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竜殺し、復讐を顧みる。  作者: 天樛 真
イスター編Ⅱ 呪われた町の無頼
24/90

24.HG-路地裏の王

「はぁぁ……ようやく着いたわね、ドルヤガ……」

「出発してから六日……予定より早く着けたのぉ」


 バンサス村を発ってから六日。エイジたちは地別線(ちべつせん)近くの流通の町、ドルヤガへとたどり着いた。

 この六日間の旅は睡眠や休憩を極力少なくしていたため、レンティアはかなり疲れている様子。かたやフォウとエイジはなんのその。涼しい顔をしている。


「だらしがないのぉレンティア、このくらいでもうへばったのか?」

「なっ、そんなわけないでしょ! ちょっと疲れただけよ!」

「おうおう、そう誤魔化さんでもよい。ドルヤガには二日、三日ほど滞在する予定じゃ。情報を集めながら体を休ませておけ」


 ドルヤガの町は人が多く、大通りに出てレンティアとエイジは物珍しそうにあたりをきょろきょろと見まわしている。


 これだけ人が集まっているということは、この町に訪れる贄の暦は周期が長いのだろうか。これだけ人が多ければ、何か一つくらいソルダートの情報が得られるはず。

 二人はそんなことを思っていた。


「とりあえず、あたしは荷物を持って宿とってくるわ」

「金が足りなければお前ひとりでいいぞ。俺たちは必要ない」

「なんじゃとエイジ、わしだってふかふかのベッドで寝たいのじゃ」

「……」


 竜のくせに何を言っているんだと、エイジは目を細めた。どうやらフォウはバンサス村に滞在していたときに借りたベッドの寝心地がよほど気に入ったらしい。


「ベッドは良いのぉ。身体を浮かせるような支え方、シーツの肌触りの良さ、そして枕の柔らかさ……あの心地よさはわすれられん」

「アンタ、今までどういう所《とこ》で寝てたのよ……」

「とにかく! よいなレンティア。エイジの分の部屋は取れんでもいいが、わしの部屋は取るんじゃぞ! 必ずじゃ!」

「ったく……心配しなくても、全員分のお金くらい持ってるわよ……」


 レンティアはエイジとフォウの荷物も預かり、宿屋を探しに行った。ドルヤガの町は結構広く、宿屋も複数あるようだ。出来るだけ安く済ませようとレンティアはそれから何軒も宿屋をめぐることになる。


 残ったエイジとフォウだが、彼らも別行動を取るようだ。


「もう昼じゃ。わしは腹が減ったから適当なところで食事をしてくるぞ」

「……? おい、お前は金を持ってるのか?」

「人間の使う金など持っておるはずがなかろう、硬貨も紙幣も無いわ」

「竜と違って、人間は金を払わなければ食事もできんぞ」

「心配するな。……ほれ、これなら一人分の食事を十分に賄《まかな》える価値があるじゃろう」


 フォウは服の隙間から一つの小さな宝石を取り出した。その宝石は透き通る緑色をしており、形は整えられていないが見る者を魅了する輝きを放っていた。


「宝石、か?」

「鉱喰竜(こうしょくりゅう)という竜がおってな。そいつは石を喰うんじゃが、体内で精錬され、排泄するとこのように宝石になるんじゃ。人間たちの間でも高価な品と聞いておる」

「……なるほど」

「と言うわけで、わしは飯を食いにいくぞ。おぬしはどうするエイジ?」

「俺は町を回る。四王について何か情報が無いか」


 そうしてフォウは近くにあった食堂へ入っていき、エイジはそのまま大通りを歩き始めた。大通りは多くの出店があり、まるで何かの催し物でもある日なのかと思えてくるが、この光景はドルヤガの日常だ。

 店の商人はもちろん、商品を見て回る人々も楽し気な表情を浮かべている。この町は竜の恐怖を感じさせない。その雰囲気に、エイジの心は少し温もりを感じていた。


(……いい町だな、ここは)


