03 初依頼
翌朝。
「おはようございます」
「あぁ、おはよう。良く眠れたかい?」
「はい、お陰様で、良いベッドでした」
「そりゃ、お客様用の部屋だからね」
「それより、食事まだだろ?」
「でも、お金がないので」
しょぼんとしながら言った。
「出世払いでいいよ」
「では、遠慮なく頂きます」
適当に丸テーブルに座り、肉野菜定食を頼んだ。
「あぁ、それと、冒険者登録にはお金がいるんだ」
アカネさんが肉野菜定食を持ってくると言った。
「そ、そうなんですか」
もぐもぐ。
「銅貨5枚だ。これも出世払いだよ」
「ありがとうございます」
もぐもぐ。
「冒険者ギルドは、ここを出て、斜め向かいに剣と盾の看板があるから」
「はい、ありがとうございます、では行ってきます」
「ちょっと待ってな、装備を貸してあげるから」
「何なのですか? それは」
「武装もしていなかったら、冒険者の依頼は受けれないよ」
ほらよっ! と貸してくれた。皮製の防御服にアイアンブローを手に嵌めるとピッタリだ。
「ありがとうございます」
「行って来な」
斜め向かいの剣と盾って、あれかな?
中に入ると、結構広いのが分かった。右側に提示版があり、みんな集まって見ている。
左側は丸テーブルが10個程ある。正面にはカウンターになっており、受付のお姉さんが4人いる。入って直ぐ左には2階に上がる階段がある。
空いている、受付のお姉さんの所に行く。
「すみません、冒険者登録したいのですが」
「身分証明が欲しいのかな? 銅貨5枚だよ」
5枚を渡し、聞いてみた。
「この恰好で冒険者になってはいけないのでしょうか?」
「お嬢ちゃんはいくつですか?」
「10歳です」
「ぎりぎりな年だね」
「どんな冒険依頼があるのですか?」
「お嬢ちゃんは薬草取りかな」
「早く、お金を稼ぎたいんですが」
「強いパーティーに同行するしかないね」
「お願いします」
「ミリア!!! ミリア」
受付嬢がミリアと言う人を呼んでいるようだ。
掲示板を見ていた1人が、こちらに来た。
「なんだい?」
「育成だよ、この子の」
「はぁ、邪魔になるのを、押し付けるんじゃないよ」
「あんたも、ランクBなんだから、育成しなきゃ。もうランク上がらないよ」
「痛い所、突くね。私がランクSになって、ランカーになりたいのを知って……」
「分かったら、引き受けな」
「しょうがない。付いてきな、仲間を紹介するから」
左側の丸テーブルの1つに4人が座っている所にミリアは向かう。
「ミリア、もしかして……その子」
「あぁ、押し付けられたよ。育成しなきゃ、クラスは上にあがれんとさ」
「お嬢ちゃんは何が出来るんだい? 回復魔法だったら嬉しいんだけど」
「セーラです。体術が出来ます」
みんな、がっかりしているよ。そりゃね、こんな小さいのに体術とか。
「まぁ、仕方ないさ。この子も覚悟は出来ているだろうから」
「では、依頼内容を説明するぞ。今回の依頼はレッドベア5体だ。タラ村に出現するらしく、村人は外にも出られないとか」
「それって、ランクBの仕事じゃないの?」
「仕方ねぇ、御指名だからな」
「誰からの?」
「領主からだ」
「あいつ、私らを殺そうと思ってるんじゃないの?」
「しょうがねぇ。ここのギルドでは俺らが、最高ランクなんだから」
「じゃ、行くか」
馬車に乗り、目的地へ向かう。セーラは黙ってそれに付いて行くだけだ。
馬車の中では、私の顔を見ては、うな垂れている。
「そんなにうな垂れる事、ないじゃないの。これからもこういう教育があるかもしれないし。それと、この子にはランクBの実力を見ると勉強になると思うわ」
「嬢ちゃん、レベルはいくつ何だい?」
リーダーが取り敢えずと言った感じで聞いて来た。
レベルってなんだ? 専門用語ですか?
