51 レインの目的
「闘った時から何か違うと思っていたけど、君も密命を受けていたんだね。
一緒にいる方はどなたかな。
いや失礼。闘技大会の時には見かけない顔だったものでね。
私そういうのは気になってしまう性質なのでご容赦願いたい。」
レインは相変わらずな感じでヴィレに語り掛けてくる。
「ヴィレさん。あの残念な感じの人は誰だ?」
小声でコウが聞いてくるが、若干引き気味だ。
その気持ちは分かるが今はそれどころではないと自分に言い聞かせヴィレはレインに紹介する。
「ええと、こちらにいるのはコウさん。今はガウス協会内に身を置いていますが私の協力者です。
今回の潜入も彼の協力なしでは出来ませんでした。」
「コウ=タキスだ。」
コウは短く挨拶をするに留めた。レインのキャラクターからか警戒をしているらしい。
「そして、この人はレインさん。闘技大会の本選一回戦での私の対戦相手です。
少々キャラクターは濃いですがかなりの実力者です。
本選では私に勝ちを譲ってくださったようですが。」
「レイン=ガードナーと申します。
あの時は体調が万全ではなかったものでね。
それでも、ヴィレ君は僕の剣に対処したことをもっと誇ってくれていいんだよ。
普通の人なら対処もできずに倒れてるはずだったからね。
そもそも…、」
「あ、ああ。レインさんだっけ。あんたの目的はなんだ?
俺たちの敵か味方か?」
コウはレインの話を遮って話の筋を戻した。
「あれ?
ここにいるってことは僕と君達の目的は一致しているものと思ったんだけど。」
レインはおどけた表情を見せるとヴィレ達に答えになってない回答をした。
「それは瘴気を使う技術について、ということですか?」
「そう。さすが僕が認めたヴィレ君だ。思っていることが一致するなんて。
ただ、より正確に言うなら瘴気を扱うための薬の在処について、ということになるけど。」
ヴィレの科白に満足したように頷きながらレインは答える。
「瘴気を扱うための薬だと。」
レインの科白にヴィレとコウは驚いた。
どうやらレインによると、この1年ほど、ウルの街で相次いで失踪事件が起きているらしい。
いずれも被害者は誰一人として見つかっておらず、人攫いか人知れず殺されているのではないかとの見方が有力だった。
失踪事件について調査を進めていくうちに、騎士学院に籍を置く者や魔学院に籍を置く者が多いことがわかった。
それと、失踪者の多くが失踪直前、周囲に悩み事を打ち明けていることが分かった。
今回起きた闘技大会でのモルブ=バディの1件はこの失踪事件にとって重要なカギだった。
モルブは魔族が持っているとされる瘴気を使い魔法行使を実行した後、その代償として本人が消えてなくなった。
もし、今まで発生していた失踪事件がモルブと同様に瘴気を扱うための副作用だったとすれば、被害者が見つからないのも説明がつく。
モルブは頻繁に薬を服用していたことが多数の目撃証言で明らかになっており、レインは瘴気を扱うための薬があったのではないかと睨んでいる。
そこで、レインが調査対象にしたのがガウス教会だ。
ガウス教会は異世界人を多数保護するとともに、異世界知識を取り入れた技術の研究およびその成果を販売している。
今まで公には知られていない知識や技術などを多く秘匿している可能性が高く、その中には瘴気に関することも含まれていると考えた。
また、ガウス教会は異世界知識に関する知識とそれによって産み出される資金力を武器にウルの街での権力が増大してきている。
最近では商人達との商売などを主導するようになり、貴族としてはガウス教会を警戒しているということもあり、ガウス教会の勢いを削ぐ狙いもあった。
レインの任務は瘴気に関する情報と薬の奪取にあった。
ヴィレ達も瘴気に関する調査を行っており、利害が一致することから一時的に協力することにした。
部屋を片っ端から調査しているとき、ヴィレの【通信輪】に連絡が入った。
それは、ルワン達からの通信だった。
『ヴィレ君。すいません。
カノン君が連れ去られてしまいました。
相手は揉めてたマッケインという男で、そちらの研究施設の方向に向かっています。
闘技大会の時とは動きも速さも全然違いました。
それに、瘴気を使っているようです。』




