54 サイの交渉
夜遅くのガウス教会ウル支部の礼拝堂に、2人の男がいる。
1人はルワン、そしてもう1人はサイ=アーガネットで2人は向き合うように立っている。
ルワンは右手で剣をつかみいつでも斬りこめるように構えている。
一方のサイは右手を右耳に当ててながら、ルワンを見据えている。
サイは右手を耳から放すとイヤホン型マジックアイテムが見える。
そして、静寂を破るようにルワンに言葉を発した。
「どうやらマッケインがヴィレさん達を見つけたようですね。
マッケインの希望も叶いそうですし、こちらも話を進めましょうか?」
サイはイヤホンから流れてくる情報に耳を傾けながらも、視線はルワンから外すことはない。
ルワンは警戒を解かないままではあるが、サイの提案に答える。
「そうですね。
取引と行きたいところですが、私では判断できません。
ふさわしい相手と話をしてもらいます。」
ルワンはそう言うと【通信輪】を起動させた。
『ドルフ様、こちらルワンです。
少々お耳に入れたい話がございます。』
『ちょっ、痛っ。』 ドタタタッ モノが落ちるような鈍い音が聞こえる。
『おお、すまんすまん。ルワンか、どうしたんだ?』
『ドルフ様、お取込み中でしたか?』
『いや、何、気にするな。特に問題ない。
それで、話とはなんだ?』
『ええと、例の件について、取引をしたいと申し出る方がいらしましたので
お話を聞いていただければと思いまして。』
『ほう、そいつは近くにいるのか?』
『私の目の前にいます。』
『わかった。話そう。』
『どうもありがとうございます。
私の名前はサイ=アーガネットと申します。
今回は機会を設けていただきありがとうございます。』
『口上は不要だ。俺はドルフ=ピジョーと言う。
それで、話はなんだ?』
『瘴気に関することにございます。
なんでも、ピジョー家でもその話題に関して捜索されていると聞き及んでおります。』
『ほう、なかなか耳聡いじゃないか。
それで、どんな取引なんだ?』
『私から提供できるのは、瘴気化の薬の情報と入手ルートです。
そして、私の望みは、カネル=ウルハード公爵の失脚です。』
『………。何っ!?』
ドルフはサイの条件に絶句した。それは通信越しのルワンも手に取るようにわかる。
なぜなら、ルワン自身も衝撃のあまり絶句していたのだから。
「何を言っているのかわかっているのですか?」
思わずルワンはサイに問いかえしていた。
「ええ、当然です。
私があなた方に接触を図ったのも、すべてはこのためです。」
『覚悟の上での決断か。
いいな、気に入った。俺はそんな奴は嫌いじゃないぜ。
だが、ピジョー家と接触を図ったのはなぜだ?』
『公爵に異を唱えることができるのがピジョー家しかないからですよ。』
『それはどういうことだ?』
ドルフの声が少し鋭くなった。
『ピジョー家を含めて権力のある貴族はいくつかありますが、ウルハード公爵の影響力は絶大です。
表向き中立を表明している貴族も波風を立てることはしません。
そこに正面から対抗したのは、マルティン=ピジョー様でした。』
『何?親父はなぜウルハード公爵に立てついたんだ?』
『魔族の国への出兵についてです。
以前開かれた議会で、ウルハード公爵は魔族の国への出兵を強く打診していました。
大方がその意見に賛成をしましたが、マルティン伯爵が頑なに反対を表明したのです。
結局、国王が出兵は時期尚早ということで結論を先送りにすることで終わりました。』
『なるほど、そんなことがあったのか。
それにしても、なぜお前さんが詳しく知ってるんだ?』
『私はガウス教会に所属していますから、貴族の方達の様々な情報が入ってきますよ。
教会は貴族との交流の機会も多いですし、秘密保持の原則がありますしね。』
『なるほどな。それであんたも出兵反対派だと。』
『私個人の考えはそうです。ですが、教会としての方針は違います。
教会は出兵に前向きの姿勢を取っています。教会には治癒専門の魔術師を多く抱えています。
出兵に伴い、魔術師の需要が伸びれば、その分教会の権力も増大します。』
『それに儲かるしな。』
『教会のあり方としては間違っていますけどね。
教会上位のものほど、権力と金には執着していますのでそれは変えられないでしょう。』
そう言ったサイは苦々しい表情をしていた。
『おっと、本題からそれたな。
それで取引とはどういうものだ?』
『そうでした。ご存知かもしれませんが、瘴気化の薬というものがあります。
かつて若返りの薬として一部貴族達の間で流通していましたが、効果に個人差があるためあまり使われなくなったものです。
今では改良して薬の成分を少し調整することで効果が出やすくなっており、ガウス教会でも私が訪れる以前からこの薬を研究していたようです。
その研究成果がウルハード公爵によって持ち出されようとしています。
それを阻止するために協力してくれませんか?』