「レベルって何ですか?」
「はぁ!! そっ! それで冒険者になろうとしていたのか?」
「はい、レベルって何ですか?」
みんな、あきれ顔になってる……。
「あんた、貴族かなんかで、勘当か捨てられたのかい?」
「そ……そんな感じです。私、借金があるのでお金が必要なんです」
まぁ、貴族に捨てられたのは事実だし。
「可哀そうに……それだったら、何とか力になってあげたいね。だろ? みんな」
「そうだな、何も知らない子を捨てる親には腹が立つが、ここは人肌脱ぐか」
「では、ステータスオープンと唱えてごらん」
「ス、ステータスオープン」
空中に以下が表示されて、セーラはホゲーとしている。
この数字に何の意味があるんだろう。スキルは私の得意としている物だわ。
名前 セーラ
種族 ヒューマン族
LV 10
体力 468
魔力 -
筋力 168
防御力 191
俊敏性 9599
魔法攻撃 -
魔法防御 -
スキル 体術MAX、棒術MAX、剣術MAX、仙術MAX,闘術MAX
「どれどれ、みせてごらん……」
「あんた、すごいじゃないの!!! スキルが5つもMAXって、将軍クラスよ!!! 初めて見たわ」
「だが……ミリア、おしいな、全体的にレベルが低すぎるぞ」
「セーラ、あんたには申し訳ないが、宝の持ち腐れって奴ね」
それは分かっている、その為の発勁なのだ。体力、攻撃力、防御力を発勁で補う事で、とんでもない力が出るのだ。
そんなこんなで、野宿しながら2日で目的地に着いた。
リーダーは、村長と会話すると言って、大きな屋敷に入って行った。
「あんたは、後ろで見ているんだよ」
「私も戦う」
「死んでも知らないよ」
「死なないですから」
私には、発勁を全身に張った鋼気功より硬い鋼発勁があるので何とかなるだろうと思っている。鋼気功は気功術で気を全身に鎧を纏う事に対して、鋼発勁は発勁の技で全身に鎧を纏うのだ。これは道場でも誰も出来なかった私のオリジナルの技の1つである。
ハイパーレッドベアは1体でも手古摺るらしい。2体同時に出てきたら全滅すると馬車の中でリーダーは言っていた。
リーダーが戻って来た。あの山にいるらしいと、山を指さした。
「それじゃ、2体出てきたら撤退するからな」
「バラバラに撤退するのよ。1人犠牲になるけど、しょうがないと思って」
「それじゃ、行くぞ」
森の中を1列になり潜る。私は真ん中。みんなは出て来るなと思っているのが、ヒシヒシと伝わってくる。
あっいた! 木をガリガリと削っている。縄張りの印を付けているのだ。
みんな、陣形を取り始めたわ。慣れたもんだな。私は1歩後ろに下がろう。
盾役の人が突っ込んで行った。ウォーーーー。ハイレッドベアの注意を向けた。そして、剣で切りつける。魔法師がバフを掛ける。良い感じだが、毛が剛毛の為、ダメージがない。突き刺しても、あまり刺さらず。ハイレッドベアが暴れるだけだ。
「ガーーーーーー!!!!」
これは倒すにしても時間が掛かるな。私だったら、『螺旋内発勁弾』を喰らわす所だわ。だが、みんなの邪魔になるから見ていよう。
んっ! 後ろから、もう1匹来たわ。これは私が倒させて貰おう。
「喰らえ! 『螺旋内発勁弾』」
セーラは高らかに跳躍し体を旋回し、ハイレッドベアの脳天に、掌底で『螺旋内発勁弾』を喰らわせた、脳内がぐちゃぐちゃになっただろう。ハイレッドベアは泡を吹いて仰向けに倒れた。内発勁は内部破壊を主とした発勁の発展技である。
みんなはもう限界かな、体力の消耗が激しい。
もう1体出て来たわ。
「喰らえ! 『仙術内発勁弾』」
セーラはハイレッドベアの心臓の個所に、掌底で内発勁弾をぶち込んだ。心臓はぐちゃぐちゃになっただろう。ハイレッドベアは血を吐いて前に倒れた。
もう1体出て来たぞ。
さっきのハイレッドベアの咆哮は、仲間を呼ぶ咆哮だったのか。
「『連撃内発勁弾』!!! はっ!」
セーラはハイレッドベアの体中に、連続して拳から内発勁弾をぶち込み内臓を破壊した。ハイレッドベアは血を吐いて、ゆっくりと倒れた。
最後の1体が出て来たぞ。
「『乱舞内発勁弾』!!! はっ!」
セーラは飛びあがり旋回しながらハイレッドベアの心臓に、裏拳から内発勁弾をぶち込んだ。心臓が押し潰されただろう。ハイレッドベアは血を吐いて膝を付いてがっくりと倒れた。
後は……。メンバーを見ると、リーダーが限界で倒れているわ。
しかたない。
「喰らえ! 『螺旋内発勁弾』」
セーラは跳躍し体を旋回し、ハイレッドベアの脳天に、掌底で『螺旋内発勁弾』を喰らわせた。ハイレッドベアは泡を吹いて倒れた。
これでお終いかな?
ミリアさんが近づいて来て。
「これ、あなたが全部倒したの?」
「そうですね」