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共鳴アヴェンジホワイト  作者: 朝露ココア
2章 アルス・ロンド
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23. ウィズ・グットラック

 八歳になった。

 ただそれだけの事。しかし周囲にとってはめでたい様で、祝いの品が贈られてくる。これも政略的な何かなのだろうが……正直、面倒なだけだ。

 それと、僕の誕生日の日には何故かリンヴァルス帝国の皇帝が贈り物をくれる。別にホワイト家と面識がある訳では無いのだが……どうしてだろう?


 ……そういえば二ヶ月後には神域へ行く事になる。

 アリキソンとの約束は忘れていない。再会の日の為に僕も強くなろうと鍛錬を重ねてきた。そして今日もいつものように城で鍛錬を終え、帰路についていた。


「……はぁ」


 嘆息する。

 理由はいくつかある。

 最近、実力が伸び悩んでいること。周囲との社交辞令が面倒なこと、まあこれは慣れるだろう。最悪、期待されないように振る舞えば良い。


 最近実力が伸び悩んでいる点に関しては深刻だ。

 伸び悩んでいる割には、まだまだ聖騎士などの上位者には及ばない。


「相手が固定され過ぎている、か?」


 僕の訓練相手と言えば父、王城の騎士、ヤコウさん等だ。上級騎士や聖騎士と戦う機会は殆ど無いが、それは仕方ない。

 何度か戦えば弱点は見えてくるし、自身の欠点も克服出来る。可能な限り今は強くなりたい。


 そんなことを考えながら上の空で歩いていると、人にぶつかってしまった。


「あ、すいません」


「あァ、気にしてねェけど。まァ、そうだな。暇だからメシでも付き合えや」


「ん!?」


 どこか聞き覚えのある声だと思ったら、その男は奇妙な格好をしているものの、見たことのある姿だった。機械仕掛けの装置が顔の左半分を覆い、ニタリとこちらを見下げて笑っていた。


「グッドラック……!」


「おうオゥ、そう言わずにクロックって呼んでくれヨ。俺っちにはちゃァんと名前があるからなァ」


 一年ほど前に敵対した男。あの時はまともな話も出来ないまま逃げられてしまった。

 彼の挙動に注意を払いながらも、周囲の気配を探る。


「今度は何をする気だ?」


「あン? 別に何もしねエよ。今日はオフだ、オフ。意外とホワイトな組織なんだぜェ? ……んで、メシ行こうぜ、付き合えよ」


「……怪しい」


「あやしくねェよ! 奢ってやッから、来い。腹減ったンだよ」


 アテルみたいに監禁してくるんじゃないだろうか。


「まあ、良いだろう。僕としても聞きたいことがあるから」


 もちろん、聞きたい事とはグッドラックの活動について。世間からはテロリスト扱いされている彼らだが、実際に調べてみると一般人の被害は殆ど出ていなかった。

 あの時に有耶無耶になって聞けなかった彼らの主張を聞いてみたいのだ。


「おし、ンじゃ、来い。イイ店があンだよ」


              ----------


 薄暗い路地から酒場に入る。

 この街に住んでいるのに、こんな場所があるなんて知らなかった。中にはそれなりに人が居て賑わっている。

 ……しかし、奇抜な格好の人が多いな。いや、僕の向かい側にいるクロックも相当奇抜な容姿なのだが。

 とはいえ、大国では魔族や長命のサーラライト族も暮らす世の中だ。数百・数千年前には人間以外の種族に対する差別などがあったと聞くが、現代ではまず差別など起こり得ない。


「……おいしい」


 ここの店、意外と料理が美味しい。しかも安い。目立たない路地裏にある店がこんなに賑わっているのもこの為だろう。


「だろォ? 俺っちは休みにここに来ンのが生きガイってヤツだ」


「ふーん」


 ──今まであまり意識していなかったこと。それは彼が感情の起伏を持つ一人の人間だということ。

 グッドラックというだけで悪印象を持っていたが、彼の話を聞いて少し認識を改める。

 ……とは言っても、殺人をしている時点で犯罪者なので気を許しはしないが。


「グッドラックはさ」


「あァ?」


「君達がかつて言った言葉。一般人には手を出さず、腐敗した政治家や悪徳な商いをする者だけを狙う……これは本当なのか?」


 酒場の喧騒の中で、僕達の座る席だけに静寂が訪れる。


「当たりメェだろ。……グッドラックは、奪われたものを取り戻すだけだ。全体の為に失われる一部を救う。そンだけだ」


「……そっか。まあ、そう言うなら信じるよ」


 クロックが意外そうに目を丸くしてこちらを見てくる。僕としても、こんなに簡単に彼らの言葉を信じるべきではない……と思う。

 けれど。直感というか、僕には彼が性根の腐っている人間であると思えないのだ。これでも多少は人を見る目はあるつもりだ。


「ま、まァ今はどうだってイイな」


「そうだね」


 今は何も関係ない。

 僕には彼らを糾弾する理由も無ければ、彼らが僕を恨む理由も無いのだから。


              ----------


「いや、だから歩兵は横には動けないって」


「チッ! また負けだァ!」


 クロックが挑んできたボードゲームをすること四回。僕が全勝である。

 ……というか、誰がやっても彼には勝てるだろう。


「ガハハッ、クロックは阿呆じゃのう!」


「子供に負けるなんて……情け無い」


 いつの間にか周りには野次馬が集まっていた。

 ……しかし、おっかない見た目の人達だ。

 ホストのような格好をした美青年から、手足に仮面をつけた奇妙な魔道士まで、あらゆる人が居る。

 人型の魑魅魍魎が集まる酒場、たまにはこんな場所も悪くない。


「もう一戦……ァ?」


 クロックがリベンジを申し込もうとしたその瞬間、バイブ音が鳴り響いた。

 彼は胸ポケットから装置を取り出し、席を立つ。


「悪ィ、急用入ったわ。金は払ッとく」


「あ、そう……ごちそうさま」


 彼はそう告げると手早くカウンターで会計を済ませる。


「ミズ、シキ。てめェらもお呼びだ」


「はぁ……あたし? メンドいんだけど」


「仕方ないでしょう? 行きますよ」


 クラックが側に居た野次馬の二人に話しかける。

 一人は何の変哲もない少女、一人は異様に身体の細い少年だ。

 ……うん? 急用って、まさか。


「もしかして、ここに居る人ってみんな……」


「まァ、そーゆーコトだ! また勝負しようぜェ!」


 そう言いながら彼らは酒場を後にした。


「さあて、儂も帰るかの」

「イェイ、レッツワーク!」


 それを皮切りに他の人も酒場から出て行く。

 ……残ったのは僕とマスターだけであり、さっきの喧騒が嘘みたいだ。


「……悪くないだろう?」


 マスターがそう尋ねてくる。何が悪くないのかはよく分からないが、取り敢えずこう答える。


「そ、そうですね……」


 ここに居た人たち、全員グッドラックかよ。

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