 エイジは一つの出店に目をつける。たまたま他の客が近くにいなかったため、話を聞くのに丁度いいと思った。

 そこは店先に看板を出しており、アンティーク・骨董品等々と書かれていた。どうやら古めかしい雑貨を取り扱っている店らしい。


「少しいいか」

「おっ、いらっしゃい。値切りは受け付けないよ~」


 店の商人は髪のぼさついた女性だった。取り扱っている商品と同じく、服装も表情もどこか胡散臭いような雰囲気がある。

 眠たげな目と、へらへらとした笑い顔。尋ねる店を間違えたかとエイジは思ったが、とりあえず話を続けた。


「聞きたいことがあるんだが」

「ん~? なになにぃ。商品の逸話ならいくらでもあるけど」

「いや、この町……贄の暦の周期はどのくらいなんだ?」

「贄の暦ぃ? なんでそんなの聞きたいのぉ? ……まいっか。ここは年に一度って決まってるのよ、戦争が終わって三年が経つから今まで三回だけぇ~」


 なるほど、とエイジは納得した。贄の暦が訪れるのが年に一度ならば、これだけ人が集まり栄え、竜に怯える人が少ないのも頷ける。

 贄の暦というのは基準が無い。半年ほどで訪れるところもあれば、一か月に一度訪れる所もある。それだけでなく、贄の暦自体が訪れない場所もまれにある。

 竜が世界に蔓延しているこのフォウ・ク・ピードだが、それでも竜が現れないところもあるのだ。


 竜も人と同じく、食料が無ければ生きていけない。数の多い竜獣《りゅうじゅう》は主に動物、人間を喰らう肉食だ。食料が多い所に集まりやすい。

 だからこそ、住んでいる人間が少ない地域には竜獣も現れず、結果的に贄の暦も行われない場所も少なからずあるのだ。


 ドルヤガの町は人が多い。なのに贄の暦の周期が一年というのは、きっとこの辺りを取り仕切っている竜の匙加減だろう。


「にしてもさぁ、竜って何考えてるか全然わかんないよねぇ~。四王サマはフォウ・ク・ピードの王様気取ってるけど、あたいたちに何か法を敷いてるわけでもないしさぁ」

「……竜は人間を好き勝手に襲い、喰らう。……王なんかじゃなく、単なる支配だ」

「あぁそれ言えてるぅ~。弱肉強食だもんねぇ、嫌になるよねぇ。あたいらみたいな商人もさぁ、いろんな町に行くのが大変なんだよねぇ。サウスガルムの方へも行けなくなっちゃったしさぁ」

「……なんだと?」


 商人の女性は店に置いてある品を指で撫でながら、目はしっかりとエイジのことを見て話を続ける。


「サウスガルムとの地別線(ちべつせん)のとこにさぁ、竜がすっごいたくさん集まってるんだよねぇ~……戦争の名残でおっきな地割れがあるから、サウスガルムへ行くには街道を渡んないといけないんだけど、竜がいるせいで向こうに行けないんだよぉ」

「……そうか」


 地別線に竜がいるならば都合がいいとエイジは思った。

 その竜たちを殲滅してサウスガルムへ入る。ただそれだけだと。

 エイジは話を聞き終わり、背を向けて他の店に聞き込みに行こうとしたが、骨董品の店の店主はエイジを引き留める。


「あぁ! ちょっと待ってよお兄さん」

「……なんだ?」

「お兄さんが背負ってる剣……刻んである模様が特殊だけど、どこで見つけたの~?」

「……これは俺の故郷にあった剣だ」

「ふ~ん……まぁとにかく結構目立つからさ、フーリガン(H)・ガールズ(G)には気をつけなよぉ~」

「フーリガン・ガールズ?」


 この町の路地裏に住んでいる、盗みを働く子供たちの通称。ドルヤガで商売をする商人からだけでなく、町の住人からも物を盗むフーリガン・ガールズのことはこの町の者なら誰でも知っている。

 ただの盗みを働く子供なら、追いかけて捕まえて叱りつければいいもの。しかしフーリガン・ガールズには誰も手を出せない理由があった。


 過去に、フーリガン・ガールズに商品を盗まれた商人がいた。その男は元々傭兵として生計を立てていたらしく、肉体はたくましく取り扱っている商品は武器や防具だった。

 男は商品を子供に盗まれたことに憤慨し、剣をもって路地裏へと乗り込んだ。盗みを働く者はたとえ子供であっても許さない、殺しはせずとも存分に痛めつけてやると意気込んで。


 しかしその後、路地裏の一画でその男は無残な姿で発見された。

 髪をむしられ、身ぐるみは剥がされ全裸となり。歯は三本を残し全て抜け落ち、体中を穴だらけにして死んでいた。

 そしてその男の側に、一枚の紙きれが落ちていた。そこには男が流した血でこう書かれていた。


『僕たちは生きている。』


 その事件があってから、町の人々はフーリガン・ガールズには一切手を出さなくなった。

 路地裏には極力入らないようにしたのだ。

 傭兵だった屈強な男すらも、子供たちによって惨殺される。正体不明の子供たちは不気味がられ、人々は盗まれないように対策を立てるくらいしか出来なかった。路地裏に逃げ込まれたら終わりで、決して刃向ってはいけない。刃向えば殺されてしまう。


