プロローグ
灰色の砂漠で、一人の少年が空を見ていた。
水平線の向こうから茜色の光が射している。
「今から話をするよ。とても長い旅をしてきたんだ。ぜひ君に聞いてほしい」
彼はこちらを見て、生気を失った瞳を細めた。
この笑顔が愛おしい。
長い時間は、彼の笑顔を奪ってしまった。
光を奪ってしまった。
それでも、今この瞬間に……彼は光を取り戻しつつある。
少年は起伏のない声色で話し続けた。
「君と別れてから、つらいことの連続だったよ。何度もくじけそうになったけど、その度に手を差しのべてくれる仲間がいた。だから立ち向かえた」
――英雄。
一言で彼を形容するならば、こうなのだろう。
彼は英雄に近からずとも遠からず。
私はこの人の弱いところを、たくさん知っていた。
その弱さも今は潰れて、完全無欠に近い人になっている。
そう進化せざるを得なかったのだ。
代償として人間らしい心を失った。
私はひとつ、彼に尋ねてみる。
『幸せだった?』
彼は少し答えにくそうにしていた。
しばらく沈黙してから口を開く。
「……ああ。苦難の中でも、楽しい思い出はたくさんあった。いちばん苦しかったのは、君に会えないことだったね。一度は君と再会することを完全に断念したんだ。それでも、友人たちがいてくれたからなんとか耐えられた」
『ごめんね……』
「君が謝ることはない。会えない時間が愛を育むというからね。憎しみすらも乗り超えて、すべてを愛することができるようになったんだ」
彼はふっと息を吐いて、私の手を取った。
あたたかい。うれしい。
もう二度と、この手を離したくない。
「それじゃあ、聴いてくれるかな。僕が歩んだ、歪でまっすぐな物語を」
私は瞳を閉じて、英雄譚に耳を傾けた。