かちかち山(もうひとつの昔話 31)
畑から帰ったお爺さんは腰を抜かすほどおどろきました。そこには血まみれになって死んだお婆さんがいたのです。
――だれがこんなむごいことを?
お爺さんが悲しみに暮れていますと、そんなところにウサギがやってきました。
「お爺さん、いったいどうしたのです?」
「婆さんが殺されたのじゃ」
「これはきっと、裏山に住むタヌキのしわざにちがいありません。ここに盗みに入って、お婆さんに見つかったので、それでおそらく……」
「そういえばタヌキのヤツ、裏山にある畑のイモをちょくちょく盗んでおったな」
「このかたき、わたしが必ずとってさしあげます」
ウサギはそう約束して、お爺さんの家をあとにしました。
ウサギはタヌキを柴刈りに誘いました。
その帰り道。
カチ、カチッ!
火打ち石の鳴る音がします。
しばらくすると、タヌキの背負っている柴がボウボウと音をたてて燃え始めました。
「熱い、助けてくれー」
タヌキは背中に大やけどをしてしまいました。
ウサギはこのことを、さっそくお爺さんに知らせました。
「まだまだじゃ」
お爺さんの恨みは消えないのでした。
次の日。
ウサギは唐辛子をまぜた塗り薬を作り、やけどをしたタヌキの背中にぬってやりました。
「ひえー」
タヌキはあまりの痛さに、その場で気を失ってしまいました。
ウサギはこのことを、ふたたびお爺さんに知らせました。
「まだたりん」
お爺さんの恨みはそれでも消えませんでした。
数日後。
ウサギはタヌキを魚釣りに誘いました。
海に着くと、そこには二そうの舟がありました。
「きみはこちらの舟だ」
ウサギはタヌキを泥の舟に乗せ、自分は木の舟に乗り、沖へ沖へとこぎ出ました。
「大変だ、水がしみこんできたぞー」
タヌキが叫びます。
泥がとけて、舟の中に水が入りこんできたのです。
あわてるタヌキを見て、ウサギはじっと笑みを浮かべていました。
「タヌキさん、きみには悪いがここで死んでもらうことにするよ」
「なんで、オレを!」
「きみは信用できんのでね」
「あんたが盗めと言ったイモは、ちゃんと山分けにしたじゃないか。それに、あんたが婆さんを殺したことは秘密にし、約束も守ってるのに」
「念のためだよ。きみが死ねば、すべて闇の中になるのでね」
「助けてくれ!」
「きみが愚かだったんだよ」
やがて泥舟はとけ、タヌキの姿は波間に消えてしまいました。
しかし。
海の底に沈んだタヌキの手には、しっかりウサギの耳がにぎられていたのでした。