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共鳴アヴェンジホワイト  作者: 朝露ココア
2章 アルス・ロンド
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24. 目覚めるとそこは

 酒場を後にして路地裏を歩く。繁盛する街中とは裏腹に、ここは全く人気が無い。

 ……だから、僕は気を緩めてしまったのだろうか。

 本来ならばこういった人の目がない場所でこそ緊張感を持つべきだったのに。


 それは一瞬のことだった。


「うごっ……!」


 背後に気配。

 気配を感じた刹那、僕の意識は闇に沈んだ。


              ----------


 錆び付いた鉄の匂いと共に意識を取り戻す。

 辺りを見回すと、剣や槍、斧などの武器が無造作に転がっている。


「あれ……?」


 僕は何をしていたんだったか。

 記憶を辿り、何があったかを思い出す。


「たしか、訓練の後に酒場に行って……その後、路地裏で……」


 そうだ、気配を感じたと思ったらここで目が覚めた。

 ……となると、気絶させられてここに運ばれたか?

 周囲には誰も居ない。ここは屋内……木製の小屋の中のようだ。武器が大量に置いてあるのが異質だ。


「……というか、家具も何も無いな」


 殺風景が過ぎる小屋の窓から外を確認する。そこには、驚くような光景が広がっていた。


 密林。

 天高く聳え立つ木々、異様に大きい果実や花々、見たことのない虫、囀る小鳥に煌々と照りつける太陽。


「えぇ……」


 こんな景色は写真か映像の中でしか見たことがない。アントス大陸の熱帯雨林を紹介する番組で見た覚えがある。

 ……なんでこんな場所に?


「とにかく、誰か探さないと……」


 生憎と魔眼携帯は通信が入らない。どんな僻地だよ。荷物は剣のみ。


 誰かと出会えば親にも連絡出来ると考え、小屋の扉に手を掛ける。


「しかし、暑いな……」


 このジャングルは生優しい環境ではないようで、雪国出身の僕からするとかなり不慣れな環境だ。湿度が高いのは不幸中の幸いか。


「誰か、いませんかー!」


 声を張り上げるも、人の気配はない。ここがフロンティアであれば魔物も寄ってきてしまうかもしれない。


「歩くしかないか」


 ここがどこなのかは分からないが、とにかく人を探そう。僕の目覚めた小屋は埃が溜まっていて、誰かが使っている様子はなかったから、人は来ないだろう。

 僕をこの場所に運んだ者の意図は分からないが、ここには戻って来ない可能性が高い。手足を拘束していない以上、その者も僕がここから動くことは想定済みだろう。



 数刻後。


「疲れた……」


 暑さはまだ我慢出来る。しかし、このフロンティアには魔物が異様に多いのだ。しかもかなり強力なヤツで、正直魔王が率いていた魔物とは比べ物にならないレベルだ。


「お腹空いた……」


 魔物の影はあれど、獣の影は見えない。もちろん、魔物は食べることなんて出来ない。それに木々に実っている果実は食べられるか分かったものではない。


 果実を一つもぎ取り、まじまじと眺める。鮮やかなピンク色だ。

 試しに二つに割ってみる。中身には柔らかく緑色の果肉が詰まっていた。

 ……いけるか?


「匂い良し」


 挑戦だっ!

 思い切って果実に食らいつく。


「うっ……!? かはっ……!」


 舌が痺れる。とてつもない苦味を感じ、すぐさま吐き出す。

 身体にも痺れが回ってきた。急いで近くの泉から水を飲み、解毒を試みる。この水も変な味がするしあまり飲みたくはないのだが。


「駄目、だったか……」


 この果実は食べれない。一応、他の果実も試してみようとは思うが……恐らく毒があるだろう。

 やはり他の誰かを見つけるか、この森から出なくては。

 焦りを感じつつ、僕は更に森を進んでいく。


              ----------


「……………………」


 この地で目覚めてからどれほどの時が経ったのだろうか。何日、何十日か。

 お腹が空いた。毒を持つ花々や木々の鮮烈な匂いが鼻をつく。周囲の匂いが嫌と言うほど意識に風を吹かせる。


「……ぁ」


 目の前がよく見えない。うるさい、何かよく分からないがうるさい。何も腹の中に無い癖に吐きそうだ。

 まるでこの地から排斥されたかのように獣の姿は見えず、囀る小鳥や唸る獣でさえも正体は魔物である。

 この密林の植物は全て毒を持っている。……馬鹿な、そんな場所ある筈が無い。


 ──これは幻覚、或いは夢ではないか?

 朦朧とした意識の中そんな希望を持つ。

 されど、これが幻であろうとなかろうと、この身が破滅に瀕する苦痛を味わっていることに変わりはないのだ。


 果てぬ地獄の最中で獣の衝動が自我を侵食する。


「フハハッ! これは良い感じに仕上がってるではないか!」


 ……うるさい。


「さあさあどうだ、限界か! 貴様が死の深淵を覗きし時、進化……深化を遂げるのだっ!」


 目の前に何かが有る。見えない。うるさい。どうせ魔物だ、殺してしまえ。

 どれだけ意識が擦り減っていようとも、眼前の魔物を殺さねばこちらが殺される。


「うるさい」


 気配のする方向に斬撃を放つ。


「ふ、残念だったな……貴様の一撃がこの我に当たるとでも?」


 うるさい、うるさいうるさいうるさい。

 死ぬ前に早くどうにかしないと。でも、どうやって?


「……」


「ハッハッハッ! 良いぞ、もっと飢餓の衝動に身を委ねろ! しかし、勘違いしてはならない。貴様は何も得られぬ、食えぬ。ならば、どうすれば良いのかを貴様の魂に聞いてみろ! さすれば深奥に眠りし神々の力が覚醒するだろう!」


「うるさい!」


 叫んで無駄なエネルギーを使ってしまった。早く、殺さなければ。この目障りな魔物を。いや、獣か……そんな事はどうでも良い。

 考えられない。僕は何をしている?


 ただ、剣を振るう。

 気付けば何も見えなくなって。

 何も聞こえなくなって。

 何も感じなくなって。

 あれほど煩かった声も聞こえなくなって。


 自分は今どこに居る?

 立っているのか?息をしているのか?

 分からない。それなのに意識だけはある事に理不尽な怒りを覚える。


 ……でも、思うんだ。

 僕がこんなに苦しむのは、僕が人間だからではないだろうか? 神族であれば食事なんて必要ない。

 僕はいつか神族になれる筈なのに。どうして苦しんでいるのだろう。


 そんな想いもそっと闇に掻き消されて。


 ……

 …………

 ………………

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