不死身のお母さん
『お母さんは不死身なのよ』
(それが、お母さんの口癖でした)
ある日の事です。お母さんが交通事故に遭って帰ってきました。とても青白い顔をしていて、私と妹はだからとても心配をして、「お母さん、病院に行かなくていいの?」と何度も言ったのです。ところが、お母さんは笑いながら、「何を言ってるの。いっつも言ってるでしょう?お母さんは不死身なのよ。こんな事くらい全然大丈夫に決まってるじゃない」とそんな事を言って、全然私達の言う事なんて聞いてくれないのです。でも、私達にはお母さんの様子がとてもじゃないけど、大丈夫そうには見えませんでした。
そして、
私達の心配した通り、お母さんは翌朝になるとベッドの上で死んでいたのです。
どうしよう?
私と妹は当然、困りました。
私達の家族は、母子家庭なのです。お母さんを失ってしまって、これから一体どうやって、私と妹は生きていけば良いのでしょう?
ところがです。
『お母さんは不死身なのよ』
その時、声が聞こえたのです。
「お母さん?」
私と妹は当然、その声に驚きました。
でも、直ぐに納得をしました。
そうです。
お母さんは不死身だったのです。こんな事くらいで死んだりする訳はなかったのです。だから、生きているんです。お母さんは。どんなに死んでいるように思えても。
私と妹は、それからもお母さんの助けを借りて、そのままに暮らしていきました。それまでと同じ様に。
もちろん、お母さんは動けない訳ですけども、それでも、私達にお金の場所やら、銀行への振り込み方やら、料理の作り方なんかを教えてくれます。暮らしていくのに、何も困る事はありませんでした。
ところがです。
ある日、私達家族の事を不審に思った隣家の方が、何を勘違いしたのでしょう?腐臭がするだとか言って、警察に私達の家の事を連絡してしまったのです。その所為で、武骨な男の人達が、何人何人も私の家に押し入ってきました。そして、頑愚に「君達のお母さんは死んでいるじゃないか」と繰り返すのです。私は何度も説明をしました。「お母さんは不死身なんです。だから、生きてるんです。死んでなんかいません」。でも、男の人達は全然聞き入れてくれなくて、お母さんを何処かに連れて行こうとするのです。そんな事をされたら、私達は生きていく事ができなくなってしまうのに……
私達は随分と抵抗をしたのだけど、結局、お母さんは連れて行かれて、不死身なのに、葬式が行われる事になってしまったのです。それで、そうして、とうとうお母さんは焼かれてしまいました。
もう駄目です。
なんて事をしてくれたのでしょう?
これでは幾らなんでも、もう、お母さんは帰ってはきません。
しかし、でした。その日の晩の事です。私達の耳に、こんな声が聞こえて来たのです。
『お母さんは不死身なのよ』
そうです。
忘れていました。
お母さんは不死身だったのです。例え焼かれたって……、
窓の外では、灰がチラチラと舞っていて、そしてそれからゆっくりと戸がカラカラと開きます。
『ただいま』
そうして、お母さんは帰って来たのです。




