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共鳴アヴェンジホワイト  作者: 朝露ココア
第1部 序章 灰色の因果
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1. 灰色の邂逅

挿絵(By みてみん)


 物心ついたばかり、四歳の冬。僕は誘拐された。

 あの日のことを思い出してみよう。



 雪が静かに舞っていた。

 不気味な音を鳴らして吹き抜ける寒風。

 レストランの一角で、幼い僕は窓から夜の街を眺めていた。


 ……眩しいな。

 道端に積もった雪を、刺激的な人工の光が照らしている。

 ここは都市部、たとえ夜でも光が絶えることはない。


「アルス、どうした?」


 アルス――僕の名前だ。

 父が向かいの席で僕の顔を覗き込む。

 青空を想起させる、水色の瞳と髪。

 僕もまた父と同じ色彩を纏っていた。


「ゆき、たくさんふってるね」


「そうだな。この国は雪がたくさん降るんだ。ああ、雪かきが面倒だな……」


 ぼやきながら、父はメニューをテーブルに広げた。

 興味津々で身を乗り出す。

 メニューに載せられているのは色とりどりの食べ物の写真。


「なにを食べるか決めよう。アルスはどれがいい?」


「えーとね……わっ!?」


 ――轟音。

 僕の声を遮って、くぐもった音が響いた。

 腹の底に衝撃が伝わり、何事かとメニューを指し示す指を止める。


 動揺。子供は特に顕著だ。

 突然理解不能な事態に遭遇すると、泣き出すか、あるいは静止する。

 轟音から一拍遅れて、レストランの外で甲高い悲鳴が聞こえた。


「……父さんは少し外の様子を見てくる。アルスはじっとしてるんだぞ」


「……? うん、わかった!」


 もしもこのとき、父が僕から離れなかったら。

 運命は大きく変わっていたのだろうか。



 手持ち無沙汰に待つこと数分。

 子供のころはたった数分でも異様に長く感じるものだ。

 足をぶらぶらと放り出し、僕は何気なくレストランの入口を眺めた。


 ふと、ドアが開かれる。純白の少女。

 光を帯びたような美しい白い髪に、翡翠の宝石のような瞳。

 彼女はぐるりと店内を見回し、やがてこちらを向いて視線を止めた。

 彼女は僕の方へ歩いてくる。そして屈み込み、鈴の音のように綺麗な声色で語りかけた。


「こんにちは。ええっとね……きみがアルス君だよね」


「こんにちは、アルスです」


「お父さんが呼んでるよ。一緒に行こう?」


「うん!」


 無邪気だった。純粋だった。

 ただ父の名を語られただけで、僕はその少女に全幅の信頼を寄せてしまって。

 残酷な運命に足を踏み入れることになる。


「……ごめんね」


 少女は消え入るような声で呟いた。

 僕には聞こえていたけど。

 どういう意味かはわからなかったんだ。


 手を引かれ、店の外へ。

 瞬間――世界が灰色に染まった。


----------


「……と、これが僕と君の出会いだったね」


「うん、懐かしいね……あれから十年くらい経ったかな?」


 目の前の少女はうんうんと頷く。

 灰色の砂漠の真っ只中にあるログハウス。

 その中で僕と少女は遭逢を思い出していた。

 僕がなぜここにいるのか、理由はよくわからない。


 ただひとつ知っていること。

 それは目の前の誘拐犯……アテルが僕をこの精神世界に閉じ込めているということだけだ。

 そして、彼女は……世界を創った『創世主(はじまりのひと)』である。

【創世主】……世界を創造した者。本作品においては、創世主は神の上位存在に位置する。

【精神世界】……現実に影響を与えない世界。精神世界中では、現実世界の時間は進行しない。

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