない言葉を吐きながら。

 街の中に居れば一瞬で見失ってしまいそうな、若い栗毛の男。しかし、俺の目には彼は何から何まで怪しく、素性の知れない気味の悪い存在に思われた。


「……何の為に?」


 問い返す。


「修行だ。今のままでは貴様の息子……アルス・ホワイトは大成せん。無論、息子を返すという契約魔術も交わそう。初対面の者が息子を預らせろ、など信用出来ないのは分かるからな」


「では、あなたは相応の実力があると?」


 大成しない……か。たしかに、最近息子が伸び悩んでいることは察せられる。本人には伝えていないが、既に上級騎士を上回る実力がついているのも原因の一つだろう。強いほど伸びは小さくなるものだ。


 しかし、この者に預ける理由も分からない。俺とて霓天の末裔にして、ディオネ聖騎士の位階二位。生半可な実力では民を守ることは出来ないと自覚し、この剣に誇りを持っている。


「うむ、我が深淵たる力をとくと目に焼き付けるがよい。闘技場で一試合といこうではないか」


「……分かった」


              ----------


「勝負あったな」


 ……結果から言えば、俺は手も足も出なかった。

 まさか、これ程の存在が居るとは。聖騎士第一位の剣豪イベン様とも、ここまで圧倒的な実力の差は感じなかった。


「……名前を聞いても?」


「ルカとでも呼ぶが良い」


 男はそう名乗り、膝をついている俺を立ち上がらせた。


「では、ルカ殿。あなたは何の為にアルスを育てようと?」


「単純な事だ。貴様の息子は育て甲斐がある。……まあ、一番の理由は龍神に命じられたことだが」


「龍神様が……!?」


 馬鹿な。

 確かに、息子は成長が早い。早すぎて少し心配なくらいで、周囲には神童と呼ぶ者もいる。しかし、龍神様が命じる程の可能性が一介の人間に……


「……で、どうする? これは保護者の貴様が決める事だ。絶大なる力の代償として子との一時を失うか、安寧に身を浸し力の限界に苦悶するか」


 以前神域を訪れた際に、息子と龍神様は不思議と縁があった。もしかしたらそこで才能を見出されたのかもしれない。

 どちらにせよ、だ。


「龍神様の命であれば異論は無い。不肖の息子だが……宜しく頼む、ルカ殿」


「フッ、良いだろう! さあ、契約だ!」


 契約の内容は、俺がアルスを返せと言ったら返すこと。この一点だけだ。

 俺自身、未だよく知らない者に家族を預けるのには不安が残る。だが、アルスはやがてホワイト家としてこのディオネを背負う者。これ程の強者が鍛えてくれるのは僥倖だ。


「運命の契約は成立した……我が底知れぬ絶大な力を継承する存在がこの世に残っていたとはな……クハハハハッ!」


 ……それと、性格にも少し……いや、かなり不安がある。

 息子がこの言動に影響されないことを願うばかりだ。


              ----------


 目醒めた。

 それは、睡眠からの目覚めではなく死からの目醒めだ。


「……」


 視覚、聴覚、触覚。あらゆる感覚が冴え渡る。


「おはよう、気分はどうだっ!」


「…………」


 目前には茶髪のラフな格好をした男。とてもじゃないがこんな密林に立ち入る様な姿ではない。

 男が顔を目の前に近づけてくる。


「き・ぶ・ん!」


 ああ……最高だと答えたいところだが、


「ぶっ!」


 男の顔面をストレートに殴りつける。

 異様なほど身体が軽かった。


 僕はこの男にされた事を忘れていない。どれだけ身体の調子が良く、感覚が清々しくとも感情は怒りに染まっているのだ。

 二度目を叩き込もうと再度拳を振り下ろす。


「フッ、元気そうで何よりだ。その調子だと問題は無いな」


 しかし、拳は男に受け止められてしまった。


「……問題しかないが」


「何が不満なのだ! 貴様は十分に深淵たる力を引き出し、たった今俺を吹き飛ばしすらしたのだ! まあ、技術はまさに子供のソレだがなっ!」


 相変わらず煩い人だな。このふざけた態度を見ていると、怒りすらも萎えてくる。

