41 闘技大会・予選結果
ヴィレは魔力の保有量が多くない。
本人に確認したところ、一般的な魔力量からは少し多いが、魔術師としては魔法学院に入学出来ないレベルの保有量だ。
魔力量の問題で魔術師の道を断念する人が多い中、ヴィレは険しい道を歩んでいる。
彼はマジックアイテムによる魔力供給を行うことで、少ない魔力量を補っていくスタイルだった。
ルワンはヴィレの欠点を知っているだけに観客席で楽しそうだ。
「さてさて、マジックアイテムの使用を禁じられて彼はどう戦いますかね。」
ルワンは誰に言うでもなくつぶやいていた。
ルワンはウルの街に潜入する際、ドルフから別命を受けていた。
それは、ヴィレを探るというものだった。
ドルフがヴィレという男に興味を持ったのはルワンも目撃していたケインとの戦いがあったからだ。
あの場で、サンカネルを除いて唯一ケインの術を破った男。
だからこそ、カールのもとに居た彼らを理由を付けてドルフのもとに招いたのだ。
後にサンカネルにケインの術のことについて尋ねたところ、おそらく精神感応魔法の類だという。
ただ、サンカネルも知らない術であり、サンカネルが術中に陥らなかったのは自身が精神感応魔法に対する理解の深さと経験によるものだと言っていた。
精神感応魔法は、基本的に共通するプロセスを踏む必要がある。何かのきっかけをもとに術を掛けるのだ。
サンカネルの推測によると、ケインが事前に放った殺気によって体が硬直した反応を利用したのではないかと言っていた。
通常、体の反応による硬直は一瞬だが、その時間が伸びたように錯覚させることで金縛りであるように勘違いさせたのだ。
初見殺しのような術だが、そもそも精神感応魔法への対処は理解と経験がものをいう。
オイオット学院の生徒にはそこまでの経験は積ませていないため、術を破るのは難しいはずだが、ヴィレはそれを成し得たということに、何かあるのではないかと考えた。
ウルの街の調査を行う際の同行者にヴィレ達を指定したのも半分はヴィレを調査するためだ。
ルワンにとって幸運だったのは、ヴィレ達がマッケインとの騒ぎに巻き込まれたことだ。
ヴィレを知る絶好の機会と考えたルワンはこの大会に参加するように動いたのだ。
* * *
試合はそろそろ決着がつこうとしていた。
試合開始直後、選手たちは一斉に四方に散るように移動を開始した後、各所で竹箒を剣のように扱い闘う者や、魔法を駆使して相手を翻弄する者など様々に闘いを見せていた。
身体強化魔法を駆使し、多くの選手のボールを割っていく選手もいたが、魔力が足りなくなり足を止めたところを周囲の選手からの集中砲火によりリタイアしていった。
他にも、竹箒を風魔法で操り遠隔操作しながらボールを割っていく選手もいたが、自身に隙ができたため、そこを狙われてリタイアしていき、最終的に魔法を多く使わない剣術重視の選手が残っていった。
ヴィレは最初こそ、身体強化魔法を使い、闘いのポジション取りをしていたが、特に闘いを仕掛ける様子も見せなかった。
むしろ、たまに流れ弾などを防ぎつつ、失格者が残した竹箒を触れては移動していくだけだった。
気が付けば、残すはヴィレを含めて3人だけになっていた。
人が減るごとに、ルワンはその異様さに気づいていった。ヴィレはあまりにも闘いに遭遇していないのだ。
もともと30人もいて、彼が闘ったのは最初の1回だけ。しかも、たまたま隣にいた選手の攻撃をよけただけだ。
また、ヴィレの違和感は他にもある。闘いが極端に少ないのにもかかわらず、いつの間にかヴィレの竹箒がボロボロになっているのだ。さらに、かなり消耗しているようで立つのもやっとといった様子だ。
ヴィレ以外の2人の選手は肩で息をしているがまだまだ元気そうだ。
竹箒は耐久性が低いため、すぐ壊れてしまうが、2人は竹箒がぼろぼろになると、他の選手が使っていた竹箒を拾って闘いを繰り返していたため、手元にはまだ使える竹箒が残っている。
2人は息の上がっているヴィレを狙うようで、一斉にヴィレに向かっていった。
2人がヴィレに近づいてきた時、ヴィレは不敵ににやりと笑い風魔法を唱えた。
ヴィレが詠唱した【鎌鼬】は2人に避けられた直後、パンッとボールの割れる音が2つ連続して聞こえた。
ヴィレのヘルメットにあるボールだけが割れずに残っていた。
「Dブロックの勝者はヴィレ=トーサ選手だぁ。」
審判が熱く実況している。
一方、敗れた2人の選手は信じられないように茫然としていた。