「―――っていう恐ろし~い子供たちだよぉ」

「……そうか」


 エイジは商人の女性が話したフーリガン・ガールズのことを特に気に留めはしなかった。

 もともと自分は盗まれるようなモノをもっていない。唯一持っているこの剣も、子供たちが盗みたがるようなモノではないだろうと。もし盗みに来ても、それを防ぐことは彼にとって容易いことだ。






◆






「―――騎士が使っていた剣が四本に、槍が二本……状態もすごくいいし、これなら高値で売れそうだね」


 ドルヤガの町に張り巡らされた路地裏の一画で、数人の子供が集まっていた。

 子供たちは皆ぼろぼろの服を着ていて、腕や顔も薄汚れている。だがその子供たちの中で一人だけ、格好も雰囲気も違う者がいた。


 上等な上着とズボン、指通りの良さそうなさらさらの金髪。微笑を浮かべる顔は白く、指先も細くきめ細やかな肌。

 その一人だけ雰囲気の違う子供は口に煙草《シガー》を咥え、木箱の上に座って他の子どもたちに指示を出しているようだった。


「21番の路地の商人なら話がわかるはずだよ。そこに持って行って」

「うん、わかったよロイ」

「よし行こう! ロイが言うなら間違いないよ!」

「21番路地の商人はケチだけど、武器には目が無いもんね!」


 ロイと呼ばれたその子供はマッチ棒を取り出し、履いていたブーツの底で擦って火をつけた。咥えていた煙草《シガー》にマッチを近づけて、白い煙をふかす。

 ロイは走っていく他の子どもたちに手を振って、木箱から立ち上がった。


「……そろそろ、僕が居なくてもみんな生きていけるかな」


 一人呟いたロイの元に、さっきとは別の子供が走り寄っていく。汗をかき息を切らしているその子供は、焦りながら早口でロイに話しかけた。


「ロ、ロイ! なんか赤い髪の人が路地裏を走り回ってるんだ!」

「……? もしかして、さっき盗んだのを取り返しに来たのかな? にしても、武器屋の商人は僕らのことをよく知ってるはずだけど」


 ロイは落ち着いた口調で、焦る子供を落ち着かせるように話す。

 余裕のある微笑みを浮かべ話すロイの言葉は、一つ一つがゆっくりと子供の耳に入っていく。その話し方によって、子供の焦りはほつれていく。


「それが、この町の人間じゃないみたいでさ……理由はわかんないけど、商人に金でもつかまされたのかな。剣を持ってるんだ」

「傭兵か何かかな」

「すっごい怖い顔しててさ……どうしよう?」

「……誰であろうと、僕たちの生き方を邪魔する人は放っておけないね」


 ロイは服のポケットから鉄製のシリンダーを取り出し、吸い終わった煙草《シガー》をその中へ入れてまたポケットへしまう。そして腰のベルトに付けていたホルスターの上から、中に入っている無骨なリボルバーを撫でた。


「みんなはその赤髪を相手にしなくていいよ。いつも通りにしてればいい」

「……うん、わかったよロイ」


 ロイは路地裏を慣れた足取りで歩きながら侵入してきた赤い髪の侵入者を探す。

 町の住人ならともかく、旅人がこの路地裏に入り込めば行ける所なんて限られている。そこを目指せば、すぐに見つけられるだろう。

 そう考えながらもロイは、胸のうちで自分の行動を少し憂いていた。


(……町の人が路地裏に入ることは無くなったけど、こういうアクシデントもあるか。……どうすれば僕が居なくなっても、みんなが安心して暮らせるようになるかな)


 目の前さえ見えなくなるくらいに深く考え事をしながら歩くロイだが、路地裏を知り尽くしている故に足は迷うことなく動く。複雑な道を自然に曲がり、足元の崩れて膨らんだレンガも自然に避けて。


 そうして歩きつづけ、ロイは路地裏の袋小路で立ち尽くしている赤い髪の侵入者の元に辿り着いた。


「やぁ、こんなところで何を探しているのかな?」

「……あぁ?」


 目尻をつり上げて額に血管を浮かばせているその者と、涼しい微笑みを浮かべたロイ。

 薄暗い路地裏で二人が出会ったことにより、また歯車が噛みあった。

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