冬の夜、魔導の時間
別の作品のアイデアに悶え苦しんでいたら投稿が遅れました(土下座案件
少なくとも大陸に渡るまではちゃんと書くので安心出来るかは分かりませんがそれで納得して頂けると幸いです。
冬の夜にオレ達二人は林の中を何となく歩く。無論そのまま出てったら凍死待ったなしなので外套持って来て羽織っている。
耳をすましても木々の葉が擦れ合うしか聞こえないような静かな夜だった。
「で、普通に抜け出して来たけども礼拝はしなくて良かったのか?」
ここの孤児院は元々は修道院だ。シスターから聞いた話だと。当時親を失くした子供たちで溢れかえっていたらしく、更に災害の影響で数少なくなってしまった孤児院だけではどうにもならなかったため修道院も子供たちを積極的に受け入れていたらいつの間にか孤児院になっていたとのことだ。
そしてその関係で今の孤児院の生活の端々には修道院だった時の名残がある。礼拝堂と一日4、5回ほどの礼拝が日課なのがそれだ。
さてオレより一日早くここでお世話になっているコイツならその礼拝も知っているだろうし、積極的に和を乱すような性格でもないだろうから礼拝には参加するものだと思っていたのだが。こうやってサボるように外に連れ出させるとは思っていなかった。
「魔導士は神を信じませんから……」
自分が、ではなく魔導士がか。
「別にオレも神様なんて信じてないけども大丈夫なのかそんな不信心で。確か大陸だと教会とかは結構大きな勢力なんじゃ無かったか」
「実際肩身は狭いですよ。ですが魔導の道を進むというのはそういう事なんです。魔導士が最初にやることは神を捨てることと言われるくらいですから」
彼女はそうどこか申し訳なさそうに言った。その様子だとまだ捨てきれてないんじゃないかと思わずにはいられない。
……そう言えばあのサイボーグもロキナのことを落ちこぼれとか言ってたな。
まぁあの男の発言を鵜呑みになんか出来ないし気にしないことにしよう。
「神様の話してもしょうがないか。で? どうしてオレを外に連れ出したりしたんだ?」
話を変えると言うか本来の話に戻す。食後いきなり言われてそのまま付いてきたから彼女が何をしたいか分かっていないし。
「もしかしてまた銃を渡したいとかそういう……」
「えーとその話は、その……、まだ私も決めかねているのでもう少し時間を下さい。今はその話じゃなくて魔導について少しお話がありまして」
「魔導?」
『ここからは私が話そうか』
いきなりオレの頭にヘルメットが現れた。それ、視界がいきなり暗くなって怖いからやめてくれ。
「で、何でお前が出てくるんだよ?」
『君に魔導について教えて欲しいと私が彼女に依頼したのだよ』
ヘルメットを外しながら聞くとそう答えられた。因みに速攻で外したのは、着けながらだと視線とか表情が相手に伝わらなくて話づらいからだ。
で魔導を教えるとかどういうこと? とロキナに視線で問う。
「その、またあの時みたいに強力な魔導を使って倒れられるのも嫌なので。それなら魔導について教えて、ついでに魔導行使に慣れてほしいと言われまして」
あーそれは確かにどうにかした方がいいか。魔導を使う度に倒れてちゃ世話ないものな。
「むしろどうにか出来るものなのかそういうの」
「体力をつけるのと同じようなことです。何度も行使することで身体が適応していくんですよ」
『つまりキミの身体は魔導に関しては惰弱で貧弱。見るに耐えないほど見窄らしいということだ』
「そこまで言われるレベルなの!?」
「いえ、初めてであれだけの魔導を連発出来たのですから寧ろ誇っていいと思いますよ」
ロキナのフォローが無かったらこの暴言ヘルメットを地面に叩きつけていたところだよ。寧ろ凄い方なのかよ……全く。
『それは止めてくれ、ヘルメットが壊れてしまっても直すアテがまだ無いのだから』
そう言われてみたら確かに、壊れたらどうやって直そうか。そもそもこのヘルメットは機械扱いでいいのか?まぁ、今からどうにかできるわけでもないからこれは後で考えればいいか。
「で、今から何をやるんだ?」
「まずアズマさんには簡単に魔導について知ってもらう必要があります」
確かにオレは魔導については、何か不思議な力だな、くらいにしか知らないけども、それで十分だろうしわざわざ細かく知る必要は無くないか?
