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8 中庭の交渉 その1

ヴィレとアイリは夕暮れの中庭で向かい合っていた。

「レディを待たすなんて紳士じゃないですね。」


「すいません。こういったことは初めてなもので。

 準備に手間取ってしまって、時間に遅れました。」

ヴィレは両手を合わせ謝るポーズをして詫びた。

その反応にアイリはクスっと笑い表情を崩す。


「告白と考えていいんですかね。いや、なんだかカールに悪いなぁ。」

ヴィレはニコニコしながら、少し恥じらってみせた。


先ほどまで笑っていたアイリは一瞬、思考停止したように無表情になった。

ヴィレの科白の意図を理解すると、アイリは顔を赤らめ慌てだした。


「な、なな。こ、告白だなんて。そんな訳ないじゃない。

 それに、なんでカール君がでてくるのよ。」


アイリは物腰柔らかくいつも落ち着いているように見えるため、その手の冗談も上手く受け流すと思っていたが恋愛事にはめっぽう弱いようだ。


「すいません。少し冗談が過ぎました。」

ヴィレが謝ったことで、ようやくアイリは落ち着きを取り戻す。

こほんとひとつ咳をして、アイリは真剣な表情でヴィレに向き直った。


「あなたを呼び出したのはそういうことじゃないの。

 単刀直入に聞くわ。例の事件のことよ。

 色々と調査しているんでしょう。どこまで解ってるの?」


「やっぱり、そのことでしたか。

 そのことに答える前にひとつ。あなたは私の敵ですか?」


ヴィレは鋭く獲物を狩るような冷徹な視線をアイリに向ける。

アイリは内心怯えながらも、表面上は平静を取り繕いヴィレの問いに答える。


「いいえ。こちらから手出しをするはありません。」


「わかりました。中立の立場だと考えておきます。」

アイリは無言で頷き、それを確認したヴィレは話を続ける。


「例の事件はカール=ピジョー本人が引き起こした事故ということになっています。

 本人もそう言っているし、事実はそうなのでしょう。

 問題はなぜ、その事故が実践の場で起きたかということです。」


「なぜ、とはどういうことですか?」


「【火烈】の詠唱魔法について調べましたが、魔術師を目指す者が初期に学ぶ比較的簡単な魔法であり、ミスの少ない魔法でもあります。

 魔法行使に失敗しても消失するだけす。魔法の暴発を起こすことは考えにくいでしょう。

 そうなると、カールが詠唱したのは別の魔法ということが考えられます。

 だけど、普通は授業中に別の魔法を詠唱するでしょうか?」


「普通はしないわね。別の詠唱魔法を発動して周囲に自慢するにしても、成功する魔法を選ぶわ。

 魔法の暴発を引き起こすなんて教師に見られたら成績に影響するもの。」


「そう思いますよ。

 そこで事件の後に中庭で捜索したら魔法符の燃えカスが見つかりました。

 これは、大量の魔力が消費されたことを示唆しています。

 おそらく、【火烈】ではない、中級や上級の詠唱魔法が唱えられたのではないかと思います。」


「中級、上級の詠唱魔法…。

 カール君はどうしてそんな詠唱魔法を知っているの?」


「知らなかったんじゃないですかね。」


「え、知らなかった?だって、今…。」

そう言いかけて、アイリはハッとあることに気がつく。 

ヴィレは正解だと言わんばかりに頷く。


「詠唱魔法は詠唱するという特性上、詠唱が正確であれば、魔術師の意図しているもの以外の魔法が行使できます。」


ヴィレはアイリの後方から新たな人物が現れるのを確認した。


「つまり、カールが詠唱した時、渡された魔法書が基本魔法書では無ければありえることですよ。

 だからこそ、各班それぞれに魔法書を配布して回ったんですよね。

 そうですよね。サンカネル先生。」


「なぜそう思うんです?ヴィレ=トーサ君。」

アイリは後ろから聞こえてきたサンカネルの声に振りかえり驚き絶句していた。


「カールに聞いたんですよ。行使しようとした魔法は何か。

 そしたら【火烈】だというんですが、詠唱内容が違いました。」

「そこか。少し計画を焦りすぎたか。」

サンカネルは頭をポリポリと掻いて自身の失態を認めた。


だが、カールに詠唱魔法を聞いたというのはヴィレの嘘だ。

例の事件があって以降、カールとは距離を取っており、話を碌にしていない。


やがて、絶句していたアイリだったが、サンカネルの言葉に引っ掛かりを覚えた。

「ということは、先生がこの事件を仕掛けたのですか?何のために。」


サンカネルは無言で答えなかったが、代わりにヴィレが答えた。

「ピジョー家に対する牽制、ですよね。」

ヴィレの言葉にサンカネルは力なく笑い、素直に称賛した。


「すごいね。ヴィレ君は察しがいい。

 そう、その通りだよ。ピジョー家は権力がある。

 しかもその息子の1人は魔術師の才能があるのではないかと言われている。

 政略結婚で有力貴族との繋がりが出来れば、ピジョー家は盤石だ。」


「それだと困る貴族が出てくる。というわけですか。」

「そう。だから、魔術師の才能が無いとなれば、その芽を摘めるだろう?」


「だから、カールに仕掛けたというわけですね。

 けど、あなたも甘いな。人知れず殺せば済むことでしょう?」

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