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52 瘴気の研究

ヴィレ達は今いる部屋の捜索を行っていくことにした。

実験器具や薬品、壁際には本が所せましと並んでおり、何かしら手がかりにかもしれないと思ったからだ。


しかし、予想外だったのは本棚に置いてある本だった。

ヴィレとレインは本を手に取ったが書いてある中身がわからなかった。

というのも、彼らの知らない言語で書かれているものがほとんどだったからだ。


そこで、本棚は異世界人であるコウが担当することになった。

コウは片っ端から本を調べていくが、コウの知らない言語で書かれている本も多数あった。

そんな中、コウは一冊の本に注目した。

その本は他に並べられている本とは異なり、タイトルも無ければ装丁もかなり汚れていた。


「なんだこれ?」そう言いながら、コウはその本を手に取り頁を開いていく。

その本はコウの居た世界の言語で書きつづられていた。

コウの母国語では無かったが、第二言語としてある程度は習っており、内容はうっすらと理解できる。


おそらくこの本は研究日誌なのだろう。

頁の中には仮説と想定されるパターンを洗い出し、それらを試行錯誤で組み合わせていくようなことが書かれていた。

滝水孝の時に仕事でよく試行錯誤を繰り返したことを思い返し、ある種の懐かしさを感じていた。


どうやらこの本には幾つかの研究が並行して実践されているようで研究はみな、経過観察中となっている。

コウは、書かれている研究の一つに瘴気に関する研究をしているものを見つけた。


それは、人為的に瘴気を発現させるエイドファリンと呼ばれる薬物の効果と分析に関するものであった。

エイドファリンを投与することで瘴気を纏うようになる。

このエイドファリンという薬はこの研究室で作られたものではなく、外部で作られた薬を購入しているのだが、効果が不安定であるという欠点がある。

薬を投与してすぐに瘴気を発現することができるようになった者や、いつになっても瘴気が発現できない者など様々がいる。


この研究日誌によると、このエイドファリンを元に調合した薬を被験者に投与し、万人が一定以上の効果を得られるように研究しているらしい。

現在は薬物投与による臨床実験を重ねている段階らしく最終頁では被験者の経過状況が書かれていた。

また、被験者リストもそこに明記されており、リストの中にはマッケインの名前が書かれてあった。


コウが被験者リストからマッケインの名前を見つけたちょうどその時、ヴィレの【通信輪】にはルワンの通信が入ったところだった。

どうやら、マッケインが瘴気を発生させたらしい。

しかもカノンという少女を連れ去って研究施設の方に向かってくるということだ。


ヴィレがルワンに詳細を聞こうとしたところ、【通信輪】の通信が悪くなった。

ノイズが酷く、いわゆる電波妨害を受けているような状況に陥っているらしい。


「こっちに向かって来ているマッケインの自我は残ってるんでしょうか?」


「それはどういうことだ?」

「説明してもらえるかい?」


ヴィレがつぶやいた疑問にコウとレインは反応し、2人ともヴィレに顔を向けた。


「ああ、ええと。

 2人とも、闘技大会のモルブという男を覚えているでしょう?」


2人はヴィレの問いに無言で頷き、ヴィレは話を続ける。


「その時の対戦相手のカノン=マリンドルフは私達の仲間の1人です。

 医務室に運ばれた後、彼女からその試合の時の状況を確認しました。


 対戦が始まる前は会話がスムーズにできていました。

 試合中もお互いをけん制するように時々会話がなされていたようです。

 ですが、瘴気による魔法行使を行い始めてから、モルブの言葉が要領を得なくなっていきました。

 魔法を使えるようになった喜びと過去の鬱憤を晴らすかのような言動を繰り返すようになっていったようです。」


「その話だと、瘴気の発動とともに自我が崩壊していってると言えるな。

 薬による副作用かもしれない。」


「なるほどねー。それだとそのマッケイン君だっけ?

 彼も自我が崩壊している可能性があるんだね。」


「ええ、そうです。

 でも可能性の一つに過ぎません。

 私は過去に瘴気を操る人間と対峙したことがありますが、その時は自我を保っていました。」


「それは多分、薬の個人差だな。

 さっき本を漁ってたら研究日誌が出てきた。

 エイドファリンという薬の効果で瘴気を操ることができるらしい。

 ただ、発現に個人差が出ると書いてたから、副作用にも個人差が出るんだろう。」


コウは研究日誌を取り出して2人に説明しようとした時、部屋の扉が鈍い音をたてて壊された。

そこには、気を失ったカノンをお姫様抱っこで抱き寄せるマッケインの姿があった。


「見つけたよ。ヴィレ=トーサ。

 あんたにカノンは渡さない。

 正々堂々と俺と勝負をしろ。」


そういうマッケインの目は血走り、不気味に笑っていた。

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