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共鳴アヴェンジホワイト  作者: 朝露ココア
1章 光あれ
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異伝1. はじめまして、ロール

 それは、僕がいつも通り父に稽古をつけさせてもらっている朝のこと。


「……む」


 父がふと剣を止めた。


「どうしたの?」


 語りかけるものの、父はじっと庭の生垣を見つめて答えはしない。

 僕もつられて見るが、そこには何も見えないのだけど……


 徐に父は生垣に歩み寄り、僕もそれに続く。


「あ……」


 植物の陰に隠れていたのは、一人の女の子だった。

 年齢は僕と同じくらいだろうか。光を編み込んだような金色の髪と青緑の瞳を持つ少女が庭を覗いていたのだった。


 その少女は父に見つかるとどうしていいのか分からず、オロオロとしてしまった。


「おや、ロールちゃんじゃないか。何かあったのか?」


 父は彼女の事を知っているみたいだ。

 ロールと呼ばれたその子は首をブンブンと振り、僕と父を交互に見た。


「ふむ……アルス、父さんはそろそろ仕事に行かなきゃならん。この子は隣のライマさん家の娘だ。同年代のお前の方が馴染みやすいだろう、頼んだぞ」


「えっ……でも……」


 それだけ告げると、父はそそくさと魔道車に乗り込み仕事へ向かってしまった。最近、色々と父に押しつけられがちな気がする……

 いつもより出かけるのが十五分早いし。


「えっと……はじめまして。僕はアルス・ホワイト。君は?」


「ん……ロール・ライマです」


 そういえば、隣のライマ夫妻には一人娘がいるとか言ってたな。両親はライマ夫妻と仲が良いが、娘の顔は知らなかった。


「ロール、って呼び捨てでも良いかな? 君もアルスって呼んで良いよ」


 彼女は肯く。


「……それで、君はなんで僕達を見てたの?」


「あれは何してたの?」


「ん? あれ、とは?」


「剣を振り回してたやつ」


 ああ、多分彼女の目には僕の訓練が遊びか何かのように見えたのだろう。僕と父の実力の差が開き過ぎて。


「ああ……一応、訓練のつもりなんだ。将来、強くなりたいからね。騎士の父さんに稽古をつけてもらってるんだよ」


「アル……ス、は将来騎士になるの?」


 ロールは僕の名前を少しつっかえて呼ぶ。


 

「それは決めてないなあ。学校に行くか、騎士見習いになるか……はたまた別の道を往くか。それは分からない」


「ん、学校!」


 突然彼女の表情が嬉しそうなものに変わった。学校という言葉に反応したみたいだ。


「わたし、来年学校に行くの! アルスも行くの?」


 来年……ということは、彼女は僕と同じ六歳だ。学校は六歳から十歳までの期間、学ぶことができる。それ以上学ぶとなると受験を受けて高等学校へ行くことになる。

 対して、士官学校へ通い騎士見習いとして過ごすのは十歳から十五歳の五年間。

 ディオネの大半の人は学校へ行くのが現状だ。もちろん、十歳まで学校で学び、そこから士官学校へ入学する者もいる。


 別に学校へ通学するのは義務でもないし、僕は通う予定は無いんだけど……


「うーん……行くとは決まってないかな。学ぶこともそこまでないだろうし」


 学校で学ぶのは、生活の基礎や数学、科学や歴史に加えて体育や一般教養。僕はアテルからそれらの知識は殆ど教わっているし、行く必要性はそこまで感じない。


「そうなんだ……わたしは友達がほしいから行くよ」


「友達かぁ……たしかに、僕も同年代の友達は居ないな」


 ここら辺に住んでいる子供に僕と同年代の子供は……それこそ、目の前のロールくらいしか居ない。


「じゃあ、わたしが友達できたら紹介してあげる」


「ははっ、それは嬉しいな。……そうだ。君を僕の最初の友達にしてもいいかな?」


「えっ……」


 ん、なんだか微妙な反応をされた。

 もしかして嫌だったのだろうか。


「あ、うん……いいよ。わたしのはじめての友達ね、アルス」


「やった、ありがとう! 生きてるって素晴らしいね」


 僕のその言葉の意味が分からなかったのか、ロールは首を傾げる。いや、僕自身も自然と出てしまった言葉なのでよく分かってないが。

 長いこと精神世界に監禁されて、同年代の友達も何も無かったから……この現実世界で初めて友達が出来たことを喜んだのだろう、多分。


「ところで、ロールは外で何してたの?」


「家からアルスがクンレン? してるのが見えたから気になって来たんだよ」


 ライマ家はホワイト家のすぐ隣にある。二階から僕が庭で訓練している光景も見えるのか。

 はずかしい。


「なるほど。それで、君のご両親は?」


「んー?」


「ええっと……君のお父さん、お母さんには言って出てきたのかな?」


 彼女は首を横に振る。

 ……となると、ライマ夫妻は急に娘が居なくなって心配しているかもしれない。連れて帰ろうか。


「そうだね……ロールの家に遊びに行ってもいいかな?」


「うん! いいよ!」


 彼女は嬉しそうに僕の手を引く。

 いくら隣同士とはいえ、この年齢の子供が一人で出かけるのは心配だ。ふらふらと興味惹かれるものに向かって行ってしまうこともあるし。


「何して遊ぼうかな? はじめて友達と遊ぶの!」


「そういえば、ロールの将来の夢は?」


「わたしは……えっと、ケーキ屋さん!」


 ケーキ屋、つまりパティシエか。


「アルスは?」


「僕? 僕は……決まってない」


 騎士か、それとも──


 軽い足取りで家に向かう彼女に連れられ、僕も足を動かすのだった。


              


