↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
竜殺し、復讐を顧みる。  作者: 天樛 真
サウスガルム編 血砂の蜃気楼
42/90

42.黒き暴風

 砂漠の上空を飛ぶ竜は複数。整った隊列で空を進んでいる。

 どうやらそれらはエイジ達を目掛けて飛んでいるわけではないようで、ある程度の高度を維持したままリヴァージュ遺跡を通り過ぎようとしていた。

 しかし、かと言って現れた竜を見逃すエイジでは無い。


「高いわね。あれじゃあたしの矢も届かないわ」

「僕の銃もだ。こっちに向かって来てはいるけど、通り過ぎるんじゃないかい?」

「……俺がやる」


 エイジの大剣は抜き放っただけで大きく風を叩き、音を起こした。

 柄を逆手に持ち切っ先を上空に向ける。その体勢を目にしたレンティアは頬を引きつらせて彼に問いかけた。


「まさか……投げるんじゃないでしょうね、それ」

「そうだ。投げて落とす」


 竜たちがリヴァージュ遺跡の上空に差し掛かったと同時に、エイジは全身を使って腕を振るった。

 筋肉が音を立てて軋みそうなほど力を入れ、槍を投げるかの如く空に向かって勢いよく大剣を投げ飛ばす。空気を貫く異質な音を立てながら、大剣は手元で離れたその速度を保ったまま一匹の竜目掛けて飛んでいく。

 そのあまりにも常識はずれな攻撃方法に、レンティアとロイは口を半開きにさせて唖然としていた。


「おっ、当たりじゃの」


 大剣は一匹の竜を見事に貫き、他の竜たちも異変に気付いたようだ。

 隊列を組んで飛んでいた竜たちのシルエットが崩れ出し、その中から大剣を腹に刺した竜が真上から落下してくる。

 エイジは即座に遺跡の大きな柱に足を掛け一気に駆け上がる。柱の頂点で落ちてくる竜を待ち構え、タイミングを見計らって柱から飛び出した。


「……ふッ!!」


 落ちてきた竜に刺さっていた大剣の柄を空中で握り、そのまま腕ごと身体をひねって竜の胴体を斬り裂く。

 恐らくまだ生きていたであろうその竜は腹から頭までを真っ二つに斬り開かれ、絶命して地面に叩き付けられた。

 その竜の屍体をクッションにして着地したエイジを、引きつった顔で迎えるレンティア。

 目の前で起こったわずか一分にも満たない光景に彼女の頭は受け入れがたいものでいっぱいになってしまっていた。


「でっ……でたらめにも程があるわよ! なに今の動き!?」

「すごいなぁエイジ。サーカスでも見てる気分だったよ」

「エイジよ、もうちっと斬る方向を考えよ。わしらの方まで血が飛んできたぞ」

「なんでアンタ達はそんな呑気なこと言ってられるのよ! 剣を投げてあんな高いとこまで届くのもびっくりだって言うのに、それをまるでキャッチするみたいに……!」

「あれくらいおぬしにも出来るじゃろ、狩人なんじゃろ?」

「狩人ってのはあんな人間離れしたデタラメな動きしないわよ!!」


 極めて常識的な意見を荒げた声でレンティアが言うと、彼女らの周りに急降下してきた竜たちが舞い降り立った。

 口元から涎を垂らし殺気だった眼でエイジらを睨みつける竜獣たち。地面が揺れ、四人ともが一斉に臨戦態勢を取る。

 一気に空気が張りつめる中、上空を飛んでいた最後の一匹がゆっくりと翼を羽ばたかせながら降り立ち、その姿を見たフォウが裂くように口角を上げた。


「ロイ、レンティア。おぬしらは竜獣の相手をしておれ、アレはわしかエイジでないと荷が重い」

「……出来ればあたし、竜獣一匹すら相手にしたくないんだけど」

「ちょっと数が多くて嫌《や》になるね」


 ただでさえ大きい竜獣よりも更に二回りほど巨大で、光を呑み込むような漆黒の鱗を纏ったその竜の姿。

 フォウとエイジがその竜の前に出ると、黒い竜は鋭い牙を剥き口を開いた。


「何者だ。ただノ人間ではあるまい」

「確かにただの人間はそこの小娘一人だけじゃの。しかしまさか、上位五竜種の黒竜カロスタフティがこんな所にいるなんて驚いたぞ」

「ほう、我の名を知っておるか人間ノ幼子よ」


 ―――当たり前じゃろ、元の姿で何度か会ったこともあるんじゃから。

 黒竜カロスタフティはフォウやウィルクスカチュアと同じく、上位五竜種と呼ばれる強大な力を持つ竜の内が一角。

 面識がある故にフォウにはカロスタフティの力がどれほどかを良く知っていた。レンティアはもちろん、異界者(フォリナーレイス)のロイでも渡り合うには厳しいと。

 黒竜と戦えるとするならば同じく上位五竜種の白竜である自分か、もしくは規格外のエイジしか居ない。


「まぁの。して黒竜よ、ぞろぞろと竜獣を引き連れてどこに行こうとしておったんじゃ?」

「貴様らにそんなことヲ答える必要は無い。逆に問おう、我々に牙を剥いたそこな男よ。何をしたか理解しているのか?」

「……俺のやるべきことをやったに過ぎん。竜殺しとしてな」


 エイジの目つきが細く鋭くなっていく。カロスタフティを睨む眼は憎悪と殺意に満ちており、有り余る殺意を向けている。

 エイジの背後で竜獣とにらみ合うレンティアは、背中に彼の殺気を感じて息苦しさを感じていた。背骨に沿って巨大で鋭利な刃をぴたりとつけられているような感覚は、身体を震えさせることも出来なくなってしまう。