『知っているのと知らないのとでは天地ほどの差がある。素直に教えてもらえ』
何か腹立つ言い方だな。てかヘルメット、お前は魔導についてどう考えても詳しいだろ。だったらそれで事足りるだろ。
『私の判断が間違わんとも限らない。如何せん私は今を知りようがなかったからな。むしろ私もそこら辺を教えて欲しいくらいなんだよ』
悔しいがコイツはオレより頭がいいのは確実だ。ヘルメットに負けるのは悔しさしかないが事実は事実なので素直にコイツの考えは正しいのだと受け入れよう。
「で、ロキナ先生は何を教えてくれるんだ?」
「先生……そうですね、取り敢えず属性についてお話しましょうか」
何だか一瞬顔が凄い緩んだように見えたが気のせいかな。気のせいだな。いや微妙に口元が緩んでるわ。
「まず、魔導の基本として四大属性というものが存在します。これは火、水、土、風の4つのことです」
そう言うとロキナは杖を取り出す。そして一言唱えると杖先から小さな炎が出た。
「今見せたような炎はその火のエレメントを用いて発動しています」
「その言い方だとエレメントってのは空気みたいに見えないけどそこにあるものってことなのか?」
「鋭いですね……、その通りです。エレメントは不可視の物質ですが確かに今も目の前に存在するものなのですよ」
そんなものが空気中にあるとは普通に驚きの事実だ。今まで知らずにそんな得体の知れないものを体内に入れてたってことなのか。
『別に身体に害は無いよ。敵に利用はされるかもしれないがね』
「利用って怖いな!」
「あはは……確かに可能性はありますけど条件が整った上で直接触れたりしない限りは他人の体内のエレメントは利用出来ませんよ」
何だ、触れられなきゃセーフなのか。……いや触れられないって案外難しくね
「その条件って何さ?」
「それはその人の体内に余程大量のエレメントがある場合ですね。生命に魔導で干渉するのはかなり難しいですから」
『大量というのは外部から見て分かるレベルだから心配する必要は無い。溜まったら魔導を使って消費すればいいのだからな』
見えないものが見えるってのは多分相当なものなんだろうな。埃とか集まるとわかり易く見えるし多分それと同じようなものなんだろう。
『……エレメントを埃に例えたのはお前が初めてかもな』
褒めてるのか? いや呆れてるんですね、悪かったな。
「因みに人によって体内に貯めやすい属性が違っていて。それを魔導個性と言います。そしてこの魔導個性がその人の得意な属性にもなります。私は個性が火なので火が最も得意なんですよ。何回も使ってるからわかり易いですね」
ああ、なるほど。やたら火を使ってたのはそういうことだったのな。人によって得意な属性があるのか。
『因みにアズマ、お前の魔導個性は風だ。すぐ使うだろうと思って契約した時に調べさせてもらった』
へぇーオレは風なのか。既に竜巻みたいなやつも使ってるからそうだろうなとは思ってたけども。
「風は確か極めると自らの身体浮かせられるので空を飛べるとか聞いたことがありますね」
「マジで! 空飛べるようになるの!」
もしそれが出来たら海峡から抜けられるじゃないか!
