6 マジックアイテム
事件の翌日、ヴィレとアキトはサンカネル先生に魔法符のことを報告した。
「そうですか、ありがとう。
ただ、このことは他言無用で頼みますよ。
事実が確認できるまでは間違った情報が流布されるのは避けたいと思っているので。」
変な噂がたったら教師としても大変なことになる。
監督責任だけではすまされないだろう。
カールとワルドはその日の夜に寮に戻ってきた。
ただ、二人の表情は暗い。
「復帰おめでとう。無事で何よりです。」
「ああ」
カールは表情を緩め、アキトからの祝いの言葉を受け取る。
だが、目は笑っておらず、何か注意深く探っているようだ。
「それで、何か罰則はありました?」
アキトは心配そうにカールに尋ねる。
カールは少し逡巡した後、2週間の魔法行使禁止を言い渡されたことを告げた。
事件は現在も調査中となっている。
そんな中、カールが再び魔法行使を行って同様の事件が発生することを防ぐ意味合いもあるらしい。
カールの両手首にはそれぞれ腕輪が付いている。
魔法検知の腕輪と呼ばれているマジックアイテムで特徴は登録者が魔法行使を行った時に割れるという点だ。
魔法行使の制限を行うのは難しいため、魔法を使用すると反応する仕組みを取り入れることで判定する。
「今回の事件は教室内ではどういう説明がされている?」
ワルドはアキトに向かって尋ねた。
「まだ何も説明はされていません。」
「教室内では、カール自身の勝手な行動による事故や陰謀論まで様々な噂が飛び交っている。」
質問答えたアキトに補足するようにヴィレが答える。
ヴィレとアキトの調査で出てきた証拠の件はサンカネル先生にも口止めされている。
「何だと!?」
ワルドは激高したようにヴィレの言葉に反応した。
カールはヴィレに詰めかけようとしたワルドを手で制した。
「結局、実際のところ何があったんです?」
アキトはカールに尋ねると、カールは苦虫を噛んだような顔をする。
「結果的には俺が魔法行使したら暴発したんだ。
魔法操作は得意だと思って調子に乗ったツケだな。」
おおよそアキトの推測通りの回答だったが、カールの表情からヴィレは若干の違和感を覚えていた。
この事件はもっと深い何かがあるのかもしれない。
* * *
あの事件が起こってから一週間。
最初こそ様々な噂が飛び交っていたものの、事件から3日後の学院側の事件の説明により一応の収束を見せた。
今回の事件はカール=ピジョーによる魔法行使の失敗が原因の事故であり、事件性は極めて低いものであると結論付けたのだ。
カール本人の口からも自分自身の魔法の未熟さによる事故であると語っており、この事件は幕を閉じた。
なお、学院側の発表について、現時点では未熟であるものの今後の本人の努力によって克服できるものであるとサンカネルは補足した。
これは、魔術師になる可能性が無くなったわけではないという意味であるが、上位学院への進級に大きな枷がついたと言っても過言ではない。
事件の後、ヴィレ達は魔法学の座学の中でマジックアイテムについての説明を受けた。
マジックアイテムは魔法補助の役割を果たすものとして作られている。
魔力供給や自動治癒、防御力強化、呪術耐性など様々なものがある。
その中には、魔法待機と呼ばれるものもあるようだ。
特定の魔法式を事前に登録しておくことで、魔力を供給するだけ発動できる。
また、アイテムの形状も魔法符、指輪や腕輪などの装飾品、杖や剣などの武器に至るまで様々だ。
そこで、ヴィレはマジックアイテムに興味を持ち、図書室にたびたび足を運んでいた。
自分自身の魔力量があまり多くないという致命的な欠点をマジックアイテムで補おうと考えたのだ。
ヴィレは学術書、自叙伝、伝記物などジャンルを問わずマジックアイテムが関わってくる本を積み上げて読みふけった。
図書室には自習スペースがあり、その一角はヴィレが選んだ本がいくつも積み上がり、壁のようになっていた。
どうやら、マジックアイテムは何かしらの制限や条件が付与されるようだ。
魔法符のように1度使うと使えなくなるものや、魔法検知の腕輪のように特定の魔力に反応するもの等様々だ。
また、マジックアイテムは魔力の過剰供給や過剰需要により誤作動を引き起こすケースがあるらしい。
複数のマジックアイテムを併用する場合でも、組み合わせ次第で誤作動が発生したりするらしい。
ヴィレはそこでふと、カールの事件のことを思い出した。
「なるほど、やっぱりか。
そうなるとあの事件は裏があると考えるべきか。」
ヴィレは本を読みながら、ぶつぶつとひとり呟きながら積み上げた
本を読みながら考え事をしていたヴィレは、近くに人が居ることに気付かなかった。
「あら、なにがやっぱりなんですか?」
不意に声を掛けられ、振り向いた先にはアイリが立っていた。
アイリは可愛らしい穏やか笑みを浮かべていた。