49 第三者の動き
ドルフに相談したヴィレ達だったが、彼らの心配をよそにドルフは二つ返事で了承した。
ルワンは今にも頭を抱えそうな憂鬱そうな表情を見せる。
上が好奇心旺盛だと下が苦労するなとヴィレは思ったが、ルワンもその気質があるのを思い出し同情するのをやめた。
コウはヴィレ達とドルフの一連のやりとりを見て大変興味をもったようだ。
「そのマジックアイテムはすごいね。
トランシーバーや電話の発想だよ。
これを考えた人はこっちの人?それとも、異世界の知識を持ってる人?
商品化して公に流通してるものかい?
通信を腕に巻くアイテムにしたのは何か意味があってのことかい?」
どうやら【通信輪】がコウの琴線に触れたようで、矢継ぎ早に質問をしてくる。
「えーっと。」
どことなく陰のある印象だったコウが、新しいおもちゃを与えられた子供のように輝かしく質問してくる様子にヴィレは戸惑いを隠せなかった。
だが、コウ自身も我に返ったのか、咳払いをしていったん間を作る。
「すまない。少々取りみだした。
研究を主にしていたもので、つい興奮してしまった。」
「え、ええ。わかりました。
このマジックアイテムを作ったのはピジョー家の方で、我々は貸していただいてるに過ぎません。
なので、詳細はわかりかねます。」
ルワンの回答にコウはあからさまにがっかりした様子だったが、気を取り直してヴィレの方を向く。
「それは残念。
ところであんた、そろそろ試合だろう?
のんびりしてていいのか?」
闘技場から、カノン戦の影響で一時中断していたが再開する旨のアナウンスが流れていた。
* * *
VIP専用の部屋ではカネル=ウルハード公爵が3女イツマールを連れて闘技大会を観戦していた。
カネルはウルの街を統治している公爵で、闘技大会を毎年楽しみにしている。
しかし、今年はそれだけが理由では無かった。
カネルは情報屋から、不穏な動きがあることを耳にしており、その実態調査が目的だった。
カノンの試合が終わり、VIPでも騒然となっていた時、ひとりの男が部屋に入ってきた。
それは、ヴィレに負けた、レイン=ガードナーだった。
レインは部屋にいる警備員のセキュリティチェックを受けた後、カネルとイツマールのもとにやってきた。
イツマールはスカートのすそを少し持ち、軽いお辞儀をした。
「お久しぶりです、レイン様。
今日はあまり調子のよくない日でしたのね。」
レインは最敬礼をし、イツマールにこたえる。
「お久しぶりです。イツマール様。
そうですね。ですが、今では負けてよかったとも思っていますよ。
お美しいイツマール様をお見掛けすることができるので。
そういう意味では、今日の私は絶好調な日といってもいいでしょう。」
「まあ、お上手。」
「レイン、ご苦労だった。
楽しく話をしているところ済まんが時間が無いのだ。
イツマール。ちょっとレインを借りるぞ。」
カネルはそう言って、イツマールにこちらに来るように手のジェスチャーで指示する。
それを受けて、レインはイツマールに謝るような仕草をしてカネルのところに移動する。
「はい、お父様。
レイン様。お時間ありましたら色々お話を聞かせてくださいね。」
イツマールはむくれ表情を見せるがしぶしぶ了承し、離れていった。
イツマールが離れていったのを確認したのち、カネルが口を開いた。
「レイン。娘はやらんぞ」
カネルはイツマールを大層かわいがっており、親ばかっぷりを発揮していた。
「…、心得ております。」
レインは一瞬驚いた表情をしたが、すぐに応答した。
「状況はどうだ?」
「情報屋に接触し依頼をかけていますが、どうやらガウス教会が関わっているようです。
ただ、まだ裏がとれていませんので引き続き探ってもらっています。
なお、この件について、他に嗅ぎまわっている連中がいる模様です。」
カネルの眉がピクリと動く。
「それは、誰かわかっているのか?」
「ええ、その一人は私の対戦相手だったヴィレという男です。
彼に接触を図り、彼のそばには少なくとも2人仲間がいることを確認しています。」
「そうか。」
それだけ言うと、カネルは少し考えこんだ。
「それと、先ほどの試合でモルブ=バディという男が瘴気による魔法行使を行ったとのことです。
おそらく、例の薬を服用したのではないかと考えています。」
カネルはその報告を聞くなり苦々しい表情になった。
「やはりか。
転生者達め、下手に知識を持ってる分厄介な奴らだ。」