『海のパンタシアは空のものを掴めるぐらい大きいらしいからそれは多分無理だな』
「何だよ使えねーな」
「て、テンションの落差が激しいですね」
魔導の話でちょっとテンション上がってるのは否定しない。そりゃ多少は普及してるかもしれないけど貧民にとっては夢物語の部類だ。それを学んで使えるんだ、そりゃ感情が昂っても仕方ないだろう。
『さて一通りの説明は終わったか?』
「いえ、後は杖とか魔法陣それに魔語の説明が必要なのでは?」
「杖は無しでも発動に支障がなかったから問題無い。だが魔法陣と魔語はそうだな、一応説明しておいた方がいいか」
「え? 杖必要ないの?」
何か魔法使いっぽいからいらないとは思えなかったんだけど。てか必要でしょ、こう、イメージというかロマン的に。
「いらないな。アレはエレメントを集める補助装備みたいなものだ。無くても十分発動出来るなら有るだけ邪魔だ」
そうなのか。……アレ、杖ないと魔導が発動出来ないって前誰かが言ってたような?
ロキナの方を見るとわかり易く落ち込んでいた。あーうん、触れないでおいた方がいいのかな、コレは?いやでも説明してくれないと困るな。
「……まず魔法陣の話をしましょう」
オレが何か言う前にどうにか立ち上がってくれた。下手に言って爆発する展開にならなくて良かった。
「魔法陣とは魔導に形を与えるための公式のようなものです」
「公式?」
『こうすればこうなると言う物事の繋がりを簡略化して明確にしたものだ』
「例えばそうですね、料理の味付けに塩とかを使いますよね。その塩の量によって料理の味はかなり変わります。なので最も好みの味になる塩の量をわかり易くする必要があります。例えばスプーン2杯と言ったかんじで。このように方式をよりシンプルにすることを言うんですよ」
ああ、つまり最も適した魔導にするためパターンみたいなものか。スリする時もある程度成功しやすいパターンに当てはめてやるからそれと同じだ。
「通常、火の魔導を発動しただけでは先程見せたように杖先に灯るだけです。ですが魔法陣を通すと……第一魔法陣展開、フラム!」
そう彼女は誰もいない空間に杖を向けて唱えると、炎がその空間を喰らい尽くすかのように杖から放出された。
成程確かにさっきの魔導とは炎の挙動が変わっている。
『そこら辺の魔導の制御はコードで充分なんじゃないのか』
「コードだけですと細かい制御が難しいので今じゃ魔法陣を通すのが常識になんです」
『魔道士の腕が落ちたのか……いやより扱いやすいものにして普及させたいのか……』
最後のマーサーの言葉の思念はロキナには届いていなかったようだ。でもオレにはお前の思考は筒抜けなの忘れるなよ。
『お前が余り喋りすぎ無ければ良いだけだろう』
信頼というよりは投げやりに聞こえる言葉ですこと。
「それで今出てきた魔語というのが魔導を行使する際に唱える言葉のことです。呪文と言った方がわかり易いかもしれませんね」
炎とか風のことか。
「実はこれについては詳しい原理はよく分かっていません。一説にはエレメントには意思があり言葉で命令しているのだと言われていますけど、本当かどうかは確かめようがありません」
「えらくフワッとした部分なんだな」
「ええ、ですがそれでもコレは魔導の発動には必ず必要です。ですのでスイッチとか鍵のようなものだと思っておけばいいと思いますよ」
あー確かにアレって押したり挿したりして使うけど理屈はよく知らないもんな。使えるからどうでもいいけどさ。
「さっきマーサーさんが話していたようにコードでの魔導の制御も可能です。ですがそれは出力の制御が難しかったりするので出来れば魔法陣を使った方がいいと思いますよ」
『高出力の魔導なんかはそうかもしれないな。ただ魔法陣を使うとその分出力が落ちるから場合によるとも言えなくもないが』
「魔法陣使うと威力が下がるのか」
「魔法陣も魔導の一種だからな。当然魔力を使う」