 その後ロールとの遊びに付き合っていると、いつの間にか日が暮れた。


「そろそろ帰りますね」


「アルス君、今日はありがとうね。あの子、今まで近い歳の友達がいなかったから寂しそうで……これからも遊んであげてくれる?」


「はい、もちろんです。それでは」


 ロールと彼女の母親に手を振り、家を後にする。

 家は隣合っているので気軽に行き来できるな。


 しかし、学校か。妹のマリーも二年後には行くことになる。行ってみるのも悪くはないけれど……やっぱり僕の求める強さはそこでは手に入らないだろうな。


              **********


 二年後。

 今日はマリーの入学式だ!


「さて、筆箱にペンタブ、雨除け、ハンカチ、ティッシュ……忘れ物はないかな? 念の為にもう一度確認を……」


「アルス、心配しすぎ……」


 ロールが呆れたように溜息を吐く。

 学校への出発前、僕はロールと共にマリーの荷物を点検していた。

 結局、僕は学校へ行かないことにした。取り敢えず十歳までは傭兵として魔物でも討伐しようと思っている。士官学校へ入るかどうかは後々決めれば良い。


「だって、仕方ないだろ!? マリーが忘れ物をしたらどうするんだ……僕が耐えられない」


 困惑した様子でマリーがこちらを眺めている。


「はぁ……大丈夫だって。何回も確認したでしょ? そろそろ行こうか、マリーちゃん」


「うん!」


 鞄を背負い、ロールと一緒に歩いて行くマリー。

 一緒に行ってくれる人が居て良かった……


「いってらっしゃい、二人とも」


 母がにこやかに二人を送り、彼女らもそれに応える。母はマリーが心配じゃないのだろうか、いやそんな事はないだろう。

 僕こそ妹離れしなければならないのだ。


「ううっ……!」


 なんだか涙が出てきた。


「あのさ……心配しないで。アルスはちょっと過保護過ぎるよ? 何かあったらわたしが守るから」


 ロールは呆れ返って僕を説得する。


「そ、そうか……頼んだよ。いってらっしゃい!」


「うん、いってきます」


 二人の背が見えなくなるまで僕は玄関に立っていた。



              **********


 半月後。

 今日はマリーの校外学習だ!


「マリー、水筒は持ったか? 雨除けと、シューズと、あと……おやつもだ。あ、飴あげる」


 ポケットに入っていた飴をおやつの追加として手渡す。

 校外学習は一年生から三年生の交流と、地域学習を兼ねている行事だ。実質遠足。


「う、うん……ありがとう。道具はぜんぶ持ったからだいじょうぶだよ、お兄ちゃん」


「まあ、今日はアルスが心配するのも分かるかも……? 学校の外だから何があるか分からないもんね」

 

 珍しくロールが僕に肯定的だ。

 そうなのだ。校外である以上、どこに危険が潜んでいるか分からない。ディオネの犯罪率は限りなく低いが、それでも心配だ。マリーはかわいいからね。ロリコンに誘拐されるかも。


 この学習プログラムでは住んでいる地域が近い人達でグループが組まれるので、マリーとロールは同じグループに入っている。

 いくら友達が居るとはいっても、ロールは別に戦える訳じゃない。合計で四人グループらしいが、不安だ。とにかく不安だ、マリーが心配だ。


「それじゃ、行ってきます。何かあったら連絡するね」


「……いってらっしゃい」


 いつも通りの見送りの筈なのに、悶々とした気持ちが晴らせない。


「……さて、ちょっとお散歩してくるよ」


「アルス、まさかついて行く訳じゃないわよね?」


 母が僕に疑惑の視線を向ける。

 まさか、そんな事する訳ないじゃないか!

 たまたま行き先が同じになる事はあるかもしれないけど。


「ははっ、そんは訳ないよ。本屋にでも行こうかなーと思って」


「……そう。お昼までには帰ってくるの?」


「いや、お昼も外で食べてくるよ。いってきます」


 それだけ告げて、帽子を被って玄関を出る。一応マスクもつけておく。最近は風邪が流行っているから仕方ない。ソーシャルディスタンス。


 そして、僕は遠方に見える影を追って歩き出した。

 別に行く方向が同じだけだ。

 

 

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