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共鳴アヴェンジホワイト  作者: 朝露ココア
1章 光あれ
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16. 魔の軍勢

 ジャイルから授かった首飾りを身につけ、石畳の神殿の回廊を走る。

 招かれざる客……ジャイルはそう告げたが、その明確な正体は分からないと言っていた。


 神殿の外に出ると、入る前と違って空気はひんやりと冷たく、黒い雨雲が激しい風を吹かせ、大粒の雨を降らせて僕の体を叩いた。


「みんなは……?」


 ジャイルは父に外で待っているように……と言ったがこんな悪天候の下では待ちようがない。神殿の中に皆が居なかったことを考えると、どこかで雨宿りでもしているのだろうか。

 近くに屋根のある建物を思案してこの神域の地理を思い出す。


 ……彼らが居るとすれば、神域の端にある船着場か。僕らはそこから神域の大地に踏み込んだのだ。恐らくそこで待っているのだろう。

 南東に向けて走り出す。


 冷たい雨が肌を叩き、視界を不明瞭なものにする。走れば走るほど雨脚は激しくなり、雷が遠方で轟いた。


「アリキソン!」


 道中、石の天然の洞窟……人が一人入るかどうかといった場所に、金髪の少年が座り込んでいた。

 しかし、彼の姿は正常と言えるものではなかった。衣服は破け、身体の各所から血が滲んでいる。手にはルフィアの紋が入った剣が握られていた。


「……アルス、無事だったか。まあ、俺がお前を心配する必要は無いよな」


 彼の側に駆け寄り治療魔術をかける。あまり得意分野ではないが、取り敢えず傷口は塞がった筈だ。


「何があった? 他の人達は?」


「この神域に魔物が現れた。それも何十体もだ。他の皆は襲撃で散開した」


 周囲を見渡すと、魔物が倒された残滓と思われる邪気がいくつも見られた。アリキソンが倒したものだろう。


 この神域に魔物。異常な事態だった。

 本来この地は龍神の結界によって守られ、魔物は侵入する事も、発生する事もない。

 だが、魔物は出現した。そして同時に何十体も。

 ここから推測されるのは、魔物を率いる何者かが存在しているということ。なぜならば魔物は連携もせず、意思も持たないからだ。


 そこから考えるに、招かれざる客の正体は……


「魔王、か」


 十一年前。突如としてアントス大陸のダイモン領に現れ、数百の魔物を率いて国を滅ぼした存在。

 『五大魔元帥』の一人である。


 五大魔元帥は、『破龍』『魔王』『修羅』『壊霊』『狂刃』と呼ばれる五人から成る。

 神出鬼没、目的不明の災厄と呼ばれ、突如として破壊を振りまく五人の化け物だ。その性質はグッドラックやリフォル教などのテロリストを鼻で笑えるほどに凶悪で悪質。


 そんな存在ならば神域に入り込むこともできるのではないか? 不幸中の幸いは、この神域に人が住んでいないということか。


「とにかく皆を探そう。立てる?」


「ああ、父さんやヘクサムさんは大丈夫だと思うが……ユリーチとスターチさんは心配だ」


 アリキソンに手を貸して立ち上がらせる。

 まずはどこに向かうか。この神域はそれなりに広く、闇雲に探しても見つからない。


「彼らがどっちに向かったか分かるか?」


「たしか、あっちだ……って、クソ!」


 アリキソンが視界を向けた方角からは、魔物……それも十数体がこちらに向かって来ていた。

 本来、あれらには意思がなく連携など取れる筈も無いのだが……やはり今回の騒動は魔王の仕業と見て間違いない。


「アルス、お前は皆を探しに行け! コイツらは俺が片付ける!」


 傷を治したばかりのアリキソンが剣を構える。

 それは……マズい。先程の状態から見て分かるように、彼は既に魔力をある程度使った後だ。

 これ以上の神能の行使は悪影響になる。


「それは……」


「俺なら大丈夫だ。これでも碧天の家系、タイム・ミトロンの息子だ」


 本当に、任せても良いのだろうか。たとえ彼が最強の神能を持っていたとしても……


「さあ、行け!」


 彼が僕の背中を押す。

 その手からは、確かな自信と信頼が感じられ……僕の進まぬ足と意志を前へ進ませた。


「……分かった、負けるなよ!」


 風を纏い、全速力でその場から駆け出す。

 木々の間を縫い、一刻も早く皆を見つける為に視界に意識を込める。


 背後からは雷鳴が轟く。

 天然によるものか、それとも碧天の神能によるものか。


「絶対……負けないからよ!」


 碧天はその声と共に、魔の群勢に剣を振るった。


              ----------


「タイム、右を頼む!」


「任せろ!」


 神域に突如として現れた魔物の群勢。

 その中で奮戦する二人の男の姿があった。

 神から授けられた神能……それは魔を討ち払う為の加護。歴戦の戦士である二人は統率の取れた魔物にも善戦していた。


『流石は神能の継承者と言ったところか。一つ、我が剣を見せてみるか?』


 その様子を高所から見下す者が一人。

 全身が黒い甲冑に覆われ、その中がどうなっているのか……光一筋見ることはできない。


『ふんっ!』


 その黒鎧はヘクサムに向けて剣を構えて滑空した。


「ッ、ヘクサム、後ろだ!」


 空を切る音がしたとほぼ同時、金物がぶつかり合う甲高い音が響く。

 斬りかかった黒鎧の剣をヘクサムは体勢を崩しながらも受け止めた。


『……ほう、受け止めるか』


「何者だ!」


『我は五大魔元帥が一、『魔王』の右腕。名は無い』


「やはり魔王の仕業であったか……!」


 タイムが油断なく剣を構え、鎧を睨みつける。

 周囲の魔物達はその鎧が支配しているのか、動きを停止させている。

 そんな魔物達を、


『失せよ』


 鎧は片手に下げていた大剣を一振りし、全てを一撃で両断した。


「なっ……!? 何を……」


 味方を殺すという常軌を逸した行動にタイムは驚愕の声を発する。


『かかって来い。こやつら有象無象は邪魔であろう?』


 その言葉を聞き、各々がどう考えたのかは不明瞭である。しかし……


「……霓天、ヘクサム・ホワイト」


 名乗りを上げ、構えるヘクサム。


「おい、ヘクサム?」


「決闘を申し込まれたからには、武人として応じない訳にはいかない。……それに、その左腕の恨みもあるだろう?」


 タイムはヘクサムの言葉を聞き笑い、戦友の隣に並び立つ。


「まあ……そうだな。恨みは魔王本人に晴らしたいところだが、コイツでも良いだろう」


「片腕が無いなど、お前にとっちゃ良いハンデさ」


 かつては戦場で並び立った二人。英雄の神能を継承し、今では後世に力を繋ごうとする彼らは、再び剣を振るわんとする。


『話は終わりか? では、始めるとしよう』

 

【五大魔元帥】……破壊神の五体の眷属。世界中に破滅を振り撒く存在。『破龍』『魔王』『狂刃』『修羅』『壊霊』の五体。詳細は不明

【魔王】……魔物と魔族の軍勢を率いて、人里を襲撃する魔の王。五大魔元帥の中ではもっとも被害が多い

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