48 コウ=タキスという男
ヴィレとルワンはコウを前に身構えてた。
「おっと、すまない。
敵対しようというわけじゃないんだ。」
「あんた、確かマッケインと一緒にいた奴だな?」
そういって、ヴィレは露骨に嫌そうな顔を向ける。
「決闘騒動の件だな。あれは俺も参ったよ。
マッケインと一緒にいたが無関係だ。」
コウは弁明するが、ヴィレはいまいち信用がおけず警戒したまま尋ねる。
「信用したわけじゃないが、そんなことよりもだ。
さっき、魔法を使えることに喜んでいるとか言ってたな。
舞台袖でもわからなかったのにどうやって内容を知った?」
「それは、俺の作ったマジックアイテムの効果だ。
ほらこれで音を聞いている。」
コウはそう言うと、かぶっていたフードを取り右耳を2人に見せた。
そこには金属製の装置がついていた。
イヤホンと呼ぶもので、耳に収まる形をしている。
特定の音を収集することができるいわゆる諜報系のマジックアイテムのようだ。
「それで、私達の前に姿を現したのには理由があるのですか?」
ルワンの質問にコウは無言で頷く。
「協力したいと思ってな。
といっても、もちろん無料いうわけじゃない。
あんたたち、ピジョー家の者だろ?
俺をピジョー家で保護してもらいたい。」
マッケインのその言葉にルワンとヴィレは訝しんだ。
「あなたはガウス教会に保護されているんでしょう?」
ガウス教会に保護されているということは、わざわざピジョー家の権力を使うまでもない。
むしろ、教会に保護されている人を一貴族が保護するということは教会に正面切って喧嘩を売るということだ。
コウはゆっくりと首を横に振る。
「ガウス教会を知ったからこそ、他に保護してもらわないとヤバいと思ったのさ。」
「ルワン様、どうします?」
「手がかりの少ない現状、彼の持ってる情報は重要でしょう。
一応、ドルフ様に確認してみましょうか。
ヴィレ君、通信を出してください。」
ヴィレは驚き、ルワンに小声で確認する。
「え、ちょっと待ってください。【通信輪】は秘匿技術ですよ?
ばらしたらまずいですって。」
しかし、ルワンは特に気にした様子もなく、コウに聞こえるように答える。
「大丈夫です。遅かれ早かれ彼にはばれます。
なぜなら、彼は魔術技工士ですからね。
そうですよね?コウ=タキスさん。」
ルワンが笑いながら、鋭い眼光でコウを見ているのが分かる。
昨夜のサイ=アーガネットとのやり取りを思い出し、コウは背中から嫌な汗が出てくるのを感じていた。
* * *
滝水孝は、システムエンジニアとして多忙な日々を送っていた。
深夜までの仕事やクライアントからの休日呼び出しなど、目まぐるしい日々だった。
そんなある日、いつものように休日に仕事場への呼び出しがかかる。
オフィスビルに入り、エレベーターに乗り込む。
30階のパネルを押し、エレベーターのパネルが30階を示して扉が開いたとき、急に吸い込まれる感覚があった。
次の瞬間、コウはこの世界に来ていた。
コウが現れた場所は、シュール学院という学校の教室だった。
その日、当直だったユーイ先生が教室を見回りしている時にコウの出現を目撃していた。
コウはユーイ先生の助けもあり、自分の置かれている状況を理解した。
コウは魔法が使える世界ということで喜んだが、同時に得体のしれない恐怖も感じていた。
だから、コウはこの世界がどういう世界なのかを調べた。
この世界の言語は最初は分からなかったが、時間をかけて学んでいった。
自分と同様に異世界の知識と記憶を持った転生者と呼ばれる人間がいることを知った。
その転生者の内の何人かと接触を図ったが、彼らとは大きな隔たりがあることがわかった。
転生者として新しい人生を生きる彼らにとってこの世界こそが居場所であり、異世界の記憶と知識はいわば附属品だ。
しかし、コウはこの世界に転生したわけではない。元の世界から突然転移してやってきたいわば転移者であった。
転移者であるコウは元の世界に居場所があり、この世界では異物のような存在だ。
コウは元の世界に帰還することを目的とし、この世界の特徴である魔法を用いて帰還方法を模索していくことにした。
魔法というものを調べた。魔法書や魔法の文献等を読み漁っていった。
読み解くほどに魔法が万能で無いことを思い知った。
魔法は個人の魔力に依存する。魔法は範囲の指定と効果の調整ができる。
ただ、効果については、魔力量を調整することによる強弱を付ける程度だ。
効果を限定的にしたり、特定部分のみ適用させるような条件付けは上手くできなかった。
さらに、コウ自身は魔力量が少なかったことも、魔法を調査していく上で障害になっていった。
そこで、コウはマジックアイテムに着目することにした。
マジックアイテムは魔法補助が主であるが、場合によっては魔法を簡易行使する事が出来る。
コウはマジックアイテムを研究するため、魔術技工士になった。