 とにかく、折角見つけた人間だ。話を聞いてみるしかあるまい。


「……いえ、突然殴ってすみません。魔物だと勘違いしまして。怪我はありませんか?」


「……ふぁ?」


 いや、流石に魔物だと勘違いしたというのは苦しい言い訳だったかな。そんな僕の言葉に男は哄笑する。


「はっはっは! 魔物か? あながち間違いでもあるまい。……さては貴様、心眼の使い手かっ!」


「えっと……取り敢えず話をさせてくれませんか? そのテンションは正直キツイです……」


              ----------


 ルカと名乗ったその男が話したのは、信じがたい事だった。

 僕を育てる為にこの島へ連れて来たこと、父から許可を得て契約したこと、ジャイルの命を受けてこの行動に出たこと。


 全てこの不審な態度からは信じ難い話だが、先程の動きを見るに彼が強者であることは間違い無い。


「……それで、僕を殺す意味はありましたか?」


 ルカは仮にも父が認めた僕の師匠で、言動に敬意を表しなければならないのには腹が立つ。そもそも、僕を殺すような人に敬意を持って良いのか?

 まず、死んで蘇ったという事が不可解だ。神域で誰かが蘇生してくれたのと同じように、ルカ……師匠が蘇生してくれたのか?


「いや、我は貴様を殺していないし、蘇生してやってもいない。貴様は勝手に餓死して、勝手にリレイズした、それだけだ」


「え……いやいや、勝手に蘇る訳ないでしょう。そんなの生き物じゃないですよ」


「ふむ……貴様の首飾りを見てみろ」


 胸元には、ジャイルから貰った神導の首飾りを見る。しかし、中心にあった筈の翡翠の宝石は黒ずみ、輝きを失っていた。


「これは……」


「首飾りが機能を停止したという事だ。つまり、人間の欲望による死に瀕した事で、貴様の内なる神の魂が覚醒しそれを超克したのだ! つまり、貴様の種族は新米の神族へと成り変わった!」


 何やら意味不明なことを言っているが、僕の種族が人から神へ変化したということか? たしかアテルは僕が生まれた際に神族の魂を移植したと言っていた。

 その変化の為に僕は餓死した……と。


「まあ、人間の肉体の変化はもう少し続くだろうが……これで貴様は強者たるにふさわしい魂を得たのだっ!」


「でも、餓死するだけで人から逸脱するなんて……ちょっと強引な気が」


「何も強引ではない。よく分からんが、貴様は強大な敵と戦うと龍神は言っていたぞ? ヤツの天命に応えようというのだ、生半可な覚悟で為し得るものか!」


 ……そう、僕は災厄への対抗を定められた存在。

 その為の力を解き放つ術が、彼にあるのならば。


「……分かりました。修行、よろしくお願いします」


              ----------


 

「修行の終了条件はただ一つ! この我を倒す事ッ!」


 僕が目覚めた小屋より遥かに立派な小屋……師匠の拠点の前で、僕はこの修行の概要を聞いていた。


「我はいつでもこの家に居る。貴様がこの絶対的かつ破滅の力を持つ我に、敵うと感じたら挑みに来るが良い!」


「分かりました。では早速……ぶっ!」


 僕が剣を抜き放とうとした刹那、先程の仕返しの様に顔面に拳を叩き込まれた。


「ただし、挑戦は一日一回とする。これで今日の分は終わりだ!」


「ぐ……そんな無茶な。せめて戦い方を……教えてくださいよ」


 家に戻ろうとする師匠を引き留める。修行をつけてくれるという話なのだ、何か教えてもらわないと。


「知るかボケ! ちなみに、貴様がこの家に入る事も禁止だ!」


「え、ちょ?」


 バタン、と扉が閉まり、それきり音沙汰が無くなってしまった。窓から覗き込むと、師匠がニヤけてこちらを見ていた。

 ……やはり、性格は師匠とは呼べないな。


 すると、彼が窓をすこし開けて、


「まあ、一つ運命の導きを示してやろう」


「は、はい」


「貴様は弱い。この我の足下にも及ばぬ。この島を隅々まで探ってみることだ、必ず進化の鍵となるものがあろう」

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