46 敗戦のあと
「やっぱりね。」
舞台袖からマッケインの試合を見ていたカノンはつぶやく。
「わかってたような口ぶりだな。」
カノンの隣にいるヴィレはカノンの言葉に反応する。
「昔から相手が女だと手加減するのよ。
後、相手が戦意を失くしたと思ったらすぐに引くの。」
「なるほど、詰めが甘い奴なんだな。」
「ええ、実力はあるんだけどね。
思い込みの激しさが悪いところに出るのよ。」
昔を思い出したのか、カノンはうんざりした表情をした。
「でも、これで賭けはこちらの勝ちになったし、すっきりね。」
そう、俺が一回戦を勝ち、マッケインが一回戦を負けた時点でこちらの勝利が確定したのだ。
後はドルフからの無茶に答えるだけだ。
「後はどっちが優勝するかだな。」
カノンは無言でヴィレの言葉に頷いた。
* * *
「うわぁぁぁ。」
絶叫とともに、ベッドから飛び起きたマッケインは状況が呑み込めなかった。
周囲を見渡すと、周りにいる修道服を着た人や白衣を着た人がびっくりしている。
どうやら、ここは治療室のようだ。
じょじょに記憶が戻ってくる。そして、顔が青ざめていくのが分かった。
「マジか。」
マッケインはうなだれていた。
思い通りに行かないことは元の世界でもいっぱいあった。
だが、異世界に来てからは違った。
魔力こそ高くなかったが、元の世界で習っていた剣術やゲームの知識を使い上手くやっていた。
最低限の魔法補助は使えるし、マジックアイテムの準備もしていた。
特に今回はサイから切り札を託されていた。すべては順風満帆に進んでいたのだ。
ところが、初戦で負けた。それもあと少しで勝つというところで、切り札を使うこともなくだ。
マッケインは落ち込まずにはいられなかった。
そんなマッケインのもとにロイがやってきた。
「よう。元気か。というわけでもなさそうだな。」
「すまない。色々と手をかけてくれたのに。」
「まぁいいさ。どこがまずかったか分かったか?」
ロイのその言葉にマッケインは無言で頷く。
「それでいい。実践の前に知れてよかったじゃないか。
これからは覚悟を決めろよ。」
そう言ってロイはマッケインのもとから去っていく。
「あ、ロイさん。あれを返すよ。
切り札だといって預かってたけど、もう使わないから。」
マッケインはロイを呼び止める。
「それは持っといてくれ。俺に何かあったと時は頼むぞ。」
ロイはどこか意味深な言葉を残し去っていった。
* * *
「甘いよ。そんなんじゃ無理。」
カノンは身体強化魔法を行使した。
相手の斬撃を剣の刃で弾き、一気に相手の懐に潜り込むと顎を蹴り上げる。
相手はクリーンヒットしたようで宙を舞った後、鈍い音とともに頭から地面にたたきつけられた。
カノンが戦っている相手は、細身の男性だ。
剣の扱いは長けているようだが、魔法を一切使用していなかった。
だから、対戦相手は魔法は使えるレベルに無いのだろうと思っていた。
防御魔法を展開するなどして身体への負担を減らさない限り、普通なら気絶してもおかしくないほどの衝撃だ。
しかし、男は立ち上がった。
男は立ち上がると、カノンに向けて魔法を放った。
魔法を行使したことに驚きながら、カノンは飛んできた炎の矢を防御魔法で防ぐ。
だが、氷の矢が強すぎたのか、防御魔法を貫通して矢が迫ってきた。
辛うじて直撃は避けたが、カノンは少し右腹にダメージを受けてしまった。
急に男は笑い出した。打ち所が悪かったのかとも思ったがどうもそうではないらしい。
「すばらしい。これで俺も魔法を扱える。」
魔法が使えたことを喜んでいる様子だ。
再度魔法が行使された。今度は氷の矢がカノンを襲ってくる。
氷の矢を回避するが、次々と魔法が行使され、やがて回避が間に合わなくなる。
防御魔法を展開するが、先ほどの炎の矢と同様、防御魔法を貫通して矢が飛んできた。
矢のスピードが遅くなっていたため、カノンは矢の回避に成功した。
しかし、防御魔法の効果が薄いことにカノンは焦っていた。
カノンは似たような状況を見たことがある。
それはケインとの一件だ。
ケインの攻撃をサンカネルとヴィレで防いだ時はサンカネルの防御魔法が弱く、ヴィレがフォローしたことで防げたものだと思っていた。
そのため、カノンは防御魔法が破られた後、氷の矢を防ぐときには防御魔法を厚く展開したつもりだった。
しかし、それでも防御魔法を貫通して飛んできたのだ。
相手の言動から、先ほどまでは魔法がうまく使えていなかった。
にも拘わらず、今は防御魔法を貫通するほどの魔法を行使している。
カノンは経験から一つの解を導き出した。
これは、瘴気による魔法行使だ。




