紅茶
ふと、思い付いたので書いてみました。
不思議な世界観の物語、第2弾です。
誤字脱字が多いと思います。すみません。
考察の為に、感想やアドバイス等よろしくお願いします。評価だけでもかまいません。
「また来たのかい? 君も物好きだね」
彼女は笑いながらそう言った。
艶やかな黒髪が零れ落ちそうになるのを、そっと掬いとって耳に掛ける。
仕草が、彼女という存在そのものが優雅だった。
カップに紅茶が注がれ、湯気が立ち上り、彼女を白く霞ませた。
コトッと、ポットが机に置かれる。
スノーホワイトと、テーブルクロスのワインレッドがお互いを引き立てるように、ランプの光で煌めいていた。
対比。
調和。
彼女は蝶羽のように優美だ。
「べっ、別に僕はここに来ようと思ってはなかったんだ」
拳をふるふると震わせて抗議するも、彼女は気にせずという感じで、ココアブラウンのワンピースをふわりと翻し、近くのソファーに腰掛けた。
「実際に、ここに来ているじゃないか。
ああ、無理に理由を話してくれなくてもいい。しばらく、お客が来ていなかったんだ。
ちょうどいい。私の話し相手になってはくれないか?」
話し相手という位置付けされた少年は、はっと顔を上げた。
そして、うん、と顔を紅潮させて頷いた。
「ここにお座り」
彼女は小さな木でてきた椅子に、少年を招いた。
いそいそと少年は腰掛ける。ぴたりと少年の背丈に合うサイズだった。
「ふむ。少し重くなったようだ。成長したようだな」
彼女は紅茶の入ったカップを少年に勧めた。
おずおずと受け取り、カップの中を覗き込んむ。
水面に僕が映っていた。向こうの僕も、僕を覗き込んでいる。
心がくすぐったい。
むずがゆい。
「温かいうちに飲むといい」
彼女は飲むように言った。
向こう側にいる僕を飲むように言った。
一滴残らず飲み干したら僕はどうなろうのだろう。
僕と僕が融け合い、混じり合い一つになるのだろうか。
そもそも、どうして僕が2人も存在しているのだろう。
水面という境界線で隔てられていた。
ホンモノが分からない。
「おや、どうした?」
いつの間にか、少年の目から涙が溢れそうになっていたらしい。
「僕は、飲めない」
口元から話したカップの水面には、僕は映っていない。
代わりに、天井からぶら下がっている時計を映している。
針は13を指している。
本来ならば、もう帰る時間だ。
「自分から家を出てきたのにもう恋しくなったのかい。
ああ、そうだ忘れていたよ。君は甘いのが好きだったね」
彼女はそっと少年の手を包み込むようにカップに手を添え、角砂糖を入れ始めた。
ひとつ ……ポチャン。
ふたつ ……波が揺れる。
みっつ …………。
カップの底で積み重なっていく。
ゆらゆらと。
セピアの波に揺られる海底宮殿のようだ。
見たことはないけれど。
本当にあるのか知らないけど。
あって欲しい。
宮殿も。
彼女も。
「こんなに入れたら溶けずに残っちゃうよ」
少年はクスリと笑った。
彼女の考えは時々ずれている。
僕のもずれている。
フツウと呼ばれる人々と。
「さっ、それを飲んだら帰りなさい。
話し相手はまた今度でもいいから」
彼女は微笑んだ。
笑い方がひどく懐かしい。
少年はカップに口を付けた。
カップの中は見なかった。
あるのは海底宮殿。
……僕など存在しない異世界だ。
一気に飲んだ。
飲み終わった後は口の中がじゃりじゃりした。
甘い。
彼女は本当にあまい。
僕に対して。
いや、あまくいられるのだろう。
僕のことを何もかも知り尽くしているから。
「ごちそうさま。ありがとう」
カチャリとテーブルにカップを置く。
「また、道に迷ったら来るといい。
まあ、迷わなければ来れないはずなんだがな」
彼女は静かに目を伏せた。
…………。
カップの溶け残っていた角砂糖が音を立てずに崩れた。
少年も音を立てずに消えていた。
空気に溶けていったようだ。
否、彼女の世界に溶け込んでいたのが、再び、向こう側で形づくられたようだった。
「いってらっしゃい。気をつけてね」
最後までお読みいただきありがとうございました。