 仲間だというのに、エイジによって彼女は甚だ恐怖を感じさせられてしまっている。

 隣でその異変に気付いていたロイは冷静に状況を頭で整理しながら、取り出した煙草にマッチの火を移す。恐々としてしまっている彼女がまともに動けない場合、彼女をかばいながらどう戦うか考えながら、ロイはエイジの殺気を少し鬱陶しがった。

 ―――エイジの殺気、強いのはいいけどこっちにまで向けないでほしいな。


「竜殺し、カ! 貴様が!!」

「っ……!」

「おぉっとっ」


 カロスタフティが一喝すると、穏やかだった辺りの空気が一変した。

 エイジらを中心として渦を巻くように旋風が巻き起こり、砂や瓦礫を呑み込んで暴れまわりはじめる。

 カロスタフティは前脚を上げ二足で立ち上がり、翼を広げて咆哮(さけ)んだ。


「貴様ノ様な貧弱な人間が我々に楯突(たてづ)いていたかァ!! 劣等種如きが息巻いたものだナ!! この場で黒竜カロスタフティが粉と化すまで叩き潰してくれるぞ!!」

「……御託はいい。すぐにその頭を斬り裂いて腐った血を砂に吸わせてやる」

「傲岸《ごうがん》! 不遜《ふそん》!! 驕傲《きょうごう》!!! 後悔などする間も無く屠り去ってくれる!!」


 名状しがたい咆哮を皮切りに、竜獣たちは呼応して耳を聾する程の雄叫びを上げていく。

 荒らぐ砂塵の中心で、エイジは大剣を振りかぶり鯨波《げいは》を上げて黒竜に挑む。

 それと時を同じくしてロイも動いた。煙草を奥歯で噛みしめながら、周りを取り囲む竜獣の一匹に向けて走り出し、近づいたところでリボルバーの引き金を引き絞る。

 二度、三度、四度。一寸の狂いもなく竜獣の頭の肉を吹き飛ばし、絶命に至らせた。

 ロイの拳銃はこの世界の物ではない。故に威力は既製のものと比べ物にならず、竜獣程度の鱗ならば簡単に貫通させることができる。とはいえ、銃火器の最大の利点である『遠距離から攻撃可能』という点は流石に捨てなければならなかった。

 標的に対して最低でも10メートル以内に踏み込まねば、竜の強靭な鱗を破壊することは出来ない。


 接近し連射(ヒット)そして(アンド)即座に離脱(アウェイ)。この戦法しか戦う術は無い。

 状況に今一つ精神が追いついていないレンティアの側に戻ったロイは、短く彼女を焚き付けつつ指示を飛ばした。


「レンティア! 竜獣へのとどめは僕が刺す! 君はサポートしてくれ!」

「っ……わ、わかったわ!」


 はっ、と意識をしっかり取り戻したレンティアは矢筒に手をかけ、ロイの援護に回るために神経を集中させて周囲の動きに気を配りはじめる。


「―――ぉおおおおおおッ!!」

「その大振りな剣! この身に届きはせんぞ!!」


 カロスタフティは前脚を振るい暴風を操る。両者の間を分かつようにして渦巻いた風の障壁が発生し、その中から飛び散る砂や瓦礫がエイジの身体を押し戻そうとする。

 エイジは大剣を振り上げ、風の障壁に向けて力の限り刃を叩きつけた。

 実体を持たぬ空気のはずだが鋼の如くびくともしない。高速で渦巻く風は鎌鼬を何十倍にも強力にしたようで、腕に力を入れ押し付ける大剣は鎖鋸(チェインソウ)に噛みつかれているような音を立てる。

 その様子をエイジの後方で腕組み眺めていたフォウは、久しぶりに見たカロスタフティの能力を思い出した。


「エイジ、聞こえるか! カロスタフティは見ての通り風を自在に操る! 障壁を破るには生半可な力では不可能じゃぞ! そればかりに目をやるな!」

「なに……っ?」

「遅いわッ! 竜殺し!!」


 風の障壁の左右から、回転する風が槍のように尖りながらエイジの両側へ襲い掛かる。

 それに貫かれれば肉や骨を粉々に砕かれ、傷口は捩じられ塞ぐことも容易ではなくなってしまうだろう。それが一目でわかるほどに、風の槍は異質なモノを感じさせた。

 エイジは咄嗟に、風の障壁に押し付けていた刃を少し浮かして離す。すぐに刃をもう一度、手首を返して障壁に叩き付ける。そのとき足の踏ん張りを効かせておらず、エイジの身体は弾かれるようにして後方へと傾く。


「ちっ……!」

「非力な人間め、浅くとも知恵はあルか……!」


 その行動によって風の槍に身体を貫かれはしなかったが、回転する風が腕や脚をかすり血が巻き込まれて飛沫となって飛び散る。

 舌打ったエイジはそのまま後方へと退き、カロスタフティから距離を取った。


「エイジ、あやつは上位五竜種と言って四王以外の竜の中じゃ五本指に入る強さを持っておる。"ただの力押し"じゃどうにもならんぞ」

「……どうやらそのようだ」

「しかし安心せい。今回はわしも協力してやる」

「その上位五竜種とやらに、お前の力は通用するのか」


 傷の確認をしながらそう訊いたエイジに向かって、フォウは指の骨を音立てて鳴らしながらにんまりと笑って答えた。


「カロスタフティは上位五竜種の中で一番弱い。……そして、わしは上位五竜種の中で一番強いんじゃ。奴など五分の力で十分じゃからな」


 竜の眼をしたフォウから解き放たれる竜の力。

 昔触れ合ったことがある気配を感じたカロスタフティは何かの気のせいだと、まだフォウの正体に気付けていなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。