ふーんと言った感じで納得する。そう言えばあの時の竜巻の魔導の時も魔法陣が見えたのを思い出す。アレでもしかして威力抑えてたのかよ。
……威力抑えるのに魔力使うのも何か変だな。いや動かないように力を使うのは別に可笑しくないのか。
「今度こそ一通り必要なことは言いましたかね」
教えて貰ったことをまとめると、細かい制御をしたいなら魔法陣が必要だけど派手にやるならコードとやらを唱えるだけでいいってところか。
しかし杖はなんか要らないみたいだけど、ロキナは使ってるんだよな。うーん見た目的になんか欲しいような邪魔なら要らないような。
「えーと本当に大丈夫ですか?」
『心配するな。下らないことを考えてるだけだ』
「下らないとはなんだ、ロマンで悩んでると言ってくれ」
『今の時代にロマンを求めてるやつなんてバカしかいないだろうに』
「ロマンは、まぁ大事ですよね、はい」
分かってないヤツが多いな。クソッ、ルイス何かは分かってくれたんだけどな。寂しいぜ。
『さてざっくりと魔導については教えて貰ったところで実際に私無しで魔導を使ってみるか』
「マーサー、お前抜きで魔導使えるのか?」
『一度使っているのだからもう大丈夫だよあの感覚を思い出せ』
「あの感覚って……何かこう身体の内から外に捻り出す感覚のアレ?」
一度やったから出来るって本当に大丈夫なのかよ。疑惑の目をヘルメットに向けてもしょうがないのでロキナに向ける。
「アズマさんの場合が特殊過ぎるので私も確実とは言えないんですけど、大丈夫だと思いますよ、多分」
そうか、多分か。今の大丈夫って言っときながら根拠は一切なかったな。もう少しどうにかなりませんでしたかロキナさん。
『取り敢えず思い出しながらやってみろ』
無茶だと分かってなさそうなマーサーに急かされる。コイツは本当に微妙に感性ズレてるな、ヘルメットだからと言えばそれまでだけども。
とにかくやれるならやってみたいのでマーサーの言う通りにあの時の感覚を思い出す。
あの時は必死だったからイマイチ何も考えずに動いてたけど、感覚は意外と頭と身体が無意識の内に覚えてくれていた。
覚えていた感覚に従って内にある何かを探し出す。
……見つけた、コレを何かを通して無理やり捻り出して掌に集める
『上等だ。さぁ、コードを唱えろ』
コードは……せっかくだしロキナと同じ……。
「フラム!」
内から外へ流れる水の如く力が出ていく。それは言葉という命令に従ってその形を成して世界に顕れる。
……プスンと情けない音が鳴り響き、手から煙が立ち上る。ただ、それだけだった。
「……え?」
「これは……」
『不発だな』
んー、今の感覚は前と一緒だったよな。何か間違えとは思えないんだけど。
『安心しろ確かに間違ってなかった。ただ……火の適性が全くなかっただけだ』
一人で初めて使った魔導が失敗とか凄い複雑だよ。
「あはは、まぁ適正が無いのは仕方ないですよ。魔導個性は風みたいですし風を使ってみたらどうですか?」
確かにもう使ってるし、マーサーもオレの個性は風とか言ってたから流石に今度は必ず発動するだろ。
先程と同じ要領で内から何かを捻り出して掌に集める。そして今度は唱える言葉は風にする。
「ヴァン!」
掌から外へ何かは出て行く、それは空気の流れを作り出して……。
今度は音すらない。風が見えるわけでも無いから発動したかも分からなかった。
「何で!?」
「魔導個性なんですよねマーサーさん?」
『コレは……』
マーサー被って使うのと自分一人で使うのに何でそんな差ができるんだよ。
『魔力量は人並以上にある、魔導孔に異常がある訳でもない。つまり……』
『アズマ、お前には魔導の才能がこれっぽっちもないと考えるしかないな』
「時間返せー!」
冬の空、街外れの林の中。夢物語に触れられると心躍らせた一人の少年はその事実に慟哭した。
果たしてこの魔導の説明に穴が無いだろうか不安で仕方ない
追記5\14※この作品の次回更新を無期限延長させていただきます。詳しいことは活動報告に書いたので良かったらそちらをご覧下さい。