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雪中花に抱かれて  作者: エンヴィリオス=ヴィレドニー=ティスター
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プロローグ

罪を作るのも人ならば、罪を許すのも人なのだ。

わかってはいてもなすのは難しい。

だからこそそれをなせるものは尊いのだ。


―――――――ユオン・Ⅿ・サヴァン



女は闇を見ていた。

日の光は建物で遮られ、不均一に並ぶごみの山の中、腐った食べ物を漁りながら蟲を除けて食らいつく。

身にまとうボロ布を揺らす風は腐敗臭を連ねて、其の地を充満させる。

劣悪な環境も少し離れたところは真逆の煌びやかな世界が広がっている。

破れた服も、腐った食べ物も、死んでいるのか生きているのかわからない生物もいないその世界は女のような人間の介入を拒む。

女はかつていた光差す世界と風に流れてきた新聞を見比べながら、胸のペンダントを握りしめた。

やがて女は瞼を閉じ、闇の世界に背を向けると街から旅立った。






少女は光を見ていた。

世界三大国の一つサフィニア王国王都ラテリーユ。華のある貴族街の噴水広場で、幼馴染の二人と待ち合わせをしていた。

整備された美しい広場。著名な芸術家によってデザインされた噴水を覗き込みながら少女は時間の経過を待っていた。

背中まで届く銀色の髪。顔立ちは整っており、未だ幼さを残す愛らしく清廉な印象を受ける。

性格も見た目に反さず、誠実で真面目。其のまっすぐさから少女に好感を持つものは多い。


「ユリア!」


名を呼ぶ声は広場の入り口からだった。その声の主を見た瞬間、少女ユリアの表情が満面の笑みで彩られる。

王宮の紋章が入った馬車から降りた青年が、駆け寄ってくる。その勢いのままにユリアと青年は抱擁を交わす。


「ウィング!」


「待たせてしまったかい?」


「ううん。今来たところよ」


太陽に照らされ輝く金髪にさわやかな笑みを添えて、青年ウィングは抱きしめていた腕を離した。

ウィングはこの国の第二王子、ウィング=ルゥ=サフィニア。伯爵令嬢であるユリア=ファン=セイレーンの幼馴染であり、幼いころからの婚約者であった。

二人は昔から仲が良く、自他共に認める国一番の恋人同士として互いに切磋琢磨し合う仲だ。


「うぉーい、ご両人。周りに人がいることを忘れるなよ」


人目をはばからない二人に呆れ半分に声を掛けたのはウィングの従者ジャン=パルセイン。

身につけている鎧は防御よりも動きやすさを重視しており、全身を覆わないタイプのものだった。

仕事中は悪党も顔負けの鋭い眼光も二人の前では柔らかくなる。


「今日はどこに行きましょうか。この間、美術館に新しい絵画が入ったらしいんですよ」


楽しそうに話すユリアにウィングは申し訳なさそうな顔で告げる。


「ごめん。実は父上から呼び出しを受けていてね」


「陛下から?」


「それでユリアを連れてくるようにといわれている」


ウィングの父、つまりはこの国の最高権力者たる国王の呼び出しに驚いたユリアに案ずることはないとウィングは微笑みかける。


「俺も同行するように言われている。大丈夫、一緒だ」


ユリアはウィングに手を引かれ、馬車へ乗った。

目指すは王城。サフィニア王国を照らす太陽のような場所だ